神武天皇伝説 ー神武の兄、五瀬命視点ー
「どこの地におったならば天下を泰平にすることができるであろうか。
やはりもっと東に行こうと思う。」
ーー神武天皇が東征の前に、
兄の五瀬命に語ったとされる言葉。
「古事記」よりーー
登場人物
イワレヒコ 後の神武天皇
五瀬命 イワレヒコの兄
ナガスネヒコ 大和(奈良県)の豪族
大伴氏の人々 イワレヒコに仕える一族の人々
第一幕 日向国(宮崎県)の海岸
(イワレヒコ、五瀬命、大伴氏の人々登場。)
イワレヒコ
「兄貴。聞いてくれ。」
五瀬命
「何だ? イワレヒコ。」
イワレヒコ
「どこの地におったならば天下を泰平にすることができるであろうか。
やはりもっと東に行こうと思う。」
五瀬命
「はあ? いきなり何言ってんだ、お前?」
イワレヒコ
「聞いてのとおりだ。分からないか?」
五瀬命
「・・・分からない。
天下を泰平にするって、いったい何の話?
なんで東へ行く必要があるの?」
イワレヒコ
「だから、天下を支配するのに、この日向国では西によりすぎて不便だから、もっと東へ移動するって言ってるんだよ。」
五瀬命
「天下を支配する? お前が天下を支配するってこと?」
イワレヒコ
「そう、俺が天下を支配する。
決まってるじゃないか。他に誰がやるんだよ。」
五瀬命
「なんか急に、天下を支配するとか大口をたたき始めたけど・・・。
なんだ。お前、世界征服でもしようってのか?
あのな、世界征服ってのは、
マンガやゲームに出てくる
悪の組織がやることだぞ。
悪の組織が世界征服をやろうとして、そして
正義の味方の主人公に打ち倒される。
それが少年漫画の王道じゃないか。
お前も知ってるだろう?
お前はその悪の組織になりたいってのか?」
イワレヒコ
「世界征服をやろうってんじゃない。
俺がやるのは日本征服だ。
マンガの悪役なんかと一緒にするな。」
五瀬命
「日本征服も世界征服も、やることは
たいして変わらないと思うが・・・。
日本征服の方がスケールが小さいというだけで・・・。
まあいいや。
しかし、なんで急に日本征服なんかやろうって気になったんだ?」
イワレヒコ
「俺は天から天降った神の子だ。
だから俺が天下を支配しなければならないんだ。」
五瀬命
「自分で自分のことを神の子だとか言い出しやがった!
なんてバチ当たりなことを言うんだ!」
イワレヒコ
「ひかえろ!
俺に逆らうことはすなわち、神に逆らうということだ!
神の怒りに触れるぞ!」
五瀬命
「お前のその言葉こそ、よっぽど神の怒りに触れるぞ・・・。
なあ、イワレヒコ。急にどうしちまったんだよ。」
(大伴氏の人、五瀬命に小声で報告する。)
五瀬命
「え? イワレヒコは昨日、転んで頭を打ちました?
それからずっと、こんなふうなんです?
なんだ。それなら俺に言ってくれれば良いのに。
そういう時は、まず医者を呼ぼう。」
大伴氏の人
「石屋ですか?」
五瀬命
「そう、これから墓を建てる。
…って勝手に殺すな。
誰か医者の徐福先生を連れて来てくれ。
なに? 徐福先生は中国に帰りました?
おいおい、それじゃどうするんだよ・・・。」
イワレヒコ
(大伴氏の人々に向かって)
「そういうわけで、これから東へ向かう!
邪魔するやつがいれば蹴散らして通る!
みんなで天下を取ろうぞ!」
大伴氏の人々
「オーッ!!」
(大伴氏の人々、船に荷物を積み込み遠征の支度を始める。)
五瀬命
「おい! みんな何をやってるんだ?
ばかっ! 本当に行くやつがあるか!
東にはな、ナガスネヒコっていう
おっかない豪族がいるんだぞ・・・。
いきなり東の国に乗り込んで、
天下を支配するなんて
ふざけたことを言ってみろ?
殺されちまうぞ!」
大伴氏の人
「五瀬命さま、遠征の準備ができました!」
五瀬命
「おお、さすが仕事が早いな。…って褒めてる場合じゃない!」
イワレヒコ
「兄貴。遠征の準備ができたぞ!
当然、兄貴も一緒に行くよな?
みんな、兄貴を船にお連れしろ!」
大伴氏の人々
「はいっ!」
(大伴氏の人々、五瀬命を捕まえて船に引きずり込む。)
五瀬命
「わっ! 何をする!
なんで俺まで行かなきゃならない!
いやだ! 死にたくない!
助けてくれぇ!」
(五瀬命、船に引きずり込まれる。)
(幕)
第二幕 大和国
(イワレヒコ、五瀬命、大伴氏の人々登場。
反対側からナガスネヒコ登場。
イワレヒコ達と対峙する。)
イワレヒコ
「我は天つ神の子であるぞ!
降伏しろ!
俺にひれ伏せ!
俺の靴をなめろ!」
五瀬命
「なんてこと言うんだ、やめろ!
ナガスネヒコを怒らせるな!」
(五瀬命、イワレヒコを制止しようとして、大伴氏の人々に制止される。)
ナガスネヒコ
「なんだお前ら!
いきなり押しかけてきて降伏しろだと!?
わしをだれだと思ってる!?
寝言は寝てから言えや!!」
(ナガスネヒコ、弓矢を取り出す。
途端にイワレヒコと大伴氏の人々、五瀬命の後ろに隠れる。)
イワレヒコ
「兄貴、あとは任せた。」
五瀬命
「え? おい、みんな俺を盾にするな。」
(ナガスネヒコ、弓に矢をつがえて、五瀬命を狙う。)
ナガスネヒコ
「お前がこいつらの大将かっ!!」
(ナガスネヒコ、矢を放つ。)
五瀬命
「違うんです!
これはイワレヒコのやつが勝手に…ひでぶっ!!」
(幕)
いかがでしたか?
今回取り上げた神武天皇の東征も、一種の「旅」と見なして、秋の文芸展に参加させていただきました。
なお、前書きの神武天皇の言葉は、
「新訂 古事記 付現代語訳」
(武田祐吉訳注 中村啓信補訂・解説)からの引用です。




