1話 流刑の呪術師、異世界で目を覚ます
晴れ渡る雲、澄み渡る空――
伊豆へ流される船の上で、
国に裏切られた“最強の呪術師”役小角は、静かに目を閉じていた
口枷と手枷。
呪術師として生きてきた人生、最後の姿だ。
「……島流しか」
呟きを耳にした兵士が刀に手を置いた。
船を見張る兵士たちは、男の一挙手一投足に怯えた目を向けている。
――動けば斬られる。
だが、もうどうでもよかった。
数えきれぬ妖を討ち、人を救い、国に尽くした。
その果てが、裏切りと流刑。
自分を信じた者たちが、処刑されていった光景が脳裏をよぎる。
――最後は誰も守れなかった。
「……もう、いい」
伊豆に着いたら、静かに死ぬ。
それが、この人生の終わりなのだ。
――そう、思っていた。
――――――
それは新しい何かの始まりだった。
次に目を開けたとき、男は天井を見ていた。
木造の天井。
船でも牢でもない。
「……?」
――叫び声?
周りが騒がしい。
ここがどこかわからない。
そして――身体が痛い。
全身が傷だらけで、動かそうとすると激痛が走る。
「ロッキ! 目を覚ましたの!?」
見知らぬ女が泣きながら顔を覗き込んでくる。
隣には、同じく見覚えのない男。
「神様……ありがとうございます……!」
――誰だ。
私を、誰と間違えている。
混乱する意識の中、小角ははっきりと理解する。
ここは日本ではない。
そして、この身体は自分のものではない。
「……」
思考を巡らせようとした瞬間、
影の奥で“何か”が応えた。
――友人たちはここにいるようだ。
力は、失われていない。
もう1つの力はどうだろうか?
――試すか。
小角は咄嗟に言葉を紡ぐ。
《身体の傷よ、癒えろ》
部屋全体の、空気が震えた。
次の瞬間。
激痛と傷が嘘の様に消えた。
――魔法とは異なる理が、確かに働いた。
それを見ていた見知らぬ男女が息を呑んだ。
「ロ、ロッキ……?」
身体を起こす。
――これは……誰だ?
小角は鏡を見ている。
そこに映っているのは、10代半ばの少年だ。
――役小角は、確かに死んだはずだった。
しかし、
どうやら彼は異世界で、少年として目を覚ましてしまったらしい。
「ロッキ!」
見知らぬ男性が真っ直ぐに目を見て告げた。
「いいか、お前とアイナだけでも逃げるんだ」
その一言で小角は、理解した。
この身体――
すでに新しい物語に向けて動いているようだ。




