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怪盗バトル!デジタル魔王怪盗VSアナログ怪盗夫婦

「……芽唯は、オレのだ」


 練は観覧車のゴンドラから出ると、即座にスマートウォッチを操作した。


 遊園地内に配置していたドローンカメラがすぐさま空へ舞い上がり、園内の人流と移動経路をリアルタイムで解析し始める。周囲のスマホ信号も同時にスキャン、Bluetoothで通信中のデバイスを割り出していく。


「……あった。って――母さんの型落ちスマホ……」


 練は舌打ちしながらスーツの内ポケットから超小型PCを取り出した。指を素早く動かし、地図にポイントをマーキングしていく。


「奴らの逃走経路、想定3ルート。今、AからBへ向かっているな」


 その瞬間、彼のインカムが雑音に覆われる。


『……ざ……えい……るくな……こ』


 練は眉をひそめる。


「妨害電波か……やるじゃないか、親父」


 一方その頃。


 園内の裏通路、ふたりの黒装束――芽唯を抱えた父と、それをサポートする母が物陰をすり抜ける。


「まったく……あの子があそこまで練の奴に傾いてるとは思わなかったな――やはり俺たちの読みは合っていたらしい」


「怪盗としての勘はますます健在ね――それに練から奪い返すことにはちゃんと意味がある。芽唯の未来を守るのよ」


「ねぇ!何が起きてるの!?」


「ふふっ、怪盗夫婦が産んだ魔王からお姫様を取り返しているのよ」


「ガハハっ!自分の息子を魔王呼ばわりか!随分ひでぇ扱いだな!

 ――しかし空中にあれだけ鉄の塊をブンブン飛ばしているんだ。言い得て妙だな――!」


「もう意味わかんない〜!」


 私は次から次へと慌ただしく変わり変わる展開に置いてけぼりにされていた。


 そう母の脇に抱き抱えられている人形のように――


「で、次は!?」


「第2ルートからパレードの群衆に紛れて北出口。そこで偽装ワゴンに合流よ」


 母は地図を一瞥し、懐中時計を開いて微笑んだ。


「昔取った杵柄ってやつよ」


 観覧車の頂上から、すでに練のドローンが全方位の映像を収集していた。


「群衆の中に紛れてるなら、顔は隠してるはず……」


 練はすぐに画像解析ソフトを起動。数年前に撮られた両親の顔写真を元に、骨格・身長・歩行パターンから逆算。


 そして、群衆の中に紛れた“変装済みの両親”の姿を特定。


「いた。……ご丁寧にピエロの格好か」


 すぐに観覧車のメンテナンス通路へ走り出した練は、手首のデバイスを叩いて起動。


「……ワイヤー射出、準備」


 観覧車の骨組みを伝って外壁を滑り降りる。足場がぐらつくたびに冷静に体勢を整え、ドローンからの指示で群衆の真上へとたどり着いた。


 そして――


「芽唯!」


 群衆の中で、ピエロの仮面がふっと緩む。父が仮面を取ると、静かに言う。


「来たか、練」


「あんたたちには渡さない。オレの妹だ。オレの血だ。オレの宝物だッ!」


 言葉に怒気をにじませながら、練はドローンの戦闘モードをONにした。


「……なにこれ」


 母が引き攣るように言う。


「あんた達の世代じゃ――こんなのはなかったろ?」


 ドダダダダダッ!


「この野郎――!同じ血を分けた親にこの仕打ち!?

 不良息子ってレベルじゃねぇぞ、これ!」


 父が苦し紛れに言い返す。がどこか楽しそうだった――

 まるで現役時に散々世の中を引っ掻き回していたかつての黄金時代のように――


「いくら暴力で抗おうと、親子愛の前には無力さ!」


 瞬間、父が手元の爆竹を炸裂させた。小さな煙幕が噴き出し、視界がかき消される。


「またかよっ!うざいな……!

 しかしその親子愛を息子に向かって言うか――?」


 練は手を振って煙を払いつつ、叫んだ。


「そんな昭和のやり口でオレを止められると思ってるのか!?」


 煙の中を掻き分け、練が前進しようとしたその時――


『ピンポンパンポーン♪ 本日、急遽パレードは終了となりました~』


 練の声が響く園内放送。いつの間にか、園内放送システムまでハッキング済みだった。


  煙が晴れた時、そこにいたのは芽唯を抱えた母の姿だった。

 彼女は大きなブランケットで芽唯の顔を包むようにし、まるで娘を守る母親のような構図で佇んでいた。

 

「やっぱり――来たのね」

 

 練は数秒だけ躊躇し、息を呑んだ。

 それでも、異様な違和感が脳裏をよぎる。

 

