incident41.兄弟弟子
「必殺!大蛇…」
バコンッ!
「痛っ!」
蛇丸が声を上げて振り返ると清秋が新聞紙を丸めて立っていた。
「そんなものを練習する前に走り込みはどうしたバカガキ」
「きよばあちゃん…走ってばかりは飽きた!」
バコンッ!
「だから痛いって〜!」
「本当にバカだな、お前は。体力がないといくら