incident8.過去と未来
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「加古かこや加古」
「何ぞ、深来」
「どうやら奴らが来るらしいぞ。何やら見た事のない者もおるな」
「視えたか」
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山奥まで車を走らせる。こんな所に人が住んでいるのだろうかという位の森の中。
今日は三千院さん、神楽坂さん、蛇丸君、
阿刀さん、水留さん、私の6人で向かっていた。
しばらく走ると大きな屋敷が見えてきた。あそこか。なんだか雰囲気が重く感じる。車を降りると狐の面を被った人が立っていた。
「ようこそいらっしゃいました。主様がお待ちでございます」
奥の部屋に通されるとまた狐の面を被った人が二人、部屋の前で薙刀を持って立っていた。
「0係の皆様、どうぞ中へ」
部屋の中に入ると香が炊かれ、幕が下ろされている。
「お久し振りでございます。加古様、深来様。今日は酒呑童子の件でお伺いしたく参りました。その関係者もおります」私も慌てて挨拶をする。
「天童日花です。宜しくお願い致します」
続けて蛇丸君が挨拶をする。「やほー、かこちとみらりん。元気してる?」
こんな軽い挨拶で良いのか!?と心の中でツッコミを入れると三千院さんが無言でゴツッと蛇丸君の頭を殴った。
「いてっ!痛いよ、ぜんさん」
「三千院だ。当たり前の事だ。この御二方はお前より遥かに偉い御方達だぞ」
「ダメよ、蛇丸君」ニコニコした顔で注意する神楽坂さん。
でも右手をグーにして上げている。黒凛々子様降臨だ。
あれ?皆手をグーにしている。
ここは見なかった事にしよう。
そのかこちとみらりんの二人は笑いながら「よいよい。かこちとみらりんは元気じゃぞ」と答える。何と寛容な人達だ。「ほらー」と蛇丸君は涙目で訴える。
「それでもダメなものはダメだ」また注意される。ちぇっとすねながらも「お久し振りでございます。加古様、深来様。この蛇丸左右、御二人の益々のご多幸をお祈り申し上げます」と頭を下げ挨拶をする。
ちゃんと挨拶できるとは!普段の蛇丸君からは想像もつかない。頭を打ったのか?いや、殴られていた。
「ありがとう、蛇丸。さて、酒呑童子の件じゃったな。その娘から感じておるが近くで視てみねばどうか分からないだろう。おい、幕を上げい」
パンパンと手を鳴らす。幕が上がるとお河童頭の子供が二人、同じ顔で座っていた。声からして子供のようだったが本当に子供の姿をしているとは。それに着物と白髪。花の簪を着けている。
それだけではなかった。一人は左目を瞑り、もう一人は右目を瞑っている。「左目を瞑っている方が加古様、右目を瞑っている方が深来様だ。神のお告げとして過去と未来を見る事ができる大巫女様だ」と説明を受ける。
「御二人にお土産を持って参りました」三千院さんがスッと二人に差し出す。
鬼殺しと厳つい文字で書かれている真っ赤なラベルがついた一升瓶のお酒だった。あれは確か結構高いお酒だ。前のアルバイト先の店で見た事がある。
「おお、これを久しぶりに飲めるとは。分かっておるの、三千院は」嬉しそうな二人。
子供が喜んでいるとは。飲むの?子供だよね?三千院さんが私の疑問を感じとったのか「言っておくがこの御方達は特別だ。歳は…控えておくが飲める歳だ」と言う。
「何、気にするでない。我らは千年以上昔からおる不老不死の者。不老不死の体にされたと言った方が正しいのであろうな。して、酒天童子の事とは?」
今までの事、私が話した事を三千院さんが説明する。
「そういえば昔、酒呑童子の話は聞いた事がある。源頼光からだったかな」あのVIPから!?いやいや、この場合VIPなのは加古様と深来様か。
「日花とやら、近くに来るが良い」
何だか恐れ多いが近くに寄る。
「では魂に触れて視てみるが良いか?」
「はい」
加古様が左目を開ける。
驚いた。色とりどりな万華鏡のような瞳。神秘的で吸い込まれそうだ。
「ふむ。そうであったか。酒呑童子の体はバラバラにされて封印されたと聞いておったが“天童家”の者であったか」
確かに体はバラバラになって各「てんどう」家に封印されている。
「神も気まぐれであってな。自由に視れるものでもない。ただ、そなた達が来るのは視えておった。三千院」
「はい」
「酒呑童子の力は例え手だけでも大きい。日花は様々な異形から狙われるであろう。0係で預かるしかあるまいな」
「承知致しました」
深来様が「日花、御守りを持っておるな」
「はい」
これも視えていたのか?
私が古く、切れてしまった御守りを差し出すと「これは、これは。断片的に視えておったが、これでは作り直すしかあるまい。しばし待て。その代わりにこれを着けると良い」そう言うとペンダントを取り出した。
ペンダントにはきれいな紺色の石が付いていた。
「これはラピスラズリという厄除け、邪気払いの石じゃ。御守りができるまで着けておるが良い」と加古様が説明する。
「ありがとうございます」
そうして御守りを預け、屋敷を後にしたのだった。