ヒロイン視点(3)
素敵なソプラノボイスが聞こえ、中に入るように応じてくれる。
いよいよだ――。
ロイに続いて応接室に入り、その豪華さに息を呑む。
一面がガラス窓になっており、そこは完璧に手入れされた庭園が見えている。
きっちり刈り込まれた芝生とトピアリー。そこに飾られている大理石の女神像。まるで公園のように噴水まである!
すごい!
やはり前世のヨーロッパの宮殿のようだ。
そしてそれらの景色を背景にソファに座るグロリア……。
宝石のような碧い瞳に、輝くようなブロンド。
アクアブルーのドレスには繊細な刺繍があしらわれ、とても美しい!
透明感のある肌に、バラ色の唇と頬。
にこやかに微笑む姿は……め、女神様だ……!
思わず祈りたくなるが、その彼女の座るソファの後ろに、綺麗な姿勢で立っている王子様のような青年がいる。
アイスシルバーの髪に、瞳はサファイアのようだ。西洋人らしい高い鼻で、彫りの深い整った顔立ち。しかもグロリアに負けないぐらいの美肌で、長身でスリム。スリムだが引き締まった体つきをしており、前世風で言うなら見事な細マッチョ様だ。
その王子様のような青年が口を開く。
「ロイ。僕達は隣室へ行こう。グロリアは彼女と二人きりで話したいそうだ」
グロリアにあわせたかのような、彼女のドレスより少し濃いアクアブルーのセットアップを着た青年が笑顔になる。
「分かったよ、エルク。じゃあ、リコ。失礼がないようにするんだよ」
「は、はいっ」と私が返事をすると、グロリアは彼対面のソファに私が座るようにと勧めてくれる。
着席しながら気が付く。エルクという名前。彼こそがエルク・ウィリアム・ハリントンであり、この国の筆頭公爵家の令息だ!
ハリントン公爵家といえば、神官や神官見習いで知らない人はいない。なぜなら大神殿に多額の寄付をしているため、その名があちこちに刻まされているからだ。ハリントン公爵家の寄付で建てられた図書館。ハリントン公爵家寄贈の巨大なタペストリー。ハリントン公爵家が寄進した絵画などを、日々目にしていたのだ。
そんなエルクとグロリアは婚約しており、一年後に挙式すると新聞で紹介されていた。
まさに美男美女の二人に、ほうっとため息をつきそうになっていると――。
「じゃあ、グロリア。ごゆっくり」
エルクはソファに座るグロリアが振り返ると、そのおでこへ優しくキスをする。
大神殿でも神官が参拝者に祝福を与える際、おでこへキスをするのだが……。
エルクのグロリアへのキスは、何とも絵になるというか、映画のワンシーンを観ているよう。
何より、エルクの動作が洗練されているし、その眼差しにグロリアへの深い愛が感じられる。
相思相愛の二人。挙式前だが既にラブラブだった。
そんな様子を見た私は気持ちが温かくなる。
二人の未来に幸あれ――と心の中で祈ってしまう。
そうしている間にも、王子様なエルクとロイが退出。そこでグロリアは私が手に持っているカラーと香油に気が付き「もしかしてプレゼントかしら?」と微笑む。私は「は、はいっ! 大神殿の中庭で摘んだカラーと、私の手作りの香油です。もしよろしければ、受け取ってください!」と伝えると……。
「嬉しいわ。大神殿のカラーはとても貴重よ。それ以上にあなたの手作りの香油。大切にするわね」
女神の微笑みに、自然と私も笑顔になる。
なんて素敵なご令嬢なんだろう。
そしてロイ同様、とても同い年には思えない……!
笑顔のグロリアは、私が先程謝罪した侍女にカラーを渡し「エントランスにいけましょう。今晩の夕食会にいらっしゃる伯爵夫妻がご覧になったら、喜ぶと思うわ」と伝える。「かしこまりました、お嬢様」と侍女も笑顔。
大神殿のカラーは、参拝者が買い求めるぐらい人気のもの。
それを見るだけで、邪気が祓われると言われているぐらいなのだ。
自身の部屋に飾り、独り占めすることもできるのに。
来客にも見せようと考える彼女の配慮に、密かに感動してしまう。
私が感動している間に、侍女は退出。ソファの前のローテーブルに用意されているティーカップにメイドが紅茶を注ぎ終えると……。「別室で待機してもらえる?」と、メイドにグロリアは伝えた。
「!」
気付けばグロリアと私、二人きりになっている!
これは神官見習いのワンピースの上に乗せた手を、ぎゅっと握りしめ、深呼吸。
そんな様子の私を見ると、グロリアはクスクスと鈴のような声音で笑う。
「そんなに緊張しないで平気よ。聞いて驚くかもしれないわ。でもね。私もあなたと同じなの。この世界に、転移ではなく、転生したのよ」























































