「良かったわ……」と応じるので精一杯。
「もう大丈夫だよ、グロリア。ロイも胸を刺されたが、彼は神の教えを書かれた書物を持っていた。ナイフはその書物を貫通し、ロイの胸に傷を作ったが、それは浅いもの。命に別状はない。侍女は溺れかけたが、沢山の睡蓮により、沈むことは免れた。肩に切り傷があるけど、これも浅い。みんな無事だ。そしてあの女に憑りついていたしつこい悪魔。あれは完全に祓われた」
救護室のベッドで布にくるまれた私を、エルクがぎゅっと抱きしめる。
「君の兄君であるウォルトン卿が聖弓をあの女に放った。それにさっき大神官自らが、女から悪魔が本当に祓われたことを確認している。今度こそ間違いなく、悪魔は祓われた。祓われたというか、消えた。もう大丈夫だ」
エルクの言葉に私は「良かったわ……」と応じるので精一杯。
そして改めてあの恐ろしい出来事を、頭で反芻することになる。
私が絶体絶命に瀕する一時間ほど前。
兄であるアレクシスは、大神殿へやって来ていた。
私がエルクと共にロイを訪ねると知ったアレクシスは、サプライズで勤務終わりに大神殿へ立ち寄ってくれたのだ。私へのサプライズと同時に。彼は重要な物の受け取りを行うことになっていた。
それは大神官が祈りを込め、祝福を与えた聖弓の受け取りだ。
聖弓は一年に一度、古い物を奉納し、新しい物を受け取ることになっていた。その聖弓は騎士団の本部に飾られ、弓矢部隊は毎日のように、その聖弓に祈りを捧げていたのだ。
皆の祈りを一身に受け止めた聖弓は一年後、大神殿に戻され、そこで清められる。その後はお焚き上げされる流れだった。
というわけでアレクシスは新しい聖弓の受け取りも兼ね、大神殿へ私より先に来ていた。
大神官と会い、話をして、聖弓を受け取り、中庭へ向かうと――。
エルクの姿はあるが、ロイと私の姿が見えない。
そこで確認すると、私はレストルームへ行ったと分かる。
そのままガゼボで待とうしたが……。
それは騎士ではないエルクでは、察知できなかった悲鳴と水音。
離れた場所で何かが起きていると、アレクシスは察知する。
そこはもう、さすが騎士団の副団長!だ。
念のためでアレクシスはレストルームの方へと向かい、血を流して倒れているロイを発見。ロイは怪我を負いながらも「悪魔憑きの女、悪魔は祓い切れていなかったようです。グロリアが危ない……!」とアレクシスへ伝えたのだ。
エルクは人を呼びに行き、アレクシスは私の元へと向かう。
敵が悪魔憑きの女であると分かっていたので、アレクシスは自身の剣ではなく、聖弓を使うことを決意した。箱からすぐに聖弓を取り出し、レストルームへと続く通路を全速力で駆け抜ける。
すると曲がり角の先で見えたのは、私に馬乗りになる女の背中。
しかも両手でナイフを握りしめ、振りあげている。
アレクシスは冷静に聖弓を構え、矢を放つ。
聖弓は見事に悪魔憑きの女……ヒロインであるリコに命中。
その瞬間、アレクシスは聖弓が光り輝くのを見たと言う。
「大神官の祈りと祝福を受けたばかりの聖弓は、神の力が最も強い状態だった。これを受けた悪魔は……さすがにひとたまりもなかったのだろう。矢が刺さった場所から黒い靄のようなものが現れたが、光を受け、瞬時に消えた。悪魔は完全に浄化されたと思う。もうこの世界から消えたはずだ」
仰向けで倒れている私を助け起こしながら、アレクシスはそう言い、そこへ沢山の神官や聖騎士がやって来た。そのままアレクシスに抱きかかえられた私は、救護室へ運ばれる。そこには既にロイがいて、治療を受けていた。
私がアレクシスに抱きかかえられ、救護室へ向かおうとした時。ヒロインの背に刺さる矢を聖騎士が抜いた。私は血が飛び散るのではと目を閉じたが、矢を抜いても背中に傷はない。神官見習いの服に穴もなければ、血がにじんでいることもなかった。
それこそが、聖弓による矢を受けたことの証拠。
聖弓は人を傷つけるものではない。
悪しきものを滅するためのもの。
ヒロインであるリコ自身は傷つけず、悪魔だけ殲滅したわけだ。
一連の出来事を振り返った時。
シャーッと音がして、ベッドを囲むカーテンが開いた。
そこへ姿を現わしたのは……。
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