62話 許可なき出立
フィートたちには、詳細を告げぬままベルゼは村を後にした。
「急用ができた」とだけ告げて――
訝しむフィートの問いに、ベルゼは答えない。
周りには大勢の冒険者がいる。
答えられるはずがなかった。
――Sランク冒険者の死。
それは、協会から正式な発表が出るまで、
誰であろうと軽々しく口にしてはならない事実だ。
カフザも、それを理解していた。
胸の奥に重いものを抱えたまま、
彼はただロッキの帰還を待つしかなかった。
翌日。
ロッキ、ミラ。
そしてラァナとパルメの4人は、予定より早くパジャン村へ戻ってきた。
前鬼が村に襲撃があったことを、役小角へ伝えたためだ。
だが――
彼らを待っていたのは、襲撃そのもの以上の衝撃だった。
シルドの死。
その事実を聞いた瞬間、2人の空気が凍りついた。
ミラは、言葉を失った。
島で共に戦い、行動を共にした冒険者。
誰より仲間思いだった男。
「……そんな」
呟いた声は、震えていた。
スウェルド邸へ向かい、
家主とは直接話し合う予定だった――
しかしその相手は、すでに死体となっていた。
そしてその場所で、
シルドは何者かに殺された。
最期に彼が残した言葉は、
ロッキと、カルタを呼ぶこと。
その意味は、考えるまでもなかった。
ラァナとパルメの依頼は、すでに完了している。
これ以上巻き込むわけにはいかない。
何も知らぬ2人とは、再会を約束しパジャン村で別れた。
役小角たちは戻ってすぐに、出立の準備へ入った。
シルドの死。
そして、ロッキとカルタを名指しにした“遺言”。
相手はおそらく、生まれ変わりの体験者。
呪術の使い手。
役小角はそう結論づけていた。
昼下がり――
出発の準備を整え、ギルドハウスへ戻ると
すでに馬車が用意されていた。
フランと――ミラが乗っている。
「ミラさんも?」
驚くロッキに、ミラは小さく頷いた。
「島でお世話になったシルドさんが死んだって聞いて
……じっとしていられないよ」
ロッキは、短く息を吐いた。
「今回の相手は、僕と同じく普通じゃない力を使う連中です。
危険だと判断したら、戦闘には参加させません。それでもいいですか?」
2人は迷わず頷いた。
――そして馬車は走り出す。
――――――
夜のはじめ。
大都市シーアへ到着した一行は、
即座にギルド協会本部へ向かった。
会議室に通され、
少し遅れてポンズが姿を現す。
「……来てくれて感謝する」
沈んだ声だった。
「シルドさんは……」
フランの問いに、ポンズは一度目を伏せた。
「……ああ、手紙の通りだ」
現在アイナは自宅待機。
ベルゼが付き添っている。
シルドは未確認の敵にひとりで挑み、
彼女を巻き込まぬようにした――
それが、シルドの最期の判断だった。
「カルタの到着には、どうしても2日はかかる。
それまで待機してほしい」
ポンズの説明に、ロッキは即答した。
「明朝、僕1人で現地へ向かいます。
相手に時間を与えるのは危険です」
「わたしも行く!」
「わたしだって!」
ポンズの視線が鋭くなる。
「――許可はできない」
重い声だった。
「これ以上の犠牲は出せない。
準備が整うまで、単独行動は認めん」
ロッキは、言い返さなかった。
彼の目に映ったのは――
眠れぬまま責任を背負い続けてきた
男の顔だったからだ。
用意された部屋で、
彼らは不本意ながら夜を迎える。
――だが。
翌早朝。
ベルゼとロッキ、フランとミラ、そしてアイナを乗せた3頭の早馬が、
シーアの街道を駆け抜けていく姿があった。
それは、正式な許可を得ないままの出発。
誰にも告げられることなく、シーアを発ったのだ。
タイトルを少しばかり変更しました。
内容的にはなにも変わりません。
これからもお楽しみいただければ幸いです。
今後ともよろしくお願いします。




