6話 呪術師、魔力測定を受ける
「ロキ坊! 殺される! 下がりなさい!」
フランの叫び声が、ギルドハウスに響いた。
だが飛び出そうとした瞬間、周囲の冒険者たちが腕を掴んで止める。
「やめろ、フラン!」
「今の雰囲気……近づいたら巻き込まれるぞ!」
ギルドハウス中央で、役小角と鎧騎士ベルゼの視線がぶつかる。
空気が重い。
「……お前が、トロールの巣を攻略したと言うなら信じられるぜ。お前から出ている魔力は、俺の知っているものと“質”が違う」
ベルゼは低い声で言った。
小角は、冷めた目で見返す。
「あなたは、トロールという妖より不愉快な顔をしている」
——その瞬間。
カンッ、と金属音。
ベルゼの大剣が抜かれ、剣先が小角の眼前で止まった。
「ガキが……死んでから後悔しろ!」
殺気が、剣先から溢れ出す。
だが、小角は一歩も引かなかった。
ただ、小さく口を開く。
《——動くな》
それだけだった。
ベルゼの目が理解できないものを見るように揺れる。
彼の身体が、ぴたりと動かなくなった。
「……なに?」
指一本、動かせない。
剣を握る手も、呼吸も、意思に反して固まっていた。
「く、そ……!」
その背後で、魔法使いフィートが動く。
『魔力開砲!』
杖の先から、圧縮された魔力の塊が放たれた。
轟音と共に、一直線に小角へ向かう。
誰もが、直撃を確信した。
——だが。
パン、と乾いた音がした。
宙に舞った一枚の紙が、魔力を受け止め、燃え尽きる。
次の瞬間。
「がぁぁぁぁっ!?」
悲鳴を上げたのは、ベルゼだった。
鎧が赤く焼け、煙が立ち上る。
剣士は床に倒れ込み、のたうち回る。
「な、なにを……!」
フィートは理解できず、杖を握りしめた。
小角は静かに言った。
「あなたが放った魔法は、彼に当たりました」
「……は?」
「このまま放っておけば、死にますよ」
フィートは歯を食いしばり、慌てて回復魔法を唱え始めた。
その様子を一瞥し、小角は踵を返す。
倒れているフランの元へ向かった。
「フラン姉さん。怪我は?」
「……ロキ坊」
口元に赤い痕。
だが、目の奥には強い怒りを宿しているように見えた。
「平気。こんなの、どうってことない」
「……もう少し早くくればよかった、すみません」
小角が頭を下げると、フランは目を逸らした。
「どうして君が謝るの?」
その頃、ベルゼは回復魔法で何とか呼吸を整えていた。
小角は振り返り、淡々と言う。
「立てるようになったら出て行ってください。扉の修理代は後で請求します」
「……くっ」
フィートはベルゼを抱え、ギルドハウスを後にした。
扉が閉まる。
——次の瞬間。
「うおおお!」
「ロッキ! 今の何だよ!」
「Aランク相手に圧勝かよ!?」
「これが生まれ変わりの力ってか!」
歓声が、遅れて爆発した。
小角は、少しだけ困った顔をする。
――生まれ変わりの力。
誰かが発したその言葉に、フランがぴくりと反応した。
「……生まれ変わりって、なに?」
視線が、フランと小角に集まる。
「ロキ坊。わたし、そんな話聞いてない」
小角が言葉に詰まった、その時。
「フランちゃん。わたしから説明するね」
ミラが前に出た。
ロッキが倒れ、瀕死の状態から生き返ったこと。
昨日のトロールとの戦闘。
説明が終わると、フランは腕を組んだ。
「……信じられない」
不機嫌そうに、だが真剣な声で続ける。
「ロキ坊は、正式な検査でEランクだった。それが、今の戦いなんて……おかしいよ」
すると、ギルドの男が口を挟んだ。
「なら、再検査すりゃいいだろ。簡易でもいい」
同意の声が上がる。
フランは少し考え、頷いた。
水晶玉が運ばれてくる。
「……ロキ坊。魔力を流して」
小角は、素直に手を置いた。
水晶が、淡く光る。
色が揺れ、混ざり合い——
やがて、一色に落ち着いた。
緑。
沈黙が広がる。
「……Eランクだ?」
誰かが呟いた。
場の空気が、凍る。
「……はぁ?」
「Aランクに勝ったのに?」
「嘘だろ……」
小角自身も、首を傾げた。
その瞬間。
水晶の奥で、一瞬だけ“歪み”が走った。
だが、それに気づいた者はいない。
フランは複雑な表情で、水晶ではなく小角を顔を見つめていた。




