風に吹かれた花びら
初投稿(大嘘)です
────少女は、逃げていた。
迫りくる追っ手の数はいつの間にか1人から10人に膨れ上がり、数ある出口から「行かせまい」とあらゆる手段で拘束を試みる。
そしてその背後からゆったりと歩く、赤髪とハイライトの消えた目を持つ、白衣を羽織る女。
────少女は、逃げていた。
あの赤髪の女は、自分を実験対象にしようとした。
さらに何やら不思議な力を使えるようで、行く先々に彼女の手下がいたのは、きっと偶然ではないのだろう。
追ってくる全員が黒い装いに身を包み、顔が分からない。
────少女は、逃げていた。
何故ここにいるのか、それすらも分からずに。
──キーン、コーン、カーン、コーン──
授業の終わりを告げるチャイムが鳴り響き、生徒達は帰宅の準備を始める。
「──!!」
「─?──!」
いつしか生徒達は授業があったことなど忘れ、近くの友人達と他愛もない喧騒を作り上げていく。
そんな中、一人の少年が教室の扉から、クラスの誰からも気付かれず廊下へと踏み出した。
廊下も同様に、帰宅する生徒と、それに伴う会話のキャッチボールが繰り広げられている。少年はそんなものを気にもとめず、そそくさと下駄箱へと向かう。
友人はあいにく部活や委員会で忙しい。彼は黒に染められた革の靴に履き替え、一人寂しい帰路を歩いてゆく。
20XX年、突如として人類は『魔力』に覚醒した。
魔力には人によって様々な性質があり、実に100種以上の『適性』とでも言うべき括りがあることが今では広く知られているが、当時の世界は大混乱だった。それから10年間、日本では魔力の研究が進み、「魔法国家」として世界中で見てもあらゆる面で引けを取らない大国へと発展を遂げることとなる。
そんな誰もが心躍る世界となった中で産まれた彼の名は、鏡面 望門。魔力の適性が分からず、今まで一度も魔法など使ったことのない、ごく普通の人間だ。
秋風の吹く大通りに差し掛かり、彼はひとつ溜息をつく。
5年前、まだ激動の時代が収まっていなかった頃。彼と...今はもう居ない家族は、ある事件に見舞われた。
魔力の覚醒した人間達による、無差別な殺傷事件。どこにでも力に溺れ、そして性格がねじ曲がる人間はいる。それが、彼とその家族を襲った。ただそれだけのこと。
しかし事実として家族はこの世を去り、彼はこの世界で──独りになってしまった。
友人からは何度も心配の言葉をかけられ、先生や近所の方からは数え切れないほどの励ましの言葉をもらった。
彼は言葉を受け止め、どうにか普通に生活出来るようにはなった。だが...こう思わずにはいられないのだ。
─────魔法が使えたらなぁ、と。
「...いいや、もう割り切ったんだ。今更こんなことを考えたって仕方がない」
彼は思考の中で、それを「否」と断ち切る。過去は変えられず、また過去によって未来も決定されてしまう。故に悔いることはあれど、彼にとってはそれだけなのだ。
「あれ、もう家か」
気づき顔を上げれば、”人がいた"頃と同じように大きく、それでいてどこか虚しさを感じさせる家が望門を待っていた。
父や母が奮発して買ったこの家は、当然だが望門に相続された。彼が戸を開くと、広々とした玄関が彼を出迎える。望門はいつものように靴を脱ぎ、ひんやりとした床を靴下越しの足裏で踏みしめ、リビングの扉を開いた。
考え事をしていなければ、彼は”違和感”に気づいたのかも知れない。
玄関にはもう一つ、靴が置かれていた。
自分の部屋へ荷物を置きに行くために、キッチンを横切り、誰も座っていないダイニングテーブルを一瞥し、日没前の夕陽の光を落とす、100インチのテレビの前に置かれたソファの左隣を通ろうとする。
ダイニングテーブルは人が座っていたかのように、一つの椅子が引き出されていた。
「...ん?」
それらの違和感が積み重なったからだろうか、彼はそこでようやく、ソファに何かが横たわっていることに気づく。
「............は...?」
彼からこぼれたのは、驚愕により呆けた声。
まぁ、無理もないだろう。
濃い白色の髪と、美しさと可憐さを兼ね備えたように整った顔を持つ、発育の良い体つきをした美少女が、目を閉じ、ソファで眠っていたのだから。
…待て、一回落ち着こう。落ち着けなくても一旦冷静になろう。うん。
まず、僕はこの少女を知らない。こんなに...そう、可愛い顔をしていたら目立つし、一度しか会って無くても覚えているだろう。ただ、僕の記憶には存在しない。となると...
「...どこから入ってきたの?」
記憶が間違っていなければ、今日は窓に鍵を掛けていたはずだ。リビングにいるってことは、その付近から入ってきたと考えるのが普通だろう。でも窓を割った形跡はないし...家の窓、結構大きいから割ったら近所の人が気づく。そうなると玄関から入ってきたってことになるんだけど、確実に鍵は締め...
そこで僕は両手で顔を覆い、背を後ろに反らす。
「鍵、掛けるの忘れてた...」
痛恨のミスに、思わずそんな言葉が漏れる。流石に締めてると思うじゃん...まぁ、そこは仕方ないか。過去は変えられないし、今のこの状況をどうにかするしかない。
「...起きないな」
不法侵入とは言え、気持ちよさそうに寝ている顔を見れば起こすのは気が引ける。ましてや背丈から見て中学生、高校生の女子に触るのはやりたくない。
「うーん、起きるのを待ってても仕方ないし...ちょっと早いけど、夕飯にするか」
僕は赤々と室内を照らしている光が弱まっているのを感じ、おもむろにキッチンへと向かった。
頑張って更新しないとなぁ...




