いろいろ耐性がないんですよ!
「おい、おい、君たち。僕の未来のワイフの写真を勝手に新聞に載せるのは、許さないよ。どこの新聞社だ?」
カメラマンと新聞社の間に割って入ってくれたのは、アイスブルーのテールコート姿のエルク!
彼の高身長を前に、カメラマンと新聞記者はたじろぎ、さらにタイの飾りやポケットチーフの紋章で、エルクがハリントン公爵令息であると分かり、「し、失礼しました!」と平謝り。
ミネルヴァ王国の三大新聞社は、実はすべてハリントン公爵の傘下にある。貴族向け、大衆向け、スポーツ新聞と別れており、それ以外は細々と発行されているゴシップ紙。エルクを怒らせたら、弱小ゴシップ紙を出している新聞社は、すぐにひねり潰されてしまう。
我が家も公爵家だが、この国にある五つの公爵家の中で一番力があるのが、ハリントン公爵家だった。
「グロリア、大丈夫? 君のその美しい姿がゴシップ紙に載ることはないから安心して」
そう言ってからエルクはすぐに「ああ、ごめん。紙と羽根ペンを用意すればよかった。でもグロリアの気持ち、僕は分かるから大丈夫。グロリアも僕の気持ちは伝わるよね?」とズキューン案件なウィンクをする。
それをされたら、耐性のない私のようなオタク女子は、こくこくと頷くしかない。
街灯を受け、サファイアのような濃紺の瞳を輝かせながら、エルクは私の手を取る。さらにもう片方の手を私の腰に添えて歩き出す。
兄であるアレクシスのエスコートより、密着感が増している! これが婚約している二人のエスコートなのね……!
どうしたってこれには心臓がトクトクと反応することになる。
「今日は父上と一緒に、王都郊外の領地まで行って来たんだ。でもグロリアとオペラを観るため、こうやって戻って来た。君と観るオペラが今日最大の楽しみだった」
甘々な言葉を囁くエルクには、正直どうしていいか分からない! 何せゲーム画面で見ていた悪役令嬢グロリアに対するエルクの態度は……まさに塩。
そう、塩対応!
てっきりヒロイン登場時には、グロリアとエルクは冷めきった関係で、それもありエルクは心を奪われていくのかと思ったら……。どうやらそうではないようだ。
それを知ってしまうと、前世でヒロインとしてプレイしていた一人として、何とも申し訳ない気持ちになる。
兄や幼なじみのロイは、婚約者がまだいない。よってヒロインが二人を攻略する分に問題はないと思う。
だがエルクは婚約者がいるのだ。そのエルクに恋心は抱くのは……実はヒロインはヒドインに思える。
「グロリア、どうしたの? 緊張している?」
首を横に向けると、すぐ近くに顔面偏差値が非常に高いエルクの顔があり「ひ~」と声が出そうになる。それはなんとか呑み込み、小首を傾げると……。
「……なんだか言葉が分からないグロリア、可愛いな。そんなゴージャスな装いをしているのに。その表情は幼い少女みたいだ」
丁度、入口のチケット切りの係員のそばで立ち止まったエルクは、ふわりと私を抱き寄せ、頬にキスをする。
これには「くはっ」と鼻血を吹き出し、ぶっ倒れそうになってしまう。
「ハリントン公爵令息、お待ちしておりました。プレミアムボックスシートまで選任の係員がご案内させていただきます。お飲み物もご用意しますが、いかがなさいますか?」
切符切りの係員が合図を送ると、黒のスーツ姿の男性がこちらへと駆け寄る。
「ではクランベリージュースを二つで頼むよ。グロリアはいつもそれだから、いいよね?」
もうなんでもお任せしますという感じで、私はこくこくと頷く。エルクは再び私をエスコートし、黒のスーツの男性の誘導に従う。
こうしてふかふかの赤い絨毯の敷かれた通路を進んでいくと……。
プレミアムボックスシートに到着。
侍女や従者は別室で待機となり、エルクと私は席へと進む。
座り心地のいい椅子に座ると、すぐにクランベリージュースが運ばれてくる。
私の隣に座ったエルクは長い脚を組むと、グラスを掲げ「素敵な夜に乾杯」とここでもウィンク。耐性がないのでまんまズキューンとされ、グラスを落としそうになり、「グロリア、大丈夫」とエルクが私の手を握る。
その瞬間、隣に座るエルクとの距離がぐんと近くなり、心臓は大爆発寸前!
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次話は17時頃に公開します~























































