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リユース

作者: ゆりえ
掲載日:2026/09/15

三角関係のゆくえやいかに。

 暖房がきいた十二月のファミレスで、ダウンを着ているのはあたしだけだ。おニューだから着ていたいのではない。何となく脱ぐ気になれないのだ。


 あちこちからカップルの会話が聞こえる。今日雪降るみたいだよとか、クリスマスどうしようかとか。四人掛けのボックス席を一人で占領するあたしだけが、楽しいムードから取り残されている。

 水滴だらけのグラスのアイスカフェラテは、もう水の味しかしない。レジ横の時計は四時を指していて、そろそろ翔太が来るころだ。

 ため息が漏れた。いつもの日曜なら、翔太と古着屋を出て駅前のドトールにいる時間だ。


 あたしは古着屋が苦手だけど、翔太はリユース品の激安店が大好きだ。見知らぬ誰かの臭いが詰まった店を次々に巡る。それはあたしにとって、掘り出し物に目をキラキラさせている翔太を眺める以外、何の意味もない時間だった。今はユミがそんな思いをしているのだろうか。


「ちょ、ふたりのダウンおそろやん」

 顔を上げると、よれたミリタリージャケットを着た翔太がいた。手には古着屋のレジ袋。大柄な彼の後ろには、真新しい白いダウンを着たユミが唇を引き結んで立っている。ユミのダウンが先週発売のユニクロで、あたしと同じなのは友達だからじゃない。ただの偶然だ。ダウンも一緒、男も一緒なんてシャレにならない。

 翔太に促され、ユミが向かいのソファの奥に座った。今日の髪形は韓国ボブってやつだろう。ユミは新しもの好きで、流行は彼女を見ればほぼわかる。


「翔太、古着屋行ってたの」

「俺のサイズのフリースが五百円やで。ええ買い物したわ」

 能天気な大阪弁を聞きながら、あたしは二週間前のLINEを思い出していた。

―ユミん家小学校のとなりのアパートだっけ。二回行ってもまだ覚えられへん

―あたし加奈子だけど?

 このLINEの直後、なぜかあたしはユミに宣戦布告され、今日に至る。


「なんでユミなのよ」あたしは翔太を睨んだ。

「その言い方何よ」ユミが食い気味に返す。

 ユミみたいな女という意味ではなく、あたしはなぜあたしの友達と浮気したのかと聞きたいのだ。多分ユミはわかっていないが、どうでもいい。あたしと翔太の問題だ。


 翔太はずっとスマホをいじっている。最近熱中しているオンラインのバトルゲームだ。しきりに画面をつつく翔太を眺めていると、あたしのなかの何かが薄っすらと凍り始める。

「翔太、ゲーム止めてよ」ユミは半泣きだ。

「加奈子と話したい言うたのユミやん。二人で話し合うのが先やろ。トイレ行ってくるわ」

「ずるくない?ここにいて」

「生理現象なんやからしゃあないやん。ほな」

 翔太はスマホをよれたジーンズのポケットに突っ込むと立ち去った。ユミにはわからないだろうが、これが翔太だ。それでも彼を好きでいることが彼女としての条件で、あたしはそれをどこか誇らしくさえ思っていた。

 でも今は違う。あたしのなかの氷はずっしりと分厚くなっていた。


「ユミ、古着屋巡り楽しい?」

 ユミは黙ってテーブルの上のスマホを見つめている。人気ブランドの期間限定モデルだが、半年後には飽きるだろう。ユミは新品以外愛せない女だ。

 どうにか一言やり返したい。そうだ。

「わかった。翔太のことはユミにまかせる」

 ユミは目を見開いて顔を上げた。あたしは真っすぐにユミを見据えて言った。

「あたしのお古でよければどうぞ」

「お古」ユミの顔がこわばった。

「そう。お古。お下がり」

「ひどい」

「だってそうじゃん。あたしの元カレだよ?」

 黙りこくるユミは、少し小さく見えた。


「ちょっと、二人とも何固まってんの」

 翔太が戻ってきて、ユミの横にどっかりと座るまであたしたちは動かなかった。

 髪の毛一本変わってないけど、あたしはもう前のあたしじゃない。そして多分ユミも。心は決まっていた。

「翔太。あんたとは別れる。これお会計」

 あたしはそう言うと、財布から千円札を翔太の前に置いて立ち上がった。ちょっといい女に見えるかな。お釣りは惜しいけど。


 出口までダウンを羽織りながら歩く。言い争っているユミと翔太の声はもう聞こえない。

 ユミと仲直りするかどうかは、そのうち考えよう。すっきりした気分で空を見上げると初雪がちらついていた。

 駅前のカフェでパフェ食べて帰ろ。イチゴたっぷりのやつ。あたしはダウンのポケットに両手をぐっと突っ込み、夕暮れ時の商店街を歩いて行った。


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