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兄は影のように

「やぁ!我が妹よ!今日の気分はどうだ!」


 は?なんでそんな朝から元気なの?しかも昨日私に怒られたよね?何事も無かったような顔しないでよ……


「自分で起きれる……出てって」


「そうか着替えなくちゃいけないもんな!でも流石にオレの愛しい妹も高校生……兄であるオレでも見るのは……っが!」


 我慢できなかった。衝動を止められなかった私は手元にある時計を兄の顔に投げつけた。

 

 キモイ。朝から気分最悪……口に出す前に手を出しちゃったよ……


「じゃ!オレは下で待ってるから!」


 そう言うと兄はドアを閉めて一階に向かったようだった。


 なんで時計を顔にぶつけられたのに怒らなかったの?文句の一つもでてくるはずなのに……なんで?


 朝から無駄に心をかき乱される。疲れた……


「妹よ!昨日はぐっすり眠れたか!?」


「…………」


「まさか気分はまだ悪いのか……っ!?」


「………………」


「まずいな……こんなに喋らなくなるなんて体調がおかしいのか!?だったらそれは一大事だ!はやくどこか病院へ!」


「おかしいのはあんたの頭だよ!」


 抑えきれなかった。無視に徹しようとしたのに兄は無視できないほどの答えを投げつけてきた。そんな私はやむを得なく兄の頭をガチョーンと手刀で叩いてしまった。


「ああ、なんだ結構元気じゃないか。良かった……このぐらいの力が出せるなら大丈夫だな」


 こいつ人の話聞いてねぇな……なんなんだうちの兄は……私の攻撃をすべて無視した上でさらに上回るイライラをカウンターでぶつけてくる。


「それじゃ今日も送ってくから」


「…………」


「それじゃ出発だ!」


 朝ごはんを食べ終えた私たちはいつものように兄が車で学校に送り届けてくれる。それは兄が免許をとった日からずっとだ。おかげさまで雨の日も風の日も遅れることなく余裕を持って学校に行けてる。渋滞の日を除いて……


 私はもう徒歩や自転車で学校にいけない体になってしまった。車での通学があまりにも快適だからだ。しかし帰りは違う。私には友達と一緒に下校したい時もあるからだ。


 お小遣いなら兄から結構貰っている。これで学校帰りの食べ歩きにも困らない。しかし門限はある。しかもそれは親が設けたんじゃなくて兄がつくったのだ。


 それは学校の友人が一緒に下校しようと言ってきた時だった。


 そこで私は一緒に帰ろうとしてくる兄をなんとか説得してようやく自由が手に入ったのだ。


 その代わりに門限を付けられてしまった……それが夕方の五時だ……嘘でしょ?私は小学生かよ。今どきの小学生でももう少し遅く帰るよ?


 しかし残念ながらこれ以上引き下げることは叶わなかった。もしお小遣いを減らされたりでもしたら……いやあの賢い兄のことだ。財布の紐も握っているのだから最悪お小遣いを貰えなくなるかもしれない。


 それなら親に頼めばいい……と思うだろう……しかしそうも上手くはいかない。だって私は中学生の頃からずっとお小遣いは兄にもらっているのだから。いまさら頼み込んだところで貰えるとは思えない……それにいつもたくさんもらっているからその上さらにせがむなんて親からしたら目も当てられないだろう。


 それにいつも異常に甘やかしてくる兄が突然私に厳しくしたのであれば、なにかしでかしたのではないかと怪しまれるのは私だ。


 兄は私以外にはパーフェクトコミュニケーションして周りからは良い顔をされる。そんな信用度ぶっちぎりの兄と私を天秤にかけるなら逆立ちをしたってかないっこない。


 なんで私も周りと同じ対応をしてくれないんだろ……


「どうしたんだ?なにか悩み事か?」


 お前のせいで悩んでんだよ。


「…………」


「そうか、話したくないのか。あんな可愛かったチビ芽唯も今は大きくなって綺麗になった……高二なら思春期真っ只中だもんな……」


 兄は寂しそうな顔をした。めったに見ない顔だ。なんだか少し心がチクチクする……

 

「でもオレはどんな芽唯も好きだ。()()()()()()()()()()()、反抗期だろうとオレはこの体をもって全身全霊で受け止めるさ」


 兄の少し憂いを帯びた優しい言葉は、私を包み込む。なんでこの人はこんなに私ばかりに優しくするんだろう……


 でもそれは今に始まったことじゃない……気づけばずっとこうだった。私が一人、人知れず泣いていても兄だけはすぐ……三秒以内には見つけてくれた。泣き止むまで一緒に居てくれる……いや泣き止んだあとのアフターサポートも充実してたんだった……

 

「……昨日の夜、怖い夢でも見たのか?」

 

「え? なんで知ってるの」

 

「ああ、なんだか……そんな顔してた気がしてな」


「…………」

 

「今日は門限無しだ」


「え?」


 初めてそんなことを言われた。兄はやっぱり頭が良い……口にしなくてもわかってくれる。


「たくさん友達と遊んでくるといい。財布の中にある金は三万で十分か?」


「十分だよ……」


 私の財布にはいつも三万が入っている。使い切るか少なくなったら兄から勝手に補充してくる。


 これだけは唯一友達に自慢しても引かれなかった。


 羨ましいって言われた。でもそれと同時にやっぱりシスコンだねとも言われる。


 学校に着いた。兄は大学に行くためにそのまま車を走らせる。


 教室の中には既に私の友達も集まっていた。

 

「ねぇ、今日たくさん遊ぼうよ」


「え?でもめいっちーは門限があるんじゃなかったの?」


「今日だけは門限なしなんだ。だから親に怒られないぐらいの時間までなら遊べるよ」

 

「「おおー!!」」


「門限無しとか、ついに親が折れたんじゃん〜」

 

「ああ……うん、兄が許してくれたの」

 

「じゃあ今日はカラオケ二十四時間コース!」


「ははっ、さすがに喉壊れちゃうよ」


「いや気にするところ。そこー?」


「そうだよ。めいっちーが一日も居なくなったら親よりも先にめい兄が血眼で日本中探し回るでしょ〜キャハハっ!」


 私の兄は少し有名人。


 それも学校が文化祭の時、兄と一緒に学校をまわったところ色んな女の子にキャーキャー言われてた。改めて言おう。兄は顔がいい、声がいい。私以外にはそっけないところも逆に女子たちの心をガッチリ掴んでいた。


 知らない隣のクラスの子も私と仲良くしたがってた。ひと目でわかる。こいつ私の兄狙いで近づいてきたんだな……と。


 そんなこんなで私の兄は通称めい兄と呼ばれる。

 

 それに兄は学校行事があるなら絶対来てくれる。運動会でもなんでも来てくれた。


 ……今思えば、なんであの人は大学の試験日でも運動会に来てたんだろう。


 普通、そこまでする?

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