ティータイムを楽しもう
主神殿の中へと続く青銅の扉は、この時間、開け放たれている。
中に入ると、世界がガラリと変わった。
さっきまで陽射しがさんさんと降り注ぎ、眩しい程の白い世界にいた。
だが建物内に入ると、開け放った扉から射し込む陽射し以外は、トーチの明かりのみ。陽射しが届かない場所は、ほんのり青暗い。そんな主神殿の中を進んで行く。
入口の明かりが届かなくなり、トーチの明かりのみ……となったところで祈りの声が聞こえてくる。主神殿の中心部、祭壇のある広間に到着した。
正面には巨大な薔薇窓。
さらに祭壇があり、神の像が祀られている。
その周辺を飾るのは、ロイが贈ってくれたカラーや白百合などの白い花々だ。
「エルク、グロリア」
小声で名前を呼ばれ、右側を見ると、神官服を着たロイが軽く手を挙げ、合図を送ってくれた。エルクと二人でロイの方へと、少し早歩きで向かう。
「ベストタイミングだよ。あと三組で、祭壇前で祝福を受けられる。こちらへどうぞ」
祭壇脇の大きな柱まで移動し、そこで待機となった。
一方のロイは、反対側の柱付近で待機だ。そこにはロイ以外の神官が、何人も祝福を与えるために待機している。
ちなみに私の侍女とエルクの従者は、祭壇の前に置かれているベンチタイプの椅子に、既に腰を下ろしていた。
待機している間にも、次々と祝福が与えられていく。
すぐに私達の順番となり、祭壇の前にエルクと二人で移動。
私達の方へと歩み寄るロイの微笑には慈しみが溢れ、見ているだけで癒される。
「わたし達を見守り、平穏無事を与えてくださることに、心から感謝いたします。生きる術と知恵を授けてくださるその御心に、敬意を表します」
ロイがまず主神への祈りを始める。
エルクと私も手を合わせ、ロイの祈りの言葉を復唱。
それが終わると、ロイが屈んだ私の額に手をかざし、祝福の言葉を口にする。
「悪は祓われました。神の輝く光が、あまねく世界を照らし、悪しき闇を遠ざけてくれることでしょう。あなたにとってこれからの日々が、明るく希望に満ちたものになりますように」
ロイの祝福に気持ちが洗われたように感じる。
続けてエルクにも祝福の言葉が授けられ、それが終わると、祭壇前からはけることに。
広間から出ると、既にロイが待っていてくれた。
ニコニコと微笑むロイに、通り過ぎる参拝者は、思わず手を合わせている。でもそうしたくなるぐらい、ロイの笑顔は穏やか。
「では中庭へ案内するね」
大神殿の庭園は無料開放されているが、中庭は通常開放されていない。特別な客人が来た時に案内することになっているはず。そこに案内してもらえることは、光栄なことであるし、ロイも神官の中でも階級がかなり上位である証拠。幼なじみの活躍は嬉しいし、さすがこの世界の攻略対象!と思ってしまう。
ロイが攻略対象であることを思い出すと、ヒロインは大丈夫なのかと思ってしまうが。
私は悪役令嬢と言う舞台装置の一つに過ぎない。しかもマイナスな役割しか与えられていないのだから、シナリオの進行に支障が起きていても……知らんがな、だ。
ヒロインは勝手に空から降って来たし、悪役令嬢であるグロリアは、完全に巻き込まれ事故。それにいわゆる悪役令嬢の分かりやすい回避行動なんて、とっていない。話せないフリをしているが、そんなのゲームの世界の力からしたら、些末なこと。言葉がダメなら睨みでいじめたと、余裕ででっちあげだろう。
ということでシナリオ通りにこの世界は動いていないような気もするが、そこを悪役令嬢の私がどうこうする気はない。シナリオ通りになるような補正は、この世界で勝手にやってください、ということ。
そんなことを思いながら、ロイに連れられ到着した中庭は……。
「すごい! カラー、沢山!」
思わず普通に話しそうになり、そこは発音覚えたての設定に従い、たどたどしく口を開く。それを聞いたエルクが、白い歯が輝くような笑顔になる。
「グロリア、だいぶ話せるようになったね。良かった! うん。カラーが一面に咲いている。美しいね」
「奥に睡蓮が咲く池もあるのだけど、その手前が全てカラーなんだ。祭壇を飾る花として栽培している。それでも毎日のことだから足りなくなるんだけど」
そう言いながらロイが案内してくれたのは、ガゼボ。
アイアン製のテーブルには白いクロスが敷かれ、椅子も三脚用意されている。
フードカバーの下にはホールのチェリータルト!
素焼きのティーカップとティーポットもちゃんと準備されていた。そばに置かれている砂時計は、間もなくジャストタイミングになりそうだった。
「予定通りだね。ティータイムを楽しもう」
お読みいただきありがとうございます!
次話は19時頃公開予定です~























































