追放者、討伐に出る
ギルドで討伐依頼を受けた四人は、山脈のふもとから続く荒れた山道を歩いていた。
ガルドが大盾を背負いながら進む。
「はぁ……よりによって山登りか。俺、山登りだけは嫌なんだよな……」
「タンクの体力でそれ言う?」
エリスがジト目を向ける。
「いや、体力はあるけどさ、山の虫が苦手なんだよ……あいつら顔にめがけて飛んでくるからな……」
「トロールの一撃を涼しい顔で受けてた人とは思えないよ……」
リアンが苦笑する。
サイラスはというと、本を開きながら歩いていた。
「ふむ、この地方のワイバーンは巣材に乾燥した草と捕食した生物の骨を使う……なるほどなるほど……。あ、でも——」
「先生、前見て歩いて」
リアンが言った瞬間、
サイラスが石につまずいて転びそうになる。
「おおっと!? ……す、すみません気をつけます。」
エリスが呆れ気味にため息。
「本番前に転んで怪我したらギルドなんて報告したらいい? “先生、ワイバーンより先に小石に敗れる”でいい?」
「それはさすがに不名誉すぎますね……」
「違うって言うけど、先生って言われるともう本人が反応しちゃってる」
リアンが笑う。
サイラスは微妙に恥ずかしそうに咳払いした。
「……ええ、もう先生では無いのですが。呼びやすいのは分かります。はい。」
ガルドが後ろでぼそっと言う。
「残念ながら定着するな、これは……」
ワイバーンの巣の近くの崖道
風が強くなり、空気が少し冷たくなった。
山壁に沿った細い道が続く。
エリスが前に出て険しい顔を見せる。
「ここから先、ワイバーンの縄張り。気を抜かないで」
リアンは杖を握りしめながらも、ちょっと弱音を漏らす。
「うぅ……胃が痛い……。昨日のパスタのせいじゃないよね……?」
ガルドが横でぼそっと言う。
「違うと思うが……俺も胃痛いぜ……虫のせいで……」
「ガルドは昨日食べすぎただけでしょ」
エリスが突っ込んだ。
サイラスは空を見上げながら、さらっと恐ろしいことを言う。
「ふむ、この風の流れ、こんな険しい山に巣、これはかなり大きい個体でしょう。もしかすると固有個体の可能性も——」
「恐いこと言わないで!?」
リアンの声が裏返った。
サイラスは無自覚に頷く。
「言いたいことを抑えられない性分でしてね……研究者とはそういうものです」
一行はその前進み山頂の岩場に足を踏み入れた瞬間、空気が一変した。
熱気。
乾いた血の臭い。
羽ばたき——。
次の瞬間、巨大な影が上空から舞い降りる。
ギャアアアアアアッ!!
ワイバーンが咆哮し、岩が震えた。
「来やがったな上等だ!」
ガルドは大盾を地面に突き立て、一気に雄叫びを上げた。
その背中はワイバーンに引けをとらないほど大きく頼もしい。
「エリス!正面は任せろ!全部俺が受け止める!!」
エリスは剣を抜きつつ口角を上げた。
「言ったわね、責任重大よガルド!」
ガルドは力強く頷く。
「見せつけてやるぜ……俺の“本当の防御”ってやつをな!!《ガーディアンシェア》」
ワイバーンが急降下し、爪がガルドへ迫る。
ガルドは盾を構え——
ガァンッ!!
衝撃で足元の岩が砕ける。
だがガルドの体は微動だにしない。
「おらぁッ!この程度で俺は倒れねぇ!!」
盾越しに響く咆哮に、ガルドも吠え返す。
「ガルド、いい囮!」
エリスは風のように横へ回り込み、ワイバーンの翼の付け根へ剣を突き刺す。
「討伐隊ではいつも一歩後ろだったけど!」
ワイバーンが怒り狂い、尻尾を振り回すが、
エリスは退くことなく二撃、三撃と重ねる。
「私は二番手なんかじゃなかった……あいつが勝手にそう思ってただけよ!」
遠距離から見ていたリアンは、歯を噛み締めた。
「……そうだよ。私は何もしてなかったわけじゃない……みんなの命、全部支えてた……!」
杖を握る力が強くなる。
「もう“いらない”なんて言わせない……!!」
リアンの魔法陣が輝いた。
「《自動再生》!」
淡い光がガルドとエリスを包み、
筋肉の損傷、打撲、細かな傷を一瞬で癒す。
ガルドが振り返る。
「リアン、助かったぜ!」
エリスも笑う。
「いい腕じゃない!」
リアンは胸を張った。
「どんな怪我でも治すから! 任せて!」
一歩下がってワイバーンの動きを見ていたサイラスが、静かに呟いた。
「……よし、観察は完了です。」
「観察!?今!?」
リアンが思わず声を上げてしまう。
サイラスは冷静すぎる顔で頷く。
「ワイバーンの呼吸のリズム、顎の噛み締め方……。
次の攻撃はブレス——今です。」
ワイバーンが大きく口を開く。
「やばっ……!」
ガルドが盾を構えるがブレスの直撃はダメージが大きい。
サイラスが杖を構え、青白い光を走らせた。
「《氷鎖陣》!」
地面から氷の鎖が飛び出し、
ワイバーンの口と翼を瞬時に縛る。
ブレスが喉の中で詰まり、
ワイバーンが苦しそうに暴れた。
「ナイスよ、先生!」
サイラスは静かに返す。
「ええ。学園を守るために、こういう術は何度も使ってましたので。
……まあ、誰にも気付かれませんでしたが」
「大丈夫だよ!今は全員わかってるから!」
リアンの言葉に少しだけサイラスの口元が緩む。
「よし、チャンスだ!ぶっ倒すぞ!!」
「了解!いくわよ!」
「みんな、支えるから全力で!」
「動きを固定します。今のうちに。」
四人の動きが完全に噛み合う。
ガルドが突進し盾でワイバーンの胸を打ち、
エリスが翼を斬り裂き、
リアンが連続回復で二人を常に万全へ戻し、
サイラスが弱点を魔法で暴き、行動を封じる。
もはや追放された落ちこぼれではなかった。
本当の英雄たちの姿だった。
ワイバーンが最後の咆哮を上げた瞬間——
エリスが跳躍。
剣を逆手に構え、真上から落下する。
「これで終わりよ——!」
ドシュッ!!
