39話 フランの新しい武器
役小角の呪術により、悪魔アバドンは完全に消滅した。
島を覆っていた邪気は霧のように薄れ、
モンスターたちにかかっていた強化も解けていく。
ミラの水晶玉に映るモンスターの魔力反応は、
急速に弱まっていた。
「……終わった、のね」
誰もがそれを実感し始めた。
そのとき――
フランが、静かに目を覚ました。
ロッキが寄り添う。
フランは闘技場を見回し、両親の剥製が視界に入ると、すぐに目を逸らした。
「……あれは、このまま置いておけない」
その一言で、すべてが決まった。
研究目的で保管すべきだと主張するアイナと、フランの意思を尊重しようとするベルゼ。
兄妹の議論が始まる中、小角はフランの前に膝をついた。
「――本当に、供養をしていい?」
「うん。あんな姿じゃ、みんな休めないよ」
小角は小さく頷いた。
「なら、任せて。鎮めるくらいなら僕にもできる」
後鬼が扇子を振るう。
火竜の炎が闘技場を包み、剥製は音もなく焼き尽くされた。
叫ぶアイナを余所に、灰すら残らず、炎は空へ昇っていく。
小角は手を合わせ、誰も知らない言葉で読経を唱えた。
やがて誰からともなく、全員が炎に向かって手を合わせていた。
「……合掌。やすらかに」
――――――
アイナの部隊は、島に残されていた船で帰還することになった。
出発前、彼女はフランの前に立ち、敬礼する。
「閃光のフラン。あなたをSランク冒険者として推薦します」
「……わたし、Aランクでいい」
「そうはいきません。世界があなたを放っておかない」
アイナはそう言って、微笑んだ。
飛行船を待つ間。
フランは、海を眺める後鬼のもとへ向かった。
「紅葉」
「おや、どうかしましたか?」
フランは腰の鞘を外し、小鴉丸を差し出す。
「返しに来たの。この子が折れない子だから、わたしは勝てた」
しかし後鬼は受け取らず、静かに首を振った。
「その子、差し上げます」
「え……?」
「わたしと前鬼以外、誰にも抜けなかった妖刀。
それを抜いたのは、あなたが初めて」
フランは言葉を失う。
「あなたは、わたしを妖ではなく女として見た。
そんな人だから、この子はあなたに心を開いたのでしょう」
「……」
「どうか、受け取ってください」
やがてフランは、小鴉丸を胸に抱いた。
「……大切にする」
後鬼は、満足そうに微笑んだ。
この島での戦いで、フランはすべてを取り戻したわけではない。
だが――
失ったまま止まっていた自分と、確かに別れることができた。
イルジョン島の事件は、こうして幕を閉じた。
そして、新たな物語が静かに動き始めていた。
いつもお読みいただきありがとうございます。
2章完結まで、39話を含めて残り3話。
物語は、静かに3章へと向かいます。
禁忌は、まだ序章。




