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閃光の剣士と鬼使いの呪術師 ~魔力が支配する世界にひとりだけ~  作者: 鬼喜怪快
剣と呪術の因縁編

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16話 あの日の匂い


 集落に転がる死体を見てから、フランの様子は明らかにおかしかった。


 足を止めているわけではない。

 判断も鈍っていない。


 だが――身体が、微かに震えている。

 顔色は青白く、呼吸も浅い。


 「フランちゃん……大丈夫?」


 ミラの問いに、フランは一瞬だけ視線を向けた。


 「……問題ありません。先を急ぎましょう」


 声は落ち着いている。

 それが、かえって痛々しかった。


 ミラは水晶玉を握りしめ、感知を続けながら前へ進む。


 

 「現地で踏ん張ってる冒険者は……Bランクが1人、Cランクが1人だったよな」


 

 バーリが低く呟く。


 

 「そのメンツでエルフ相手は、正直きつすぎるぜ」


 

 フランは、短く頷いた。

 

 ロッキは、ギルドハウスで読んだ書物の内容を思い出していた。


 エルフ――

 魔物ではない。妖精に近い存在。森の主。


 本来は人間を避ける。

 だが、例外がある。


 人間を「獲物」として狩る個体がいる。


 見た目では判別不能。

 どのエルフにも、決して近づいてはならない――。


 そんな注意書きが、やけに脳裏に残っていた。


 

 「……止まって!」


 

 ミラが鋭く叫んだ。


 

 「反応が2つ! 大きな魔力……エルフ! 速い!」


 「全員、遮蔽物に――」


 

 バーリが言い切る前に、


 キン、と乾いた音が鳴った。


 地面に落ちる、4本の矢。


 何が起きたのか、バーリとミラには理解できなかった。

 ただ、フランが剣を振るった――それだけは見えた。


 「……戦闘態勢に入ります」


 フランは一歩前に出る。


 「バーリ、ミラさんは後退。ロキ坊は――」


 そこで、彼女は一瞬だけ言葉を止めた。

 ロッキを見る。


 迷い。

 そして、決断。


 「……わたしのサポートに徹して」


 ロッキの口元が、僅かに緩んだ。


 「了解しました」


 その一言と同時に、彼は小さく息を吸う。

 一言主神の力を、開放――


 フランは木々を蹴り、森の中を舞った。

 飛来する矢を、風の気配だけで弾き落とす。


 人間とは思えない動き。

 いや、エルフですら目を見張る速さだった。


 ロッキも前へ出る。


 フランが大きく跳躍し、木々の上へと躍り出た瞬間――

 2体のエルフが姿を現し、短剣を抜いて空中へ飛び上がった。


 その刹那。


 《止まれ!》


 空気が、凍りついた。


 2体のエルフが、宙で完全に静止する。


 

 「……!?」


 

 フランが驚いたようにロッキを見る。


 

 「すごい術……本当に、あのロキ坊?」


 「間違いなく僕ですよ」


 

 次の瞬間。


 フランの剣が、舞った。


 抵抗も、悲鳴もない。

 ただ、切断音だけが森に響く。


 ――トスッ。


 軽やかな着地。

 エルフの身体は、空から崩れるように落ちた。


 圧倒的だった。

 Aランク依頼の対象ですら、相手にならない。


 それでも、フランの表情は晴れなかった。


 

 ――――――


 

 その後も、4人は集落へ向かって進んだ。


 死体は増えていく。

 10人……いや、それ以上。


 50人ほどの集落と聞いている。

 すでに、5分の1は失われている。


 フランは胸を押さえ、走り出した。


 小川のほとり。


 3人の死体が目に入った。

 夫婦と、その娘だろう。


 両親は、娘に覆いかぶさるように倒れていた。


 「……っ」


 フランの喉から、掠れた音が漏れる。


 次の瞬間、彼女は膝をつき、嘔吐した。

 身体を震わせ、嗚咽を漏らす。


 「……どうしようも、なかった……」


 途切れ途切れの声。


 「強すぎて……あいつら……父さんと、母さんは……」


 島。

 あの日。


 ――忘れられない血の匂いがする。


 地獄の景色が、脳裏に重なる。


 ミラが、黙ってフランを抱きしめた。


 Aランク依頼。

 彼女の力が必要なのは分かっている。

 それでも――やはり残酷だったかもしれない。


 

 「……ここからは、僕が先頭に立ちます」


 

 ロッキが静かに言った。

 誰も反対などしなかった。


 

 ――――――


 

 4人は集落に辿り着いた。


 人の気配はない。

 だが、想像していたよりも集落の被害は最小限だった。


 中央に、小さな教会が見える。

 教会はどこの町や村でも避難所として作られているため頑丈な造りになっている。


 ミラの感知に、敵反応はない。


 

 「パジャン村ギルド所属、助けに来た!」


 

 バーリが叫ぶ。


 

 「誰か、生きてる者はいないか!」


 

 ――反応はない。


 「裏を見てくる」


 バーリが見廻りに行く――

 しかしすぐに戻ってきた。


 「……おい」


 その顔は笑っていた。


 

 「生き残りの連中……いるぜ」


 

 絶望の中に、かすかな希望があった。

 本来なら喜ばしいことだ。

 

 ただ――

 

 あの強さを持つエルフ達から生き長らえた人間がいる。


 全滅でもおかしくなかったはず――

 ロッキにはそこが妙に引っ掛かった。


 


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