「……ちょっと待て。母さん、なんでそんなに大人しく待ってる?」

 

 彼が踏み出したその瞬間、母はニヤリと笑い、腕の中の芽唯らしき存在を――そのまま地面に投げ捨てた。

 

「じゃーん♪ 正解は――ダーミーでーしたっ!」

 

 ブランケットの中から転がり出たのは、等身大のぬいぐるみ。表情はなぜか「(´∀`)」。

 

「なっ……!」

 

 そしてすぐさま、近くの壁際に止めてあった小型の荷台カート――その中から、布団のようなものがガバッと開き、本物の芽唯が姿を現す。

 

「えっ!?私、なんで荷台に入ってんの!?」

 

「スライドベッド式の旧型運搬カートよ。今どきこういうアナログの方が、逆にバレにくいのよ」

 

 母は余裕の表情で背を向け、芽唯を引っ張り起こす。

 

「……っていうか、私、いつの間に!?」

 

「――まったくだ、オレも知りたいッ!くそっ!うざいにも程があるっ!

 なっ……!」


 だがその背後、リアル芽唯を抱えて素早く逃走する母の姿が、ドローン映像の中に――

 その瞬間、練は走り出した。


「……逃がすかよ」


 指先が小型PCをタップし、リアル芽唯を抱えて逃走中の母の進路に、先回りするよう別ルートのドローンを配置。


 通行人たちのスマホが一斉に撮影を始める。SNSに拡散されるのは時間の問題。だが、練は動じない。


「父さんは群衆に紛れたか……あの人をどうするかの判断はAIに任せる……オレは、芽唯を取り返す」


 彼は観覧車の外骨組みを一気に滑り降りると、すぐさま出口付近に展開していた予備の電動スケートボードに飛び乗った。背中のリュックから取り出したのは、網射出型ポータブルランチャー。


「逃走経路C……ここで止める」


 園内のマップをフロアスキャンで確認、母の進行方向を遮るように自動制御のトラップを設置。アーケード下、ぬいぐるみ売り場の陰に母が差しかかった瞬間――


 バシュッ!


 天井から降ってきたのは、練の張り巡らせた罠――人工ナノ繊維でできた軽量トラップネット。


 母は咄嗟に身をひねりながら叫ぶ。


「お父さん!陽動が切れたわ!」


「まったく……最近の子はみんなネット張りたがるんだから……!」


 父がやれやれと首を振りながら、もう一体の等身大人形をバラしていた。どうやら陽動は三段構えだったらしい。


 練は眉をひそめる。


「まだダミーがいたのか……!」


 しかし――


「でもオレには、AIがいる」


 彼は背中の通信機を起動。複数の角度からドローンが送ってくるデータを解析し、"呼吸の仕方"と"瞳の反射率"で芽唯本人を特定。


「このデータ……母さんの腕の中のそれは――間違いない、本物だ」


 その場でスケートボードを捨て、全速力で通路を突き進む練。


 母が振り返る。頬に汗を垂らしながら、なおも走るその姿は、かつて練を育てた時の記憶を呼び起こさせた。


「やっぱりあの子……育て方を間違えたかしらね」


「いいや、あいつは立派に育った。問題は、立派すぎたんだよ――親の制御を逸脱するほどにな」


 父の声が背後で届く。次の瞬間、母が練の方を見てにやりと笑った。


「……でも、まだ早かったわね」


 そう言って投げたのは――スモーク缶ではなかった。手榴弾型の強力閃光弾(ただし非殺傷、花火タイプ)。


 ドォン!!


 閃光と煙が広がり、練はその場で思わず目を閉じる。


「――っく!」


 しかし、彼の背中のドローンは違う。AI制御のカメラは逆光補正と熱感知をもって、逃げる二人の動きをロックオン。


 練は視界が戻ると同時に、即座に足を踏み出した。


「今度こそ……逃がさない!」


 風を裂き、喧騒を越えて、練の手が――母の肩を掴んだ。


「その手を離せ」


 低く、鋭い声。


 母は立ち止まり、息を整える。


「ふふ……やっぱり、勝てなかったわ。機械と若さには」


「いや。勝ったのは――オレの執念さ」


 練は芽唯をその腕に取り戻した。


 ――その瞬間、母はにっこりと微笑んだ。


「……怪盗から怪盗へ。娘はまんまと次の世代によって、奪い返されたということね」


 練は苦笑いを浮かべ、ぽつりと呟いた。


「……ほんと、うざい親だよ」


 母はにやりと口角を上げて言った。


「それはお互いでしょ?

ホント、とんでもないイタズラ小僧に育ったわね。

――うざったいルームメイトくん」

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