剣が首筋を深く貫き、
ワイバーンは大きな体を崩して倒れた。
砂煙が消える頃、全員が息を吐いた。
「……討伐完了」
「よっしゃぁぁぁ!!」
「ふ、ふぇ〜……緊張した……!」
「非常に有意義でした。討伐も、観察も。」
討伐の証拠としてワイバーンの牙と翼の一部を持って、四人はギルドへ戻ってきた。
扉を開けた瞬間——
賑やかな酒場風のフロアの空気が、ふっと静まった。
ざわ…… ざわ……
「あれワイバーンの翼……だよな?」
「討伐できたのか?」
ざわつく視線が一斉に向けられる。
ガルドが小声でつぶやいた。
「おい……注目されてるぞ……」
リアンもソワソワする。
「いきなり目立つの苦手なんだけど……」
エリスが肩をすくめた。
「そりゃ新規パーティーがワイバーン討伐して戻ってきたらみんな見るでしょ」
サイラスは落ち着いていた。
「観測するのにはなれていますが。観察されるのは新鮮です」
「観察って言い方なんかやだ!」
リアンがツッコんだ。
カウンターへ近づくと、受付嬢のミアが驚愕の表情で固まっていた。
「お帰りなさい……!ワイバーンの依頼はどうでした……?」
ガルドが胸を張る。
「もちろん!討伐してきたぜ!」
エリスがワイバーンの一部をカウンターにゴトッと置いた。
「確認して」
ミアは慌ててそれを見て、
さらに驚いた。
「こ、これは……まぎれもなく“成体”のワイバーン……!
しかも大きい……!討伐成功です!!」
ギルド全体がどよめく。
「え、新人パーティーじゃなかったのか?」
「いやでもあのタンク、どっかで見たことあるような……」
「ヒーラーの子、あれ元勇者パーティの?」
「騎士の女の人、討伐隊のエリス様じゃ……?」
ひそひそ声が飛び交う。
リアンが顔を赤くして縮こまる。
「み、見られてる……あああ、恥ずかしい……」
ガルドが苦笑する。
「俺もこんな注目されるの久しぶりだな……まあ悪くはねぇけどな」
エリスは誇らしげな様子で腕を組む。
「目立つのって結構気持ちいいものね」
サイラスは相変わらず冷静にメモしていた。
「……ワイバーンの魔力構造、やはり興味深い。報告より記録が優先ですね」
ミアが書類をまとめながら、深々と頭を下げた。
「本当に……すごいです。危険度の高い依頼を、一日でこなしてくるなんて……!」
後ろからギルドマスターまで登場する。
「本当に君たちがやったのか?」
ガルド「もちろんだ!」
エリス「依頼内容は果たしたわ」
マスターはしばらく四人を眺めてから、腕を組んで言った。
「……いい眼をしてる。“本物の戦士の眼”だ」
リアンが嬉しそうに笑う。
ミアが袋を差し出す。
「こちら、ワイバーン討伐の報酬です。どうぞ!」
ガルドが後ろから押し込むように言う。
「よし! 今日は豪勢に行こうぜ!」
リアン「うんっ!」
エリス「……いい仕事をしたあとはいい食事ね」
サイラス「私は研究のための備品を……」
「そういうのは後! ご飯行くよ先生!」
リアンが腕を引っ張る。
「おい、あいつら……本物だぞ」
「追放者の寄せ集めって聞いたけど……逆に最強じゃね?」
「タンクの兄ちゃん、ワイバーンの攻撃をたえるとか耐久やべぇだろ……」
「ヒーラーの子、あれ勇者より勇者じゃね?」
「エリスって騎士いつも後ろに隠れてるイメージだったけどそんなに強かったのか……!」
「あの魔法使い、元先生らしいけどなんでこんな所に……?」
ざわめきが広がり、四人は冒険者たちの視線を浴びながらギルドを後にした。




