35話 フランと紅葉
フランと後鬼の危機に、役小角は間に合った。
闘技場の中央。
役小角と漆黒の鎧騎士が、無言で睨み合う。
一方、前鬼は跳躍し、闘技場から距離を取っていた。
その腕には、後鬼とフラン、そして意識を失ったアイナ。
宙に浮いたまま、後鬼がフランに声をかける。
「ねっ。間に合ったでしょう?」
「……し、信じられない……」
「素敵な殿方は、好いた女の危機に必ず間に合うものなのです」
「ちっ、違っ……!
彼とは、昔から仲が良いだけよ!」
フランは顔を赤らめて俯いた。
後鬼は、じっと前鬼を睨み上げる。
「……あなたは、ずいぶん遅かったですね」
「うっ……」
「まぁ、説教は後にしましょう……」
前鬼は何も言えず、肩を落とした。
やがて、前鬼は3人を役小角のもとへ下ろす。
「遅くなってごめん。フラン姉さん、後鬼」
「ロキ坊……」
「今から僕が倒してくる」
そう言って歩き出そうとした小角を、後鬼が呼び止めた。
「待ってください。
この一帯、天馬の力で呪術も魔術もすべて封じられています」
「……天馬か……なるほど」
フランが不安そうに言う。
「ロキ坊も術が使えないのでしょ?」
「ええ。でも――」
後鬼が静かに告げた。
「ロキボウは呪力とは別の“力”を持っています」
「……なにそれ?」
その時、ベルゼたちが闘技場へ駆け込んできた。
闘技場への通路は、前鬼によって一直線に破壊されている。
ベルゼたちもフランから状況を聞き、
誰もが顔を曇らせた。
「魔力が封じられてるだなんて……」
「我々は全滅だ……」
ベルゼは倒れているアイナに気付く。
抱き寄せ、歯を食いしばった。
「みんな、恩に切る。俺が時間を稼ぐから逃げてくれ」
後鬼が、静かに首を振る。
「失礼ながら、あなたでは1分と持ちませんよ」
小角が一歩前に出た。
「……とにかく。まずは天馬の封印術を解除しよう」
小角は前を向き、一言主神の力を発動させる。
それは封印不可の神の言葉。
《一帯に影響を及ぼせし術を無効とする》
その瞬間。
封じられていた魔力や呪力が一斉に開放された。
「!」
「……戻った?」
「……! よしっ! 戻りつつあるぞ!」
身体が軽くなる。
みんなの状態を見渡し、
安堵した小角が再び闘技場へ歩き出そうとした。
その時――
「――万回の刻」
後鬼の失われていた腕が再生した。
「小角様、ひとまずお礼を……それとここから先は――」
後鬼はフランを見た。
「わたしとフランが戦います」
「!」
「参りますよ、フラン」
「……いや、でもさ」
「――もう一度言いますよ。わたしとフランが戦います」
前鬼が小角の肩に手を置き、首を振る。
「今の後鬼には逆らうな」
2年前の惨劇が、脳裏を掠めるフラン。
彼女は静かに腰の刀へ手を伸ばした。
その姿を見ていた前鬼が気付く。
「小角。見ろ……小鴉丸だ」
小角も思わず呟く。
「……嘘でしょ?」
選ばれし者しか扱えない妖刀――
絶対に折れない刀、小鴉丸。
その柄を、フランは迷いなく握っている。
目の当たりにした小角と前鬼は、驚きを隠せないでいた。
後鬼とフランが、並んで闘技場へ歩き出す。
その背中を、誰も止められなかった。
――今度こそ、決着をつける戦いが始まる。




