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処刑された最強呪術師、魔法世界でただ1人の禁忌となる  作者: 鬼喜怪快
2章 イルジョン島編

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30話 役小角のまじない




 フランの意識が絶望に沈みきった、その瞬間だった。


 砕けた剣を踏みつけるオークの影が迫り、戦斧が振り上げられた――。


 だが。


 ――カンッ!


 金属でも岩でもない、澄んだ音が洞窟に響いた。

 振り下ろされた斧は、突如現れた光の壁に弾かれていた。


 呆然と目を開いたフランの視界に、ひとりの女の背中が映る。


 雪のように白い肌。

 高貴な着物。

 そして、額から伸びる――2本の角。



 「小角様のまじない……ようやく発動でございます」



 振り返った女は、穏やかに微笑んだ。


 「……あなた、誰?」


 警戒を込めた問いに、女は小さく首を傾げる。


 

 「説明しても、ご納得いただけるか少し不安ですね。ですが――

 敵ではありません。それだけはご理解ください」



 光の壁の向こうで、2匹のオークが怒号を上げながら暴れていた。

 斧を叩きつけ、体当たりを繰り返し、石まで投げつけるが、壁はびくともしない。


 その様子を、女はどこか慈しむような目で見つめ、静かに言葉を紡いだ。



 『岩床のがんしょうのむしろ



 次の瞬間。


 地面が隆起し、無数の岩の杭が突き出した。

 逃げ場を失ったオークたちは、そのまま串刺しにされる。


 

 「ぎゃぁぁぁ――!」



 悲鳴が途切れると同時に、光の壁が消えた。


 女はゆっくりと歩み寄り、なおも息のある1匹の前に立つ。



 「何者だ! ぶっ殺してやるぅぅ!」


 「……本当に、醜い方々」



 次の瞬間、手刀が閃いた。

 オークの首が、音もなく地に落ちる。


 フランは、ただ呆然とその光景を見つめていた。


 女は足元に落ちていた“何か”を拾い上げ、フランの前に差し出す。

 それは――砕け散った、剣の一部だった。



 「大切なものなのでしょう?」


 「……折れてしまっては、ただのゴミよ」



 後鬼は何も言わず、それを布に包み、フランの手に戻した。

 フランは、まるで失われた時間を抱きしめるように、それを胸に抱いた。



 「立てますか?」


 「……もう、だめ。

 剣も、心も砕けた。わたしはもう戦えない」



 後鬼は静かにフランの頭に手を置く。


 

 『万回のばんかいのこく――』


 

 淡い光が、フランの身体を包んだ。

 裂けた皮膚が塞がり、痛みが消えていく。

 


 「……これは……?」


 「どうです。立てそうですか?」



 フランは、戸惑いながらも立ち上がった。


 ただのモンスターではない。

 一目瞭然の事実だ。

 


 「敵じゃないと言ったけど……証拠はあるの?」


 「小角様の命で、あなたをお守りしています。それでは足りませんか?」


 「その“オヅヌ”って何? 人の名?」


 「ええ。あなた達の言うロッキのことです」


 「……ロキ坊の?」


 「はい。わたしは、ロキボウが使役する妖――後鬼と申します」



 警戒は消えなかった。

 だが、今のフランに選択肢はない。



 「どうして、オヅヌなんて呼ぶの?」


 「ふたつ名のようなものです。“閃光のフラン”と同じですよ」


 フランは一息つき、問いを変えた。


 「……これから、どうするの?」


 「攫われたお仲間のもとへ向かいましょう。ロキボウ達も、後から来ます」


 「でも……武器がない。わたしは足手まといよ」



 後鬼は、じっとフランを見つめて問い返す。



 「武器があれば、戦えますか?」


 「……自信はない」


 その答えに、後鬼は微笑み、袖から一本の刀を取り出した。


 「では、こちらを」


 「……何、これ?」


 「小鴉丸こがらすまる。刀です。業物ですよ」


 「……カタナ?」



 薄黒く輝く刀身。

 フランはそれを抜き、思わず息を呑んだ。



 「……綺麗」


 「抜けましたね……」


 「えっ?」


 「いえ……片刃ですので、そこだけはご注意を」


 腰に刀を差した瞬間、胸の奥に、かすかな熱が戻った。


 「……行こう」


 「ええ」


 

 ――――――


 

 一方、洞窟の外。


 小角、ベルゼ、シルド、フィートは、押し寄せるモンスターの群れと対峙していた。



 「オラァァァ!」

 


 ベルゼの大剣が唸りを上げ、モンスターを薙ぎ払う。

 だが、その息は荒く、足取りは重い。



 「ベルゼ! 無茶しすぎだ!」


 「うるさい! 無茶しなきゃ全滅だ!」


 

 シルドもまた、限界だった。

 硬化魔術で耐えているが、魔力は底をつきかけている。



 「……そろそろか」


 小角は小さく息を吐き、指を唇に当てた。


 「前鬼。おいで」


 影が揺れ、額に一本角を持つ黒鬼が現れた。


 

 「頼まれてくれる?」


 「了解だ」

 


 前鬼は一歩踏み出し、戦場へ向かった。






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