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処刑された最強呪術師、魔法世界でただ1人の禁忌となる  作者: 鬼喜怪快
1章 剣と呪術の因縁編

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19話 表裏一体の世界


 

 

 モンスターやエルフの密猟は、ギルド協会の規則などではなく、

 この世界そのものの禁忌とされている。


 特定地域にしか存在しないモンスターが他所へ運ばれ、繁殖でもすれば、生態系は容易く崩壊する。

 中には、人間同士の戦争に利用可能な個体も存在するため、売買は厳しく禁じられていた。


 そして――エルフ。


 知性を持ち、言語を操り、魔術すら扱う高位種族。

 人間社会には、彼らを「愛でる」者が少なからず存在する。


 特に女性のエルフは美しい。

 捕らえれば、高値で取引される。


 人間を見下す存在に首輪を付け、従わせる。

 その歪んだ征服感が、一部の愛好家の欲望を強く刺激するようだ。


 

 「……吐き気がする」


 フランが、その場に座り込んだ。


 「わたし達……何をしに、ここまで来たんだろ」


 道中で見た、殺された親子。

 彼らも密猟に関わっていたのだろうか。


 考えれば考えるほど、胸の奥が押し潰される。


 

 「じゃあよ」


 

 バーリが、絞り出すように言った。


 「ここに来るまでに殺されてた連中は、全員密猟者ってことか?」


 「……そうとは限らないと思う」


 ミラが静かに否定する。


 「林業をしていた人も多かったはず。

 籠城生活に耐えきれず外に出た人……そういう人が殺された可能性もあると思う」


 「全員エルフにか?」


 「弓矢で殺されていた人は、たぶん……。

 でも……斬られていた人もいたよね。もしかすると密猟者に口封じされたのかもしれない」


 

 フランは、思わず口元を押さえた。


  

 「……ロキ坊」


 震える声で尋ねる。


 「つまり密猟者って……今回の依頼主、だよね」


 「……うん。間違いないと思う」


 

 沈黙が、4人を包んだ。

 フランは俯いたまま、かすれた声で言う。


 

 「わたし……さらわれた仲間を助けに来たエルフを、斬っちゃったんだね」


 

 誰も、言葉を返せなかった。


 

 ――――――


 

 その時、小角が微かに顔を上げた。


 「……気配を感じる」


 人差し指と中指を揃え、下唇に当てる。


 

 『封印の式』


 

 教会裏から物音がした。

 音のした方へ向かうと、地面に浮かぶ円陣の中で、バジルが立ち尽くしていた。


 

 「なっ……なんだ、これ?」


 「エルフかと思いましたが……バジルさんでしたか」


 「はは……参ったな。心配で、様子を見に来ただけですよ」


 

 円陣を、バーリと小角が囲む。


 

 「聞きたいことがあります」


 

 小角は、淡々と告げた。


 「教会に、女のエルフが檻に入れられていますが。あれは何でしょう?」


 「まさか、エルフの密猟じゃねぇよな?」


 

 「ち、違いますよ!」


 

 バジルは必死に笑顔を作った。


 

 「僕と司祭さまで、エルフなんて捕まえられるわけないでしょう?

 あいつらの強さ、知ってるでしょ」


 「教会には、檻に入れられたモンスターもいたぜ」


 「……なんのことやらですよ……本当に」


 

 その間、ミラは教会の結界に手を当てていた。


 

 「……解析できそうよ」


 「本当ですか?」


 「時間があれば、解けるかも」


 「さすがですね、ミラさん」


 「かも、だからね。期待しすぎないで」


 

 バジルが慌てて叫ぶ。


 

 「や、やめてください! 結界を解いたら――」


 「解いたら?」


 「……エルフが襲ってきます。……ヤバいでしょ?」


 

 ――その瞬間。


 

 カーン……コーン……


 

 教会の屋上。

 大鐘が、鳴り始めた。


 

 カーン! コーン! カーン! コーン!


 

 止まる気配はない。

 周囲一帯に、この場所を知らせるかのような音。


 ――呼び寄せている。


 

 「そ、そんな……」


 バジルの顔が、蒼白になる。


 「僕、まだ外に……司祭さま……」


 仲間に、切り捨てられたのだ。

 

 「……フラン姉さん」


 ロッキが声をかける。


 「エルフが来ます」


 「……うん」


 返事は、弱々しかった。


 

 ――――――


 

 5体のエルフが、屋根や木の上に現れた。


 距離を取っている。

 フランの剣を、警戒しているようだ。


 リーダー格の男が腕を上げると、4体が弓を構えた。


 

 フランは、指示を出さない。


 ならば――


  

 「待ってください!」


 

 ロッキが前に出た。


 「君たちの目的は何です?」


 「……」


 「土地の占領が目的なら、我々も戦うしかありません。しかし――」


 

 「ふざけるな、人間!」


 

 怒声が飛ぶ。


 

 「こんな土地に用などない!

 我が娘を、取り返しに来ただけだ!」


 

 ――やはり。


 

 「娘さんを返せば、退いてくれますか?」


 「仲間を殺され、娘をさらわれて、それで終わると思うのか?」


 「こちらだって……何人か殺されている」


 「仕掛けたのは、お前達だ!」


 

 戦闘は、避けられそうにない。


 だが、フランは――

 立てない。


 

 「怪我を装い、娘が近づいたところを封印……」


 エルフの男が、吐き捨てる。


 「人間らしい卑劣なやり方だ」


 

 聞けば聞くほど、人間側に非がある。

 小角でさえ、この依頼の趣旨を見失いかけてしまう。


 

 その時。


 

 「――ロッキ君!」


 ミラが叫ぶ。


 「結界、解除できそうだよ!」


 

 Cランクでありながら、Aランク相当の解析能力。

 ミラは紛れもない天才魔法使いだ。

 

 結界の向こうには、真実がある。

 それを暴けば、全てが動き始めるだろう。

 

 フランは、震える手で剣を握った。

 正義も、悪も、曖昧なこの世界。

 

 ――何かを正すためでもない。


 

 今はただ、剣を握らなければ、

 自分自身が壊れてしまいそうだった。

 

 




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