26話 島影
ポンズとベルゼの間に、張りつめた沈黙が落ちた。
その空気を割ったのは、斧を背負った冒険者だった。
「……本部長。こうなることは、最初から分かっていたはずでしょう」
低く静かな声。
ベルゼは目を見開いた。
「……シルド? なんでSランクがここにいんだよ」
「監視部隊を救いたいのは、ベルゼさんだけじゃないですよ」
シルドは一歩前に出る。
「でも、向かう先がイルジョン島です。
――あのリアスさんが帰って来られなかった島」
ベルゼは歯を噛みしめた。
「放っておいてくれ。だから少人数で戦闘を避けて動く」
「放っておけないから、私とミラさんが来たんです」
「なに?」
ポンズが静かに口を開く。
「正式な命令は出せない。だが――
止める気もない」
その一言で、すべてを察した。
「明日の午後、後発の救援隊を出す。それまでだ、ベルゼ。
――誰も死なせるな」
ベルゼは、言葉を失った。
みんなが、できる限りのことを考えていてくれていた。
それが、痛いほど伝わった。
「……了解です」
確かな声で返した。
――――――
飛行船乗り場。
鎖に繋がれた2体の巨大な鳥型モンスターが、翼を震わせて待機していた。
6人は、二手に分かれてそれに乗り込んだ。
「イルジョン島まで1時間。途中休憩はなしだ」
操縦士の声と同時に、鳥が大きく羽ばたいた。
次の瞬間――視界が跳ね上がる。
「うわぁっ……!」
「すご……空、近い……!」
小角とミラは、完全に浮かれていた。
「お前ら、緊張感なさすぎだろ……」
苦笑する操縦士とは対照的に、
フランだけは、黙って前を見つめていた。
笑顔はない。
空の青さを、楽しむ余裕もなかった。
一方、別の飛行船。
「シルド……本当に助かる」
「全員が生き延びるために来たのです」
シルドは淡々と言った。
「戦うためじゃない。――たった1日を耐えるためにです」
しばらくすると海が見えた。
その頃から、空が曇り始めた。
風が冷たくなり、誰も口を開かなくなる。
やがて――
水平線の向こうに、島影が浮かんだ。
小さく、黒く。
まるで、こちらを待っていたかのようにイルジョン島が姿を現した。
フランは確信する。
――2年前より、島の魔力が濃くなっていることに。




