8話 約束
役小角は、フランの家へ向かっていた。
手にしているのは、夕食の残りでもらった牛肉。
量が多かったため、自然と「フランの分」を母ニーナが用意していた。
月明かりの下、あぜ道を歩く。
ロッキの家から3分ほど。
家には、まだ灯りがあった。
――コン、コン。
ノックをすると、間を置かず声が返る。
「誰?」
「あ、ロッキです。夜分にすみません」
ぱたぱたと足音。
勢いよく扉が開いた。
「ロキ坊? どうしたの?」
「肉のおすそ分けです」
紙に包まれた牛肉を見るなり、フランの目がわずかに輝く。
「……どこで?」
「父上が依頼先から」
「こんなもの貰ったって完了報告に書いてなかったわよ、おじさん」
むっとした顔。
だが、すぐにため息をついて言った。
「……まあいいわ。入って」
部屋に通されると、フランはすぐに肉を焼き始めた。
手際がいい。
「ロキ坊も食べる?」
「いえ、僕はもう」
「そう」
1人分の皿が、テーブルに置かれる。
仕事中の厳しさはなく、
そこにいるのは、17歳の女の子だった。
ふと、小角は気づく。
「あれ……?」
目線が、いつもより近い。
「フラン姉さん。身長、低くなりました?」
――ピシッ。
空気が凍った。
「……」
睨まれる。
「……知ってて言ってるよね?」
「え?」
「わたしが身長気にしてるの」
フランは、少し顔を赤くした。
「靴よ。……仕事の時は高くしてるの」
なるほど、と小角は納得する。
「……それで?」
急に、声が低くなる。
「肉を持ってきただけ?」
「はい」
「嘘。復帰の説得を頼まれたんでしょ?」
「違います」
即答だった。
フランは疑うように小角を見る。
「……ギルドマスターがね、探してるの。うちのギルドハウスに加入してくれるAランクかBランクの冒険者を」
「……うん」
「2週間以内に揃えば、ギルドは存続できるわ」
「……揃わなければ?」
フランは肉を口に運んだ。
その手が、微かに震えている。
しばらく沈黙続いた後――
「……わたしが復帰すれば、Aランクの依頼が来る」
声が、低くなる。
「来たら、対応できるのはわたしだけ」
肩が、震えた。
「……強い人たちが、簡単に死んだ。家族だって。父さんが作ってくれた剣も……簡単に折れた」
突然フランは、すがる様にロッキを抱きしめた。
小さな体が、かすかに震えている。
「……怖いんだ」
「モンスターが?」
「違う」
首を横に振る。
「わたしのせいで、仲間が死んでいくのが」
小角は、言葉を探した。
だが、理屈は意味を持たないと悟る。
「……死にませんよ、僕は」
短く、はっきりと言った。
「フラン姉さんに何かあれば、僕が守ります」
彼女の震えが、止まった。
フランは、ゆっくり顔を上げる。
「……ごめん。カッコ悪いね、わたし」
涙を拭って、少しだけ笑った。
今更ながら小角は思う。
……測定でAランクと出ていれば。
だが、それは叶わない。
今は、ただ祈るしかなかった。
――――――
それから5日後。
ゴーシ、ミラ、バーリはギルドに呼び出された。
理由は、報酬だった。
トロールの群れ攻略。
依頼はAランクに訂正され、
金貨30枚が、1人ずつ支給される。
「……冗談だろ」
「金貨3枚で1ヶ月遊べますよね……?」
「眩しくて直視できねぇ……」
命を落とした者の分は、遺族へ。
判断を下したのは、あのベルゼとフィートだった。
小角は、内心少しだけ彼らの評価を改めることにした。
その夜、Aランク依頼攻略を祝って、ギルドハウスで宴が開かれた。
家族も参加していい、盛大なものだ。
笑い声。
酒。
音楽。
だが――
フランの姿は、どこにもなかった。
――――――
2週間後。
求めているAランクとBランクの冒険者からの問い合わせは、1件もなかった。




