13話 閃光のフラン
フランの復帰、最初の仕事はCランク依頼からだった。
隣村の田畑を荒らすモンスターの討伐。
隊長はフラン。
同行はバーリ、ミラ、ロッキの4名。
ギルドハウスに集まり、馬車で出発する。
久しぶりに見るフランの戦闘服に、自然と歓声が上がった。
淡い桜色の軽鎧。
それが彼女のトレードマークだ。
――閃光のフラン。
目で追えぬ剣速。
一歩踏み込めば、敵は斬られている。
その異名は、誇張ではない。
腰に差した剣は、かつて父が打ったもの。
彼女専用に試作された、軽さと強度を両立した剣だった。
完成品は――
あの日の依頼で、砕け散った。
ロッキは鬼門遁甲盤を取り出し、吉凶を占う。
本日の方角に凶兆はない。
――問題なしか。
少しだけ、胸を撫で下ろした。
「緊張しなくていいぜ」
馬車の中で、バーリが声を掛ける。
「俺の動きを見て、少しずつ思い出していけばいい」
「……ありがとう」
フランは小さく頷いた。
ミラは目を閉じ、魔力を整えている。
普段の彼女から感じる魔力とは、比べ物にならないほど力を温存していた。
――いいチームだな。
ロッキは、素直にそう思った。
――――――
移動すること3時間。
広大な畑に到着する。
所々が、無残にも踏み荒らされていた。
「マッドホーンだな」
バーリが言う。
「足跡も、被害の出方も一致してる」
「群れで……10匹前後かな」
ミラが補足する。
そこへ土地の管理者が駆け寄ってきた。
「パジャン村のギルドの皆様、ありがとうございます!」
簡単に状況を確認している間――
フランは1人、畑の外周を歩いていた。
やがて立ち止まり、遠くをじっと見つめだした。
「……来る」
その一言と同時だった。
大地を揺らしながら、12匹のマッドホーンが突進してくる。
巨大な角を携えた、バッファロー型の魔物。
「うわ、来たっ!」
管理者は悲鳴を上げ、一目散に逃げていく。
「距離を取るぞ!」
バーリが叫ぶ。
だが。
「……あれくらいなら」
フランは、前に出た。
「1人で、大丈夫です」
「え?」
剣に手を掛ける。
――抜刀の構え。
その瞬間。
ロッキは、身震いを起こした。
――魔力が、膨れ上がってる。
ベルゼをも上回る力。
いや、比べものにならない。
「おいフラン! 正面からは――」
バーリが呼び止める。
だが、遅かった。
桜色の閃光が走る。
光が不規則に跳ね、瞬きを許さぬ速度で駆け抜けた。
次の瞬間――
フランは、群れの向こう側に立っていた。
マッドホーンたちは、一拍遅れて崩れ落ちる。
12匹すべての首を絶っていた。
静寂が訪れる。
「……」
「……すご」
ミラの呟きだけが、場に落ちた。
バーリは、口を開けたまま動けなかった。
――これが。
ロッキは思った。
――これが、閃光のフラン。
――――――
帰りの馬車は、騒がしかった。
「全然鈍ってねぇじゃねぇか!」
「心配して損したよ!
ほんと、カッコよかった……」
フランは、少し照れたように笑う。
「受付の仕事が終わったら……訓練だけは、続けてたの」
「そりゃ、強いわけだ!」
バーリが豪快に笑う。
「お前、ほぼSランクだろ!」
ロッキは黙って、フランを見る。
――強い。
ベルゼとは次元が違う。
フランなら、トロールの群れも単独で攻略できただろう。
――それほどの剣と心を、折った存在がいる。
ふと、ロッキの思考が孤島へ向いた。
――いつか、行くことになる。
そんな予感がした。
パジャン村へ帰還すると、歓声が迎えた。
英雄の帰還。
村は、熱狂していた。
しかし。
フランの表情は、まだ晴れていなかった。
――本当の復活は、まだ先のようだ。




