59話 誘いの屋敷
長卓の奥に座る人影は、死体だった。
腐臭が遅れて鼻を突く。
死後、数日が経っている。
「……スウェルドだ」
シルドが低く呟いた。
「昔、一度だけ会ったことがある。面影が……かろうじてある」
アイナは視線を逸らさず、即座に判断する。
「先輩。一度外へ出ましょう。
本部へ連絡、それと町の審問官の立ち会いを要請します」
「……そうだな」
屋敷の主人の死体――
そして、モンスター化する使用人。
当初の想定を越えている。
アイナが踵を返した、その時だった。
――バンッ!
上階で、扉が強く閉まる音が響いた。
空気が、一瞬で変わる。
「……上に、誰かいます」
アイナの声が低くなる。
シルドは、わずかに間を置いて答えた。
「君は外へ。伝書鳩の準備をするんだ」
「ここは2人で行くべきです」
「大丈夫だよ」
そう言って、彼は穏やかに笑った。
「俺たちはSランクだ」
その言葉に、アイナは一瞬だけ唇を噛み、頷いた。
「……すぐに戻ります」
アイナは屋敷の外へ走った。
シルドは戦斧を握り直し、2階へと向かう。
階段を上る途中、胸の奥に残る違和感が強まる。
――懐かしい気配。
母と、そして――
あのロッキと出会った時に感じた気配。
2階の廊下の奥。
一番奥の扉が、わずかに開いていた。
まるで――誘うように。
シルドは、その境界へ足を踏み入れた。




