5話 凶兆は、当たる
役小角の朝は、占いから始まる。
鬼門遁甲盤を卓に置き、印を切る。
盤はひとりでに回り――止まった。
「……北東に凶兆か」
北東には、ギルドハウスがある。
「……いや、気にしすぎだな、村の中は安全だろ」
そう判断し、彼は凶兆の方角へ向かうことにした。
――――――
村は、昨日までとどこか違っていた。
ロッキとして、いつも通り挨拶はされる。
だが、距離がある。
感謝と――恐れ。
それが混じった視線だった。
戦闘の目撃者はいないが、噂はすぐに流れた。
「……」
小角は気にしないふりをして進んだ。
――――――
ギルドハウスの前に、見慣れぬ馬車が2台停まっていた。
装飾が多く、明らかに金がかかっている。
「……面倒な奴が乗っていそうだな」
そう呟いた直後――
ドンッ!
ギルドハウスの扉が破壊され、人が吹き飛んできた。
それは地面に叩きつけられ、転がり倒れた。
よく見ると、昨日、戦いが終わるまで意識を失っていた剣士だった。
「……確かバーリ」
小角はコイツか、と呆れた顔をした。
だが次の瞬間。
「やめてくださいっ!」
女性の叫び声が聞こえる。
ギルドハウスの中で、ミラが鎧の剣士に首を掴まれ、吊り上げられていた。
「嘘をつくな、Cランク! 貴様らがトロールの群れと、キングとクイーンを倒しただと?」
「……うぅっ」
「内容がAランクレベルだ! 貴様らに倒せるわけがないだろ!」
横では魔法使いが、杖に魔力を溜めて村のギルドメンバーを威嚇している。
ギルドの誰も、動けない。
――場が恐怖に支配されていた。
――――――
剣士はミラを外へ投げ捨てた。
地面に叩きつけられる寸前。
《――停まれ》
ミラの身体が、宙で止まった。
辺りに静寂が訪れる。
小角は歩み寄り、彼女をそっと地面に降ろす。
「怪我は?」
「……ロッキ君」
鎧の剣士と魔法使いが、即座に戦闘態勢に入った。
――本能で理解したのだ。
こいつは危険だと。
「いい加減にしてください!」
受付嬢のフランが割って入る。
「ここはパジャン村ギルドです!
あなた方にそこまでする権限は――」
「黙れ!」
剣士の平手が飛び、彼女は床に倒れた。
空気が、さらに凍る。
「……おやおや」
小角の声は、静かな怒りをあらわにした。
そしてミラへ声をかける。
「ここを動かないで」
そして1人、前に出る。
怯えも、躊躇もない足取りだ。
「トロールを殲滅させたのは僕です。用があるなら聞きましょう」
剣士が笑った。
「……やっぱりな。普通のガキじゃねぇ」
小角は冷めた目で剣士を見上げた。
どうやら凶兆は――
村の外ではなく、内側にあったようだ。




