44話 斜陽
4人を乗せた馬車は、砂漠都市キューサを経由し、
カイドウ村へ向かって進んでいた。
後鬼の提案により、ミラの水晶玉には一言主神の力が宿されている。
見えざる敵からの呪いと監視は、ひとまず抑え込むことに成功した。
ラァナとパルメは、数日ぶりに訪れた“普通の状態”に安堵している。
――ただ一人、ミラを除いて。
「水晶玉、ちゃんと返してもらえるよねぇ? ロッキくん」
「……もちろん」
「カルタさんが解印できなくても返してくれるよね?
あれ、私の商売道具なんだぁ……」
突然、大切な術具を手放すことになったのだ。
不安になるのも無理はない。
小角もそれは承知している。
道中で、魔力や呪力を蓄えられる代替の術具を必ず用意しなければならない。
夕方にはキューサへ到着する予定だ。
そこで水晶玉の代わりを探すつもりでいる。
「ミラさん、本当にすみません。今日中にご用意しますから……」
ラァナが申し訳なさそうに頭を下げる。
「……私のせいで」
「ううん、返してもらえるなら全然平気だよ……」
笑顔の奥に、わずかな強がりが滲んでいた。
鬼門遁甲盤による吉凶占いでは進行方向に問題はない。
だがモンスターの出現は予測できない。
感知役を失った今、護衛として万全とは言い難かった。
昼前、砂漠手前の村で休憩を取り、馬車の車輪を砂漠用に交換する。
ここから先は約4時間、何もない砂の海だ。
日が暮れると、砂漠にはサンドイーターというモンスターが現れるらしい。
それまでに、なんとしてでもキューサへ辿り着かなければならない。
車夫は太陽を頼りに進路を定める。
この地では、方向を誤れば即、死に繋がる。
照りつける日差しは想像以上に厳しい。
水を多めに積んだ判断は正解だった。
遠くには同じくキューサへ向かう馬車の影も見える。
「これだけ人がいれば、迷うことはなさそうですね」
ミラの一言に車夫が答える。
「そんなことはありません。砂嵐が起きれば周囲は一変します。
景色も馬車も消え、太陽だけが残るのです」
「あれを見てください」
指差す先に、竜巻のような砂嵐が見えた。
「かなり大きい嵐です。進行方向が読めません。
もしこっちに動き出せば数分で飲み込まれますよ」
小角は、ほんのわずかな違和感を覚えた。
――少し、こっちに動いているような。
しかし誰も違和感を感じていないようだった。
その数分後、ラァナが不安げに呟く。
「先ほどの砂嵐ですが、あんなに大きかったでしたっけ?」
車夫が嵐を見て、顔色を変えた。
「なんてことだ……こっちに近づいてきている」
一同に緊張が走る。
水と貴重品を懐に入れ、テントポールにしがみつくよう指示が飛ぶ。
数分後、砂嵐は襲来した。
――ゴゴゴゴゴゴッ!
視界が暗転し、激しい砂と風が馬車を叩く。
「目と口を閉じて、絶対ポールから手を離すな!」
叫びと同時に、テントが吹き飛んだ。
砂が目を刺し、呼吸すら困難になる。
ほんの数秒。
だが永遠にも感じる恐怖。
――やがて嵐は去っていった。
――――――
馬と馬車は砂に埋まり、屋根は失われた。
全員で掘り起こすしかなかった。
体力と時間を大きく削られる。
それでも水と荷物が無事だったのは幸いだった。
掘り起こし終える頃には、すでに夕刻。
日が沈めばサンドイーターが現れる。
「急ぎましょう! 町周辺に入れば結界があります!」
慌てて乗り込み、馬車を動かす。
――動かない。
車輪に砂が噛み込んでいるのだ。
どうやら――
一度ばらして、砂を除去しなければ直らないらしい。
その間にも、太陽は容赦なく沈んでゆく――




