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処刑された最強呪術師、魔法世界でただ1人の禁忌となる  作者: 鬼喜怪快
2章 イルジョン島編

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29話 絶望の刻



 最後のひとりを救い出そうと、フランはさらに速度を上げた。



 洞窟へ向かう6匹のゴブリンのうち、3匹が立ち止まり弓を構える。

 だが――遅い。


 フランの速度に、矢など当たるはずもない。

 足止めにすらならない。


 それでも役小角には、ゴブリンたちが必死で人質を洞窟内へ運ぼうとしているように見えた。


 

 「フラン姉さん! 止まってください! 洞窟前で止まって!」


 

 叫びは、距離に飲み込まれた。


 フランは放たれた矢を潜り抜け、弓を構えたゴブリンを無視して走る。

 そして――

 人質の冒険者を抱えたまま、ゴブリンたちは洞窟へ消えた。


 フランも、迷わず続く。


 ひとりにするのは危険だ。

 だが、この場で彼女に追いつける者はいない。


 

 「フラン! 深追いすんじゃねぇぞ!」


 ベルゼの叫びが背後で響いた、その瞬間――。


 ――ズドォンッ!


 轟音と共に砂埃が舞い上がり、巨大な岩が洞窟の入口を完全に塞いだ。


 「フラン姉さん!」

 「フラン!」


 

 フランが洞窟へ入った直後の、あまりにも正確なタイミング。

 まるで、最初から分かっていたかのようだった。


 トロールとオークを相手にしているシルドも、この異変を把握できなかった。


 どこから、どうやって岩を落としたのか。

 何より――我々の襲撃に、モンスター側が一切動揺を見せていなかった。


 不気味さだけが、胸に広がる。


 その時、戦線から一歩引いていたミラが顔を強張らせた。


 「……今まで感知できなかった反応が、森の外縁に……!」


 次の瞬間、奴らは姿を現した。


 キングオーク。

 クイーンオーク。

 キングトロール。

 クイーントロール。


 さらに、その背後から複数のオークとトロール。


 小角は直感で悟った。

 あれらは、初めてパジャン村で遭遇した個体とは比べものにならないほど強い。


 ミラの声が、全員の心に直接届く。


 

 『皆さん、警戒してください。

 あのモンスターたち――何者かの魔術で、通常より遥かに強化されています』


 『……ミラさん、フラン姉さんは?』


 『洞窟の中心部へ向かっているのは分かる。でも……もう、わたしの声が届く範囲じゃない』


 嫌な予感が、現実へ変わった。


 戦うしかない。

 ここを耐えなければ、すべてが終わる。


 

 ――――――


 

 洞窟内は、光石の放つ淡い光に満ちていた。

 松明は不要だが、安心できる明るさではない。


 ひとり取り残されたフランは、さらわれた冒険者とアイナを探すため道なりに走っていた。


 恐怖が、何度も心を掴もうとする。

 だがそのたびに、彼女は思い出す。


 小角のまじない。

 

 ――必ず、生きて帰る。


 

 「シャアァァッ!」


 

 襲いかかるモンスターを斬り伏せる。

 どこから現れるか分からない。

 気を抜いた瞬間が、死だ。


 トロール、オーク、そしてまたゴブリン。

 数は分からない。

 ただ、剣を振り続けた。


 このままでは消耗戦になる。

 だが、退路はない。

 進むしかなかった。


 やがて、開けた空間に出る。


 そこに――2匹のオークが立っていた。


 巨大な戦斧を携え、まるで待っていたかのように。



 違う。

 今までのオークとは、明らかに違う。

 フランは剣に手をかけ、踏み込まない。


 「恐れを抑え、我らと相対するか。大したものだ、人間よ」


 ――喋る。


 「さらった人たちをどこにやったの?」


 「我らのどちらかを倒せたなら、答えよう」


 「……」


 先に動いたのは、フランだった。


 最速の抜刀。

 一閃。


 ――カキンッ!


 巨大な斧が、いとも容易く剣を弾いた。


 弾かれた勢いを利用し、回転して再度踏み込む。

 連続する斬撃が、確かにオークの身体を裂く。


 だが――浅い。


 皮一枚。

 致命傷には、程遠い。


 力が足りない。

 剣が、通らない。


 「クソッ……斬れない……!」


 「弱いな、人間」


 「斬れろ……斬れろッ!」


 刃と斧がぶつかり合う音が、洞窟に響く――

 その時。



 ――パリンッ。


 

 乾いた、空虚な音。

 それは――

 父から授かった剣が砕けた音だった。


 

 「……そんな……」


 「フハハァ!」


 

 戦斧が振り下ろされる。

 折れた剣で受け止めるも、身体ごと吹き飛ばされた。


 壁に叩きつけられ、剣を取り落とす。


 拾おうとした瞬間――

 1匹のオークが立ち塞がり、もう1匹が柄を踏み潰した。


 「あぁ……」


 脳裏を過る、2年前の悪夢。

 仲間の死。

 家族の死。

 そして――剣が砕けた日。

 

 フランの心が砕けた日。

 

 身体が震え、崩れ落ちる。


 

 「剥製にするか?」

 「いや、犯して喰らうのも悪くない」

 「腕だけ切り落としておくか」


 

 戦斧が、振り上げられた。


 利き腕から切り落とされる。

 そう、理解した――。


 

 ――カンッ!


 

 突如、フランの前に光の壁が現れ斧を弾いた。

 続けて、彼女の前に影が立ちはだかる。


 雪のように白い肌。

 高貴な着物。

 2本の角を持つ、美しき鬼。


 後鬼――。


 彼女は軽く振り返り、震えるフランへ微笑んだ。


 

 「小角様のまじない……ようやく発動でございます」




 

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