15話 Aランクの依頼
「……Aランクの依頼が入ったって」
フランの声は、静かだった。
だが、わずかに硬さが混じっている。
「マスターから明日、全員集まって話をしたいって言われた」
ロッキは頷いた。
「いいと思います。話し合いは大事ですから」
ギルドからの帰り道。
畦道の分かれ目で、2人は足を止めた。
「……久しぶりだよ」
フランが、ぽつりと呟く。
「Aランクの依頼」
ロッキは何も言わなかった。
その背中が、ほんの一瞬だけ揺れたのを見逃さなかったからだ。
――――――
翌朝。
ギルドハウスの会議室には、フラン、バーリ、ミラ、ロッキの4人が揃っていた。
本来なら今日は休養日だった。
復帰から2日連続で依頼に出ている。
だが――
Aランク依頼が入ったとなれば、話は別だった。
「内容は、エルフ討伐です」
フランが、簡潔に告げる。
「南の山間部、集落がすでに襲撃を受けています」
バーリが息を呑んだ。
「エルフって……知的種族だよな?」
「うん」
ミラの表情も強張る。
「魔物みたいに、単純じゃない」
フランは頷いた。
「すでに戦闘は始まっている。現地の冒険者だけでは押し切れない」
――だから、Aランク。
その言葉を誰も口にはしなかったが、全員が理解していた。
「……先に言っておくね」
フランは、少しだけ間を置いた。
「この依頼、参加は強制しない」
バーリとミラの方を見る。
「危険だと思ったら、断ってくれていい」
一瞬、沈黙が落ちた。
そこで最初に口を開いたのは、バーリだった。
「誰に向かって言ってるんだ、フラン」
椅子に深く腰掛け、笑う。
「俺は将来Aランクになる男だぞ。ここで逃げたら一生笑われるわ」
ミラも、静かに頷いた。
「……行くよ、フランちゃん。フランちゃんを1人にしない。それに……」
彼女は、フランを真っ直ぐに見た。
「あの日、トロールに襲われた恐怖がまだ消えてないんだ。それを払拭するには、
この依頼を達成して、自分に自信を持たせてやるしかないと思う……だから付いていかせて欲しい」
ロッキは、2人の横顔を見つめながら思った。
――守りたい、だけじゃない。
フランと一緒に立って、成長したいんだ
フランは、小さく息を吐いた。
「……ありがとう」
そして、切り替えるように言った。
「作戦を説明するね」
地図を広げ、役割と陣形を指し示す。
その内容は簡潔で、合理的だった。
バーリの顔色だけが、目に見えて悪くなる。
「……俺、死ぬ率高すぎじゃね?」
「わたしが守るから」
即答だった。
バーリは青ざめながらも、苦笑した。
「本日中に準備を整えてください。出発は明日の早朝です」
「後発隊も準備される予定です。万一のために」
Aランク依頼。
ギルドの空気も、いつもとは違っていた。
「最後に」
フランは、全員を見渡した。
「依頼の達成は最優先。でも――」
一瞬、言葉を選ぶ。
「死ぬと思ったら、逃げていい」
ロッキが、軽く手を挙げた。
「僕がいるので、大丈夫ですよ」
次の瞬間。
「ロキ坊!」
フランが、人差し指でおでこを小突いた。
「調子に乗らない! 力があっても油断は禁物!」
「……ごめん」
バーリとミラが笑う。
張り詰めていた空気が、少しだけ和らいだ。
だがロッキは思う。
――この依頼
フランが試される大事なものになる。
だからこそ、最大限の準備をしなければならない。
――――――
翌朝。
ギルドハウスの前に、馬車が止まっていた。
ギルドマスターのカフザと、受付嬢たちが見送りに立つ。
「……無事に帰れ」
カフザの声は、低く重い。
フランは、真っ直ぐに頷いた。
「必ず」
馬車が動き出す。
2年ぶりのAランク依頼。
それはフラン個人だけでなく、パジャン村のギルドの命運を左右する任務だった。
――――――
移動と休憩を挟み、半日が経った。
山間部に到着し、ここからは徒歩で進む。
御者には安全な町まで戻ってもらい、必要があれば鳩で呼ぶ手筈だ。
「ミラさん」
「うん」
ミラは水晶玉を手に取り、感知魔法を展開する。
「……今のところ、エルフはいないよ」
「進もう」
草を分けるように、4人は奥へと進んだ。
木々には、無数の矢痕。
魔法で撃ち抜かれた痕跡も残っている。
「……やっぱり、ここで戦いがあったね」
その時。
「フランちゃん……」
ミラの声が、震えた。
草むらに倒れている人影。
背中に、矢が三本突き立っている。
「……集落の人だ」
4人は、静かに手を合わせた。
フランの肩が、わずかに震えている。
「……急ごう」
そう言って、彼女は進んだ。
気丈な背中。
ロッキには、それが必死に過去を振り払おうとしているように見えた。
彼は、黙ってその背中を追う。
フランに、2度と同じ結末を迎えさせないために。
剣と呪術の因縁編、最大の山場であるエルフ討伐へと物語が進みます。
この章では「フランの心の変化」と「ロッキの立ち位置」を意識して描いています。
フランが何を選ぶのか、ロッキは彼女を支えていけるのか。
その行く末を、見届けてもらえたら嬉しいです。




