動き出す影たち
昨日更新したかった...
────そんなわけで僕は、図書室に向かっている。
え?生徒会の選挙を見に来ただけじゃないのかって?
僕が早く登校したのはもともと、先輩から図書委員の呼び出しがあったからだ。
図書室に着くと、窓付きの扉が暗く陰っていることが分かる。
誰も居ないだろう図書室に、僕は気にせず入っていく。
「...用件は?」
「用件も何も、先輩に呼ばれて来たんですけど」
どこからともなく、女性の声が聞こえてくる。
普通なら驚くだろうが、何回もやられていれば予想も出来るというもの。
図書委員の先輩、宵崎 透華。
適性は『透化』であり、文字通り物を透明に出来る魔法が得意。暗い所が好きらしく、図書室が暗いのは宵崎先輩が電気を消しているからだ。
「それで、話というのは?」
もはや宵崎先輩の姿が見えないことなど気にもとめず、僕は呼ばれた意味を問う。
多分無くなった本とか、本棚の整理のことだと思うけど。
「もう内容聞いちゃう感じ?せっかちだなぁ...まぁいいけど。一言まとめるなら、警告かな?」
「警告...?」
聞き慣れない単語に、僕は眉をひそめる。警告...ふと今朝の出来事が思い浮かび、先輩の真剣な顔つきからも、ふざけたものではないと判断する。
「最近、研究所の人たちが何かを探しているっぽくてねぇ...だから乱暴なことをされないように、って昨日先生達から通達があってね。一応伝えておこうと思って」
確かにここへ来る途中でも数人、白衣を身に着けた人物を見かけている。僕達の学年でそんな話は出なかったし、上級生だけに通達されたらしい。
「...成る程、お気遣いありがとうございます」
「うんうん、先輩からの老婆心だと思って受け取ってくれや」
「老婆という齢じゃないでしょうに」
「あはは、まぁ気をつけてね〜」
予鈴が鳴り、僕は図書室を出ていく。
残ったのは、胸がざわざわするような予感だけ。
一体何が起きているのか。そんな疑問を抱きながら、僕は教室へのろのろと歩いていった。
「ほら席につけ〜ホームルーム始めるよぉ〜」
のんびりとした口調で、派手な髪色をした担任が、教室の扉から入ってくる。
僕は武尊や忍と別れ、自分の教室に来ていた。
...学生だから、これは普通なんだけど。
何気ない先生からの通達に、先輩から聞いたあの話は入っていなかった。この学校の先生達は研究所に所属する人だし、むやみに評判を下げるようなことは出来ないのだろう。
「──これで通達は以上。じゃあ全員、授業の準備とかしておいてね〜」
ちら、と視線を向ければ、生徒達が次の授業のために慌ただしく動いているのが分かる。僕も同じように...と思ったところで、担任から呼び出しをくらった。
「...もしかして、いつものかな」
呼び出しに応えないわけにはいかないため、僕は廊下に出て先生と相対する。
「やっほ〜望門君、最近どう?」
七邸 彩先生が、気軽にそう問いかけてくる。
常にふわふわとした態度から度々校長に注意されているが、生徒には親しみやすい女教師として知られている。
ただ少し天才肌というか、感覚で物事を捉えている節があり、授業はわかりにくい。
「まぁ、ぼちぼちです」
「そう?なら良いんだけど」
七邸先生は僕の過去のことを知らされているらしく、たまにこうして話や会話をしてくれる。多分、他の生徒にも同じようなことをやっているんじゃないだろうか。
僕に元気がない時、親友の次に頼れる人だと思う。
「ホームルームでは伝えなかったけど、研究所が動いてるって話...知ってる?」
「はい。教室に来る前に、図書委員の先輩から聞きました」
「おっと、話が早くて助かるね。望門くんは魔法、使えないでしょ?くれぐれも首を突っ込むとかしないようにね〜」
魔法が、使えない。
もう言い、言われ慣れたものの、やはりガツンと頭を打たれるような言葉だ。
武尊も忍も、それを気遣っているのか、僕の前で魔法を使わない。
軽蔑する意図ではないことは分かっているが、気を抜けば表情に出てしまう。僕は先生に悟られないよう、にっこりと笑顔を作る。
「忠告、ありがとうございます」
授業5分前のチャイムが鳴り、廊下にいた生徒達がバタバタと教室に帰っていく。
僕も先生も別れの言葉を告げ、自分のやるべきことへ戻っていった。
──望門が出ていったあと、透華は図書室に残っていた。
授業があるというのに、微塵も動く気配は見せない。
(さて、用事は済んだし...あとは報告を待つだけ、かな?)
その時、図書室の扉が開かれる。
見れば白衣を着た...望門のところへ来ていたあの少年が、肩で息をしながら立っていた。
「ちょ、諜報員様...ご報告が」
彼は誰か別の人物を呼んだ訳では無い。透華は自分の別の名前に、迷うこと無く応える。
「お、やっと来たねぇ...それで、内容は?」
「はい。その...天雲 社の足取りについてなのですが、団地の何処かに入ったということしか分からず...」
ある程度予想していた内容に、透華は溜息をつく。
「...成る程、まだ尻尾は掴めていないか」
「はい、申し訳ございません...」
見た所同じ組織の幹部、そのどれかの部下だろう。透華は少年に背を向けたまま、手を振って退出を促す。少年は上司と同じ肩書を持つ彼女に微塵も歯向かう意志など見せず、とぼとぼと廊下を歩いていった。
後に残ったのは、そのあとに続くようにして出ていった透華の呟きだけ。
「...はぁ、副所長サマも、けっこう強引な手段に出たよねぇ。親友がすごい顔してたし」
その呟きすら風にかき消されると、透華の姿もまた見えなくなった。
小説って、難しい(KONAMI感)




