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後宮の華は暁に咲く  作者: 麗明
第壱夜:敵国に咲く華
17/23

05

 皇后専属女官及び、下女。

 その地位を掴めた者の未来は明るいとされているが、当代梁麗国皇帝・柳麗帝に限れば、そうとも言い切れないだろう。

 

 柳麗帝は若いながらにも民からの人望も厚く、また、独自の外交力をも存分に生かし、各国の王にすら一目置かれている梁麗の誇り高き皇帝である。

 そんな彼が、己の側妾たちの怒りに触れる様な振る舞いをするとでも思っているのだろうか。

 否、例え側妾が許可を出したとしても、彼は手を出さないだろう。

 

 後宮に仕える女は基本全て柳麗帝の《所持品》ではあるが、それら全てを賄うには時間も無ければ、寵愛を授ける意味も見出せないでいるのが現状だと言うのに、何を期待しているのであろうか。


「なんだ、スウリヤ姫はまた要らぬと返してきたのか。これで何度目になる」


「通算、4度目となります」


 4度目。

 それは柳麗帝が特別に誂えさせたドレスは自分には華美過ぎると、梁麗国と同等か僅かながら劣る国から嫁いできた王族の姫から返品された数である。

 柳麗帝は、その数に、ふっと嘲りの笑みを浮かべた。


「そうか、4度目か。確かスウリヤ殿のお国は今年は食糧難であったな。」


「昨年も日照りで民も疲弊しておりますれば」


「どうやらスウリヤ殿は己の責務を理解してないようだ。おそらくこの地に馴染めないのであろう。――慧迦。」


 柳麗帝に名指しで指名された武官は、その場で片膝をつき、両手を組み合わせ、それを軽く下げた頭と同位置に掲げた。

 その姿勢は恭順の意を表し、滅多な事では捧げられない最高礼でもある。


 だが、その礼を捧げられた本人の心境は複雑だった。


 まるで脅されているようだな。

 薄い青色の瞳に、金色の髪の青年は、どこからどう見ても東和大陸の人間にはない色だが、皇后によれば、彼の母親がシェルランドからの脱国者だと言う。

 彼の国の人間はこちらとは違い、実年齢以上に大人びているとも聞いた。


 さて、そんな彼は自分のこれから問いかける問いになんと答えるであろう。


「お前はスウリヤ殿をどのように扱うべきだと考える」


 コレはある種の試験でもあった。

 ここで彼が自分の求める答えを導き出したのなら、今後も皇后に。されど答えにもならない答えだったのなら、悪いが国に帰って貰おうと、柳麗帝には目論んでいたのだが。


「恐れながら、カザルの国情から鑑みるに、スウリヤ姫の行いから食料の援助を打ち切るなどの同盟の放棄は梁麗国の醜聞となる可能性があります。また、それを切っ掛けに戦をしかけられる可能性もありますゆえ、同盟と援助はそのままに、スウリヤ姫には下女になって頂きましょう。本来スウリヤ姫は表向きは踊り子として梁麗国に参られたとか。ならば、その仕事をして頂けばよいことと存じます。」


 予想を遥かに超えた非情な判断を、武官は言って退けた。


 だが、直にそれも一理あると考えた皇帝は、その場に居合わせた大臣などに目配せをし、鷹揚に頷いて見せた。


「そうだな、妃には舞姫になって貰うとするか。その後、問題があれば言い逃れは出来まい」


 紅い瞳を閃かせ、静覇は国を治める皇帝として、決断を下し、自らの妃の一人を格下げし、事実上の妃の籍から抜き、周知徹底を命じた。


 そして。


「万が一にもカザルからの客人・・の扱いが国外に漏れた場合は、その情報を漏らした人間については、死より過酷な罰が待っていると心得よ」

 

 異国で流行していると言う物語ならば、その国の王は、日陰にいる花に目を向け、寵愛すると言うが、ここは梁麗国である。

 その様な絵空事の如き幼稚な振る舞いは、巡り巡れば己の身を滅ぼす切っ掛けにもなりうる。


 静覇は皇帝なのだ。

 そんな愚かな振る舞いを真似る女如きにこれ以上の時間を割く必要はない。


 もし、ここに皇后が叶っていたのならば、主は皇帝を尊敬の眼差しを向けていただろうと、慧迦は誰にも見られない様に微かに微笑んでいた。

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