愛の力!
「グロリア、お前はわたしの妹なんだ。ピンチの妹を助けるのは、兄として当然のこと。そんなに御礼を言う必要はない」
アレクシスの男前な発言に私は胸キュンになり、非常に怖い思いをしたが、なんとか気持ちを立て直すことができた。
それにしても、と思う。
犯人は実に理不尽な人間だった。
そんな人間の魂がこの世界に紛れ込むことになったのは……。
ここからは私の想像だが、第一の要因はこれ。
事故の現場に居合わせていたから!
かつ第二の要因として、死の瞬間に私の近くにいたから!
私の魂と一緒に、殺人犯の魂も、この乙女ゲームの世界に向かうことになったのだと思う。
乙女ゲームのこの世界に魂は向かい、私は悪役令嬢であるグロリアに転生できた。だが殺人犯は転生できていない。
ヒロインが空から落ちる時に見た通りで、私のそばに黒い靄という姿で漂っていたのだから、転生できていないと思うのだ。
なぜ殺人犯は転生できなかったのか……それは。
これこそ分かりやすい。
殺人犯だからだ。
やはり罪を犯すと輪廻転生できないというのは、本当だと思う。
だからこそずっと私に付きまとっていたのだ。
でもきっと魂の時の記憶が、殺人犯にはなかったのだろう。
私が前世記憶を覚醒することになった、ヒロイン激突事件。
この時に殺人犯はヒロインに憑りつき、そこで私と同じように、前世記憶も蘇ったのではないか。殺人犯自身は、人身事故直後にこの世界へやってきた、転生したと思っていたが、そうではない。殺人犯の魂は十八年間、私の周囲を彷徨っていたのだ。
ここで不思議なのは、転生した私に付きまとっていたが、憑りつくことはなかった点。私だけではない。私の両親や兄にも憑りつかなかったのだ。そこはなぜなのだろうと考え、こう結論付けた。
殺人犯の魂が、異質だったからかもしれない。
この世界ではない場所から現れた、殺人犯の魂。
水と油が交われないように。
その魂はこの世界の人間に、憑りつくことができなかった。
しかしそこへ転生ではなく、転移でヒロインが現れた。
殺人犯と同じ世界から転移してきたヒロイン。その魂はやはりこの世界では異質。でも殺人犯とは同じ世界にルーツを持つ。だからこそヒロインには、憑りつくことができたのではないか。
憑りつくことができないのに、殺人犯の魂が、私にしつこくつきまとっていた理由。それはどこかで、元いた世界につながる何かを感じていたからでは――そんな風に推測することになった。そして今回の件を受け、気付くことになった記憶がある。
グロリアがツンとすましていたのにも、理由があった。
私が覚醒する前、グロリアは殺人犯の魂に、十八年間つきまとわれていたのだ。何かしら気配を感じ、でもその正体が分からない。分からないが、分かることが怖くも感じられていた。
よって気配は感じる。でも気づいていないフリをする――それが「ツンとすました」につながっていたようなのだ。
これを思い出すと、前世の殺人犯につきまとわれ、非常に迷惑だった!ということ。
とはいえアレクシスにより、その悪しき魂は抹消された。
既にこの世界にはないのだ。
これを機に綺麗さっぱり忘れることにしようと思えた。
ということで。
私は前世知識と、ここが乙女ゲームの世界であると分かるから、こんな推理を働かせることができる。だがアレクシスはそんな前提を知らないから、こう結論付けた。
「悪魔の正体が、別次元の元は人間だった。殺人犯だった……そんな話、聞いたことがない。それでもリコは神の御前の審判でそれを話し、生きている。ゆえに本当に信じがたいが、これが事実なのだろう。なぜその悪魔がグロリアにつきまとっていたのか。またグロリアに憑りつかず、リコの方に憑りついたのか。それは分からない。だがグロリアはわたしを含め、皆に愛されている。その愛の力で守られたのだろうと思うよ」
この言葉に、私を抱きしめるエルクが腕に力を込め、アレクシスは再び額へキスをしてくれる。婚約者と兄の溺愛に、私は涎が垂れそうになるが。
そうか。
愛の力!
悪役令嬢であるグロリアは、両親と兄、婚約者に愛されていた。
ヒロインの登場で状況が変わり、グロリアの性格は歪んでしまうが、そうなる以前。間違いなく、グロリアは皆から愛されていたのだ!
その愛の力により、殺人犯の魂は私に、グロリアに憑りつくことができなかった――そう思う方が、とっても幸せだ。
「グロリア、大丈夫か!」
「グロリア、心配したわよ!」
カーテンがシャーッと開いたと思ったら。
私を心配し、愛してくれる人達――両親も駆けつけてくれた!
お読みいただき、ありがとうございます!
次話は12時頃に公開します~























































