27話 漆黒の島
イルジョン島が、眼前に迫っている。
――黒い島。
空から見下ろしても、森は深緑ではなく、濁った影のように沈んでいる。
小角は、喉の奥がひりつく感覚を覚え、無意識に息を詰めていた。
さっきまで、はしゃいでいたはずなのに。
言葉が、出てこない。
隣を見ると、ミラは顔面蒼白で島から目を離せずにいた。
フランは――
唇を噛み、身体を小刻みに震わせている。
この世界に来てから初めての感覚。
抗えない圧迫感に、全員が飲み込まれていた。
「……着陸するぞ!」
操縦士の声で、現実に引き戻される。
島の沿岸には、ぽつりと一隻の船が停泊していた。
宝探しに来た者たちの船――それだけは、すぐに分かった。
飛行船が地に降り立つと同時に、
島の空気が、はっきりと変わった。
重い。
空気そのものが、肺の奥に沈み込んでくる。
シルドが即座に詠唱し、6人を包むように気配遮断の魔術を展開する。
「……長居はできないな」
操縦士たちも島を直視しないまま、急いで距離を取った。
彼らでさえ、本能的に理解している。
――ここは、留まる場所ではない。
その背を見送りながら、フランの震えは止まらなかった。
戦えない。
そう、誰の目にも分かるほどに。
小角は一歩近づき、フランの手の甲に、そっと指で印を刻んだ。
「……ロキ坊?」
「まじないです」
笑って見せる。
「嫌な気配がする島です。これで少しでも楽になれば……」
フランは一瞬、驚いたように目を瞬かせ――
やがて、深く息を吐いた。
「……ありがとう」
完全ではない。
だが、崩れ落ちる寸前だった心は、踏みとどまった。
ベルゼが、島を睨みながら低く呟く。
「……クソ。こんな場所だったのかよ」
「リアスさんたちが戻れなかった理由が分かりますね」
シルドは死地へ誘う顔をした森を見渡した。
フランは、ゆっくりと前に出る。
「2年前は、ここまでじゃなかった」
島の中央――巨大な山影を見据える。
「……悪化してる」
その一言が、すべてを物語っていた。
沈黙の中、ミラが感知を走らせ、小角の鬼門遁甲盤も同じ方角を示す。
――岩山。
人の気配と、異常な魔力が重なっている場所。
フランは、迷わず言った。
「行きましょう。まずは、あそこです」
かつて地獄を見た場所へ。
今度は、逃げるためではない。
6人は、森へ足を踏み入れた。
木々は静かだった。
だが、静かすぎた。
鳥も、虫も、鳴かない。
まるで島そのものが、
侵入者を、観察しているかのようだった。
――ここから先は、もう後戻りできない。




