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処刑された最強呪術師、魔法世界でただ1人の禁忌となる  作者: 鬼喜怪快
3章 生まれ変わり編

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51話 カルタの告白




 前鬼の言葉が、静かに胸へ沈んだ直後だった。

 背後から、足音がひとつ。


 振り向くと、そこにカルタが立っていた。

 夜の気配に溶け込むように、逃げも隠れもせず。



 「その鬼が、君の使役している鬼?」


 「……はい」



 カルタは前鬼を一瞥し、小さく息を吐いた。



 「強いね。これほどの妖、そう簡単に見られるものじゃない。

 それに……会話までできるだなんて」



 どこか感心したような、しかし遠い声音だった。


 屋根の上で、小角とカルタは向かい合う。

 前鬼が語った村の真実を、彼女が聞いていないはずがなかった。



 「屋敷一帯の封印式は……僕を外に出さないためのものですね」


 「そうだよ」


 「村を、見られたくなかった」


 「……うん」


 「この村に、生きている人間はあなた1人だと前鬼が言っています」


 カルタは、わずかに目を伏せた。


 「えぇ、正解」


 「村人たちは、降霊術で藁人形に宿された死霊……?」


 「そうよ」


 「インとヤンも……すでに亡くなった子供たちだったのですか?」


 しばしの沈黙のあと、カルタは静かに語った。


 「15年ほど前、この村は飢饉と疫病に襲われた。

 村人の……8割が死んだの」



 小角は息を呑んだ。


 飢饉。

 疫病。

 ベルゼが語っていた、“村が滅びる条件”。


 この村は、すでにそれを越えていたのだ。



 「……邪馬台国からこっちに来て、わたしは幸せだった」


 カルタは夜空を見上げる。


 「結婚して、子供ができて……前世では叶わなかった人生を、ここで生きられた。

 村の人たちも、皆いい人たちでね。

 この場所で、次の生涯を終えるつもりだった」


 「……」

 

 「それが……飢饉と疫病に――全部、奪われた」


 淡々とした声だった。

 だが、抑え込んだ感情が確かに滲んでいる。

 

 「……だからといって、降霊術で村を存続させるのは」

 

 小角は言葉を選びながら続ける。


 「無茶でしょう。

 死者を縛りつける行為だ。

 あなたにはシルドさんがいる。

 彼と別の土地で、生き直す選択もあったはずです」


 カルタは答えなかった。


 「僕のいた時代では……個人的な理由での降霊術は禁忌です。

 死者への冒涜とされていました」


 その言葉に、カルタはゆっくりと視線を上げる。


 「インとヤンはね……近所に住んでた双子だった」


 突然、話題が変わった。


 「いつも遊びに来てさ。

 魔術を教えてほしいって、目を輝かせてた子たちだよ」


 胸の奥が、ざわついた。


 「……なら、なおさらです。

 安らかに眠らせるべきだった。

 シルドさんが、このことを知らないはずがない。

 あの人が……許すとは思えない」


 その名を出した瞬間。


 カルタの表情が、わずかに揺れた。


 だが――

 その次に口を開いたのは、前鬼だった。


 「シルド……島で共に戦った人間か」


 「うん」


 「あの男の肉体年齢は、20代後半。

 この女とは、血縁関係はない……」


 「……?」


 「先ほど見ていた肖像画の子供。

 あれが、この女の“本当の息子”なのではないか?」


 小角は言葉を失った――


 「前鬼……何を言ってる?

 シルドさんは、カルタさんの……」


 「驚くのはそこではない」


 前鬼の声が、低くなる。


 「人間が、死者の魂を別の肉体へ完全に定着させている。

 これは降霊術などではない」


 空気が、張りつめた。


 「……蘇生術を完成させているのだ」


 その言葉の意味を、小角はすぐに理解できなかった。


 ――いや、理解したくなかった。


 「蘇生術って?

 神や妖ですら到達できなかった領域の術だよ……」


 小角は、思わず頭を押さえた。


 蘇生術。

 すべての術師が夢見ながら、禁じられてきた領域。

 一言主神の力ですら、生死には干渉できないのだ。


 それを――

 カルタは、成し遂げていたと言うのだろうか。


 静寂の中で、カルタが口を開いた。


 

 「……その鬼の言う通りだよ」


 小角を見る。


 「あなたたちが“シルド”と呼んでいる者は、

 わたしの夫――ソウドの身体だ」


 「……!」


 「ソウドの遺体に、シルドの魂を定着させた」


 時間が止まった。


 夫の肉体に、息子の魂を入れた。

 母としての選択。

 そして、呪術師としての禁忌。


 カルタは淡々と、しかし逃げずに語る。



 「飢饉で人が死に、死体の処理が追いつかず、疫病が広がった。

 ――シルドは疫病で死んだんだ。

 呪術も、念術も、魔術も……何一つ、効かなかった」


 声が、わずかに震える。


 「……栄養のあるものを食べさせたくてね。

 迷いの森へ猟に出た夫も、モンスターに殺された」


 「……」


 「その時、わたしは……すべてを失った」


 夜風が、静かに吹いた。


 「だから、選んだんだ」


 カルタは、まっすぐに言った。


 「母であることを」


 降霊術。

 蘇生術。

 業と禁忌の果て。


 呪術師の祖、卑弥呼。



 彼女は今なお――

 母として業を重ね続けていた。





 

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