25話 凶兆の方角へ
イルジョン島へ向かう――
その噂は、瞬く間にパジャン村を駆け巡った。
当然のように、反対の声が噴き上がる。
ギルドマスター・カフザをはじめ、古参の冒険者たちが声を荒げた。
「本部の連中に任せろ」
「行く理由がない」
と怒号が飛び交った。
ベルゼとフィートは、討伐ではないと何度も説明した。
だが、納得する者はいなかった。
――ところが、その場を制したのは、フランだった。
「みんな、落ち着いて」
静かな声だったが、空気が一瞬で変わる。
「わたしは……逃げ続けてきた。あの島から帰ってきてから、ずっと」
それ以上、多くは語らなかった。
だが、その目は迷っていなかった。
再三の引き止めにも、フランが首を縦に振ることはなく、
やがてギルドは、重苦しい沈黙の中で彼女の決意を受け入れた。
――――――
翌朝。
ギルドハウス前には、見送りの人々が集まっていた。
「……絶対、帰って来いよ」
バーリの不器用な言葉に、フランは小さく頷く。
馬車が動き出すと、声援が背中を押した。
振り返らず、4人は前だけを見て進んだ。
道中、ロッキは鬼門遁甲盤を取り出した。
掌の上で盤が静かに回り、やがて止まる。
「……南西に、凶兆」
フィートが小さく息を飲む。
「南西は、トウゴ港とイルジョン島の方角だ」
誰も、続く言葉が出なかった。
――――――
大都市シーア。
その中心にそびえるギルド協会本部の前で、馬車は止まった。
ベルゼとフィートは、荷物を取りに中へ入った。
――しばらくすると、青ざめた表情で戻ってくる。
その背後には、3人の人物がいた。
「……降りてくれ」
馬車を下りたフランの前に、駆け寄ってきた影がある。
「フランちゃん!」
「ミラさん……?」
続いて、威厳ある男が口を開いた。
「久しぶりだな、フラン」
「ポンズ本部長。ご無沙汰しております」
ポンズはロッキに視線を移し、静かに頷いた。
「君がロッキ君か」
その背後に立つ、斧を携えた冒険者からは、
はっきりとSランクの気配が漂っていた。
「ベルゼ。あと一日待てないのか」
ポンズは低く言った。
「明日には、本部として島へ向かう準備が整う」
「……待てねぇよ」
ベルゼは即答した。
「アイナが、あの島で3日も持つとは思えない」
「同行する者の命の責任はどうする?」
「絶対に死なせません」
「上官の指示を無視する責任は?」
ベルゼは一瞬も迷わなかった。
「帰ってきたら始末書を書きます。
それでも許されないなら……冒険者を辞めます」
その覚悟に、ポンズは目を閉じた。
止められないと、最初から分かっていたかのように。
こうして4人は、
本部の正式承認を待たず、イルジョン島へ向かうことになった。
救出か、破滅か。
凶兆が示す方角へ――
運命の針は、すでに動き出していた。




