波乱の幕明け
本日2話目です
機械的な目覚ましの音が、僕の頭の中で響く。
時計の針を見れば、もう7時であることを指していた。
「...昨日は、色々あったな」
社という少女に、研究所の存在。
予想が間違っていなければ、相当面倒なものだろう。
「朝食はパンでいいか...ん?」
その時ふと、テーブルの上に何かが置かれていることに気づく。
これは...手紙、か?
きっちりと綺麗な文体で書かれた手紙には、こう書いてあった。
『望門さんへ
泊めていただき、ありがとうございました
朝日を見れなかったのは残念でしたが、私はこれから島根に戻るつもりです
改めて、さようなら
追記:冷蔵庫にサンドイッチが入っています、よければ朝食にどうぞ』
おそらく、昨日の料理を食べたからだろう。冷蔵庫を見れば、手紙のとおりにサンドイッチがラップにくるまれて入っていた。
「...はは、お気遣いどうも」
暗に料理が下手なことをからかわれている気はするが...これはこれで、悪い気はしない。
僕はサンドイッチを口に放り込み、さっさと朝食を済ませてしまう。
「これ美味しいな...それじゃ、そろそろ登校しないと」
時計の針を見れば、すでに半分を回ったところだ。今日は少し用事もあるし、早めに学校に着いておきたい。
玄関で社の靴がないことを確認し、僕は靴を履き替える。
戸を開け、いざ学校へ──といったところで、家の前に誰かが立っているのに気付いた。
灰色っぽい髪色をした、僕と同い年ぐらいの少年。首から上だけ見ればただの学生だと割り切れただろう──しかし少年は白衣のようなものを身に着けており、なにより僕をじっと見つめている。明らかに只者ではなさそうだ。
僕は少年に目を向けないよう気をつけつつ、その脇を通ろうとする。だが...
「おい、お前」
肩に手を置かれ、呼び止められてしまった。
おかしい、特に知り合いでもないし、僕に聞くことなんかほとんどないような...
「このあたりで、白髪の少女を見なかったか?」
──ドクン、と。
心臓が大きく躍動し、口から飛び出すような感覚を覚える。
なるほど、こいつが例の研究所の追っ手だろう。聞いてきた内容から察するに、完全に撒けたわけじゃなかったようだ。
ここで社について話しても、特にいいことは無いだろう。僕は気取られないよう、しらを切ることにした。
「...いいや、昨日は家に帰って外に出てないから、見かけてないと思うぞ」
「...そうか、協力に感謝する」
少年は肩を落とし、がっくりとうなだれる。その後、僕が行く通学路とは逆の方へと歩いていく。
「...まぁ見たと言っても、ここにはもう居ないだろうけど」
そうつぶやき、僕は足早に通学路を進んでいった。
────私立、八百万学園。
ここには八百万という名前に負けない多種多様な生徒が通っている、ある研究所がスポンサーについている学園だ。白を基調にガラスやパイプが張り巡らされ、まるで昔流行っていたライトノベルに登場する近未来的な建物を彷彿とさせる。日本の中でも1、2を争う有名校だし、名前を知らない日本人はほとんど居ないだろう。
僕は生徒達に紛れ、学園の校門を通り抜ける。
「あー...この時期は生徒会選挙だっけ」
少し歩いた先に、しっかりした台に乗った、胸にタスキを掛けた生徒達が道の左右にずらりと並んでいた。
拡声器で演説をしていることから、僕は生徒会の選挙があることを思い出す。
「お前も参加しないのかよ、望門」
「勘弁してくれ、僕は人前に立つのは...」
その時突然、後ろから名前を呼びかけられる。反射的に答えてしまったが、この声は...
「よぉ、望門」
「おはよう、望門」
片方は体育会系のがっしりした体格を持つ、緑髪の少年。
もう片方はスレンダーな体型の、金と黒が混じった髪の少女。
「やぁ、武尊、忍」
疑いようもなく、梨反 武尊と光陰 忍だった。
武尊も忍も、僕の親友だ。
「二人とも、今日は早いんだね?」
「まぁな、たまには選挙を見るのも悪くないと思ってよ」
「私もだ」
二人はいつも、僕と同じくらいの時間に登校してくる。特に、忍は朝が弱い。基本的に遅めの時間にやってくるのだが...どちらも、今日の選挙のことを覚えていたらしい。
「さすが婚約者達ってところかな?二人して同じ時間に来るなんて」
「「ちょっと待て、その言い方は悪意があるだろう!」
ほら、息ぴったり。
武尊はこの学校のスポンサーをする研究所の所長、その息子だ。忍も有名な家の出で、二人は将来結婚することが決まっている、言わば婚約者同士。
まぁ、本人達は不本意らしいけど。
「だいたい、俺がこんな堅物とうまくやれると思うのか?」
「なんだと!お前がだらしないからだと言うのに...私は普通だろう?」
あーほら、始まったよ。
ぎゃいぎゃいと二人は騒いでいるが、僕は止めに入るようなことはせず、すました顔で道を歩いていく。
「あ、おい待てよ!」
武尊がすたすたと先頭を歩く僕に気づき、追いかける形でまた合流する。
だいたいいつもこうなるし、いい加減僕だって慣れた。
「喧嘩するほど仲が良い、というのも考えものだね」
ぼそ、と呟いた言葉は、また口喧嘩を始めた二人には聞こえないだろう。
昨日と、そして今朝あったことはまたあとで話そうかな。
書きたいことを全部書いたせいでうまく1話にまとまらなかったような...
次回から、本格的に動かしていきます




