大丈夫!? でも大筋からは逸脱していない!
「……悪魔付きの女性、名前はまだ不明だけど、悪魔は祓えたと思う」
「! え、そうなんですか!?」と言いたくなるのを呑み込む。代わりにロイが話しながら書いている紙を覗き込む。そして驚きの表情をすると、ロイはクスッと笑う。
神官をしているだけあり、その笑みは何というか癒し。
「最初は、こことは違う世界から来たとか、自分でも何が起きているか分からないとか。かなり迷走していたと思う。それでも昨晩から今朝にかけ、ぼくを含めた数名の神官で、悪魔祓いの儀式を行ったら……ついに憑りついている悪魔が自身の名を明かした。アグラと名乗っていたから、恐らくアグラット・バット・マハラトという名で知られる女悪魔が憑いていたのだろうね」
ロイは話しながら羽根ペンを紙に走らせているが、私はただただビックリ。転移したヒロインが悪魔憑き!? 絶対に違うだろう。多分、元の世界の苗字がアグラ……安倉や阿楽だったのでは!? ゲームではカタカナで『ハヅキ・リコ』がデフォルトネームで、そこを自分の好きな名前に変更できるようになっていた。
ともかく異世界から来たと正直に打ち明けても、本来のゲームのように「これは女神のお告げに記されている異世界の乙女ではないですか!? この世界に新たなる知恵と知識をもたらすと言われている」とはならないので、仕方なく悪魔が憑りついていることにして、本名を名乗った……そんな風に思えてしまう。
「ただ悪魔を祓っても、彼女自身、自分がどこの誰かも分からない。着ていた衣装もなんというか特殊。何よりあんなふうに足を露出している国は……この大陸では見かけない。そういった点からも、やはり悪魔が憑依していたと思うけど、今は混乱した状態の少女に過ぎない。年齢もぼく達と同じ十八歳ぐらいだ。しばらくは大神殿で預かり、二度と悪魔が憑依できないよう、神に祈りを捧げてもらうことにしたよ」
何ともイレギュラーな登場をしたヒロインは、王道の展開からかなり逸脱している。これで本当に大丈夫なのかしら……とやはり思ってしまうが、大筋の流れからは逸脱していない。ちゃんと大神殿で保護されているし、攻略対象からはその存在を認識されている。一応。
「ということでまだ寝ていると思ったグロリアに会えて、さらに悪魔祓いの成功の報告が出来て良かったよ。公爵からも報告を求められていたし、グロリアも僕が報告しないと怒り……いや、何でもないよ。ともかく今朝会えなかったら、午後にでも改めて尋ねるつもりでいたんだ」
グロリアとロイは同い年の幼なじみ。でもロイのことをグロリアは……子分のように扱っていたのだろう。だから今回の悪魔憑きの件も、すぐに報告しないと怒られると思った。ゆえに儀式を終え、帰宅した足で訪ねてくれたのだと思う。
「あ、あとね。今朝立ち寄ったのは、大神殿の庭園で咲いているカラーも届けたかったんだ」
大神殿の庭園で咲いているカラー!
白い大きな花びら(実際は花びらではなく苞)と、その中心にある黄色のトウモロコシのような肉穂花序。ラッパのようなその形状は、目を引くものであり、大神殿の祭壇を飾る、神聖な花として知られている。
特に大神殿に飾られたカラーには、魔除けの効果があるとされ、参拝者が時にお金を払い持ち帰るぐらい人気。
「公爵邸の警備は厳重だし、今回のような悪魔憑きの女性がそう現れることはないと思う。それでも念のため。お守りとしてカラーを届けたくて立ち寄ったんだ」
ロイの気遣いに感動し「ありがとう!」と言いたくなるのを我慢して、彼が今の内容を紙に書き記すのを待つ。ようやく書き上げられた文字を見て、私は身振り手振りで感謝を伝える。
「喜んでくれたようで良かったよ」とロイは言うと、ふわっと欠伸をした。今朝まで悪魔祓いをしていたなら、眠くなって当然だった。
「じゃあ、ぼくはそろそろ帰って休むよ」
「分かったわ」を示すため、私はロイにペコリと頭を下げた。
お読みいただきありがとうございます!
ふわっと眠くなる時間ですね。
ゆっくりおやすみなさいませ。
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