リユース
三角関係のゆくえやいかに。
暖房がきいた十二月のファミレスで、ダウンを着ているのはあたしだけだ。おニューだから着ていたいのではない。何となく脱ぐ気になれないのだ。
あちこちからカップルの会話が聞こえる。今日雪降るみたいだよとか、クリスマスどうしようかとか。四人掛けのボックス席を一人で占領するあたしだけが、楽しいムードから取り残されている。
水滴だらけのグラスのアイスカフェラテは、もう水の味しかしない。レジ横の時計は四時を指していて、そろそろ翔太が来るころだ。
ため息が漏れた。いつもの日曜なら、翔太と古着屋を出て駅前のドトールにいる時間だ。
あたしは古着屋が苦手だけど、翔太はリユース品の激安店が大好きだ。見知らぬ誰かの臭いが詰まった店を次々に巡る。それはあたしにとって、掘り出し物に目をキラキラさせている翔太を眺める以外、何の意味もない時間だった。今はユミがそんな思いをしているのだろうか。
「ちょ、ふたりのダウンおそろやん」
顔を上げると、よれたミリタリージャケットを着た翔太がいた。手には古着屋のレジ袋。大柄な彼の後ろには、真新しい白いダウンを着たユミが唇を引き結んで立っている。ユミのダウンが先週発売のユニクロで、あたしと同じなのは友達だからじゃない。ただの偶然だ。ダウンも一緒、男も一緒なんてシャレにならない。
翔太に促され、ユミが向かいのソファの奥に座った。今日の髪形は韓国ボブってやつだろう。ユミは新しもの好きで、流行は彼女を見ればほぼわかる。
「翔太、古着屋行ってたの」
「俺のサイズのフリースが五百円やで。ええ買い物したわ」
能天気な大阪弁を聞きながら、あたしは二週間前のLINEを思い出していた。
―ユミん家小学校のとなりのアパートだっけ。二回行ってもまだ覚えられへん
―あたし加奈子だけど?
このLINEの直後、なぜかあたしはユミに宣戦布告され、今日に至る。
「なんでユミなのよ」あたしは翔太を睨んだ。
「その言い方何よ」ユミが食い気味に返す。
ユミみたいな女という意味ではなく、あたしはなぜあたしの友達と浮気したのかと聞きたいのだ。多分ユミはわかっていないが、どうでもいい。あたしと翔太の問題だ。
翔太はずっとスマホをいじっている。最近熱中しているオンラインのバトルゲームだ。しきりに画面をつつく翔太を眺めていると、あたしのなかの何かが薄っすらと凍り始める。
「翔太、ゲーム止めてよ」ユミは半泣きだ。
「加奈子と話したい言うたのユミやん。二人で話し合うのが先やろ。トイレ行ってくるわ」
「ずるくない?ここにいて」
「生理現象なんやからしゃあないやん。ほな」
翔太はスマホをよれたジーンズのポケットに突っ込むと立ち去った。ユミにはわからないだろうが、これが翔太だ。それでも彼を好きでいることが彼女としての条件で、あたしはそれをどこか誇らしくさえ思っていた。
でも今は違う。あたしのなかの氷はずっしりと分厚くなっていた。
「ユミ、古着屋巡り楽しい?」
ユミは黙ってテーブルの上のスマホを見つめている。人気ブランドの期間限定モデルだが、半年後には飽きるだろう。ユミは新品以外愛せない女だ。
どうにか一言やり返したい。そうだ。
「わかった。翔太のことはユミにまかせる」
ユミは目を見開いて顔を上げた。あたしは真っすぐにユミを見据えて言った。
「あたしのお古でよければどうぞ」
「お古」ユミの顔がこわばった。
「そう。お古。お下がり」
「ひどい」
「だってそうじゃん。あたしの元カレだよ?」
黙りこくるユミは、少し小さく見えた。
「ちょっと、二人とも何固まってんの」
翔太が戻ってきて、ユミの横にどっかりと座るまであたしたちは動かなかった。
髪の毛一本変わってないけど、あたしはもう前のあたしじゃない。そして多分ユミも。心は決まっていた。
「翔太。あんたとは別れる。これお会計」
あたしはそう言うと、財布から千円札を翔太の前に置いて立ち上がった。ちょっといい女に見えるかな。お釣りは惜しいけど。
出口までダウンを羽織りながら歩く。言い争っているユミと翔太の声はもう聞こえない。
ユミと仲直りするかどうかは、そのうち考えよう。すっきりした気分で空を見上げると初雪がちらついていた。
駅前のカフェでパフェ食べて帰ろ。イチゴたっぷりのやつ。あたしはダウンのポケットに両手をぐっと突っ込み、夕暮れ時の商店街を歩いて行った。




