46話 キューサの町でお買い物
翌朝。
窓の外から聞こえる賑やかな声で、役小角は目を覚ました。
砂漠の中央にある町とは思えないほど人の活気を感じる。
昨夜のサンドイーター戦で大技を使った反動もあり、
久しぶりに深く眠れた感覚があった。
小角は身支度を整え、宿の一階にある食堂へ向かう。
今日は馬車の修理があるため、町で1日を過ごす予定だ。
明朝には出発し、午後にはカイドウ村へ到着する予定になっている。
――今日は休息の日。
「ロッキ様」
「ロッキくん、こっちだよ!」
すでにラァナ、パルメ、ミラの3人は席についていた。
テーブルには簡素ながらも香ばしい朝食が並んでいる。
「ロッキくんも同じのでいい?」
「うん、ありがとう」
自然とミラは小角の隣に腰を下ろした。
昨日の戦い以来、彼女の距離感が少し近い気がする。
理由はわからないが、戦場での姿を見て何か感じるものがあったのだろうか。
――外見は15歳。
だが中身は、長い年月を生きた呪術者だ。
前世では俗世と距離を置き、術の研鑽だけに人生を費やしてきた。
異性との関わりなど、数えるほどしかない。
それが転生してからというもの、妙に女人との距離が近い。
感情も、以前よりずっと騒がしいものがある。
……慣れない物だな
そう思いつつも、嫌ではなかったりする。
「ロッキ様の昨日のお姿……あまりに立派で、このラァナ少し興奮してしまいまして……」
「え?」
「ゆ、昨夜はなかなか寝付けませんでしたわ……」
少し照れたように視線を逸らすラァナ。
「ロッキ様がいらっしゃれば、もう何も怖くありませんわね」
「……10年後が楽しみですね」
「はい?」
「い、いや。こちらの話です」
自分でも何を言っているのかわからず、小角は咳払いをした。
――まだまだ修行が足りない。
朝食後、一行は買い出しへ出かけることにした。
ラァナとパルメは衣服を見に行き、
小角とミラは武器屋へ向かう。
キューサの武器屋は想像以上に広かった。
剣、槍、斧、杖――ひと通り揃っているだけでなく、種類の豊富さが目を引く。
水晶玉も並んではいるが、
ミラの持っていたものほど質の良い品は見当たらない。
明日、カイドウ村に着けば呪いが解けるかもしれない。
高価な術具は避けたいところだ。
そんなことを考えながら店内を歩いていると、
奥の一角――
ガラクタ売り場に辿り着いた。
製作に失敗した品や、規格外の品が並ぶ棚。
その中で、小角は足を止めた。
「……これ」
水晶玉になりきれなかった、水晶のかけら。
だが術を溜め込む器としては、十分に使えそうだ。
「どうしたの、ロッキくん?」
「これなら代わりになる。術の保持も問題ない」
ラァナに持たせれば、ミラへ水晶玉を返せそうだ。
「じゃあ……私の水晶玉、戻ってくるの?」
「うん。ようやくね」
「ほんとに? 嬉しい!」
心から嬉しそうに笑うミラを見て、小角は小さく頷いた。
1番大切な買い物を終え、次は防具屋へ向かうことにした。
店内でミラは、ある装備を手に取って見ている。
「これね、聖女の水着って言うんだって。キューサ限定らしいよ」
見た目は軽装――いや、かなり露出が多い。
だが、確かにそこからは強い魔力を感じる。
「補助系魔法使い向けの装備なんだって。機会があったらって思ってたの」
「……なるほど」
「ロッキくんは? 何か買わないの?」
「そうだね、暑さ対策は必要かな……」
ミラが差し出したのは、水の装束。
糸に水属性を練り込んだ、体温調整用の装備だ。
「羽織ってみてよ」
「……これは、確かに涼しい」
「でしょ!」
ただ値段に驚いた小角は、水の装束を見送ることに――
結果的に、ミラだけ装備を新調することになった。
その後、再び4人は合流し、水晶のかけらに一言主神の力を宿す。
それをラァナへ渡し、水晶玉は本来の持ち主のミラへと戻った。
町を軽く観光した後は宿へ戻り、
夜の酒場へ――
みんなは先ほど購入した衣服や装備を纏い、集まった。
そこで――問題は起きる。
酒場に、聖女の水着を身に着けてミラが現れたのだ。
否応なく注目を集めてしまう――
「姉ちゃん、すげぇ格好だな! 一緒に飲もうぜ!」
酔った男たちが集まる。
ミラは困ったように笑い、小角の方を見る。
……なぜ、その格好で酒場に来る?
彼女は天然なのか、単に約束を守ったのか――
小角には判断がつかなかった。
「ロッキ様も、ミラ様も英雄ですもの。本当にご一緒できて光栄ですわ」
ラァナの声には、微妙な含みがあった。
ラァナとパルメは、町に溶け込む普通の服装をしている。
冒険者としては、それが賢明なのだ。
ミラは少々お転婆な性分のようだ。
小角はそう結論づけ、深く考えるのをやめた。
とはいえ――
フランへの土産に、あれは悪くないかもしれない……。
翌朝、小角がこっそりと“魔剣士の水着“を買いに行ったことは、誰も知らない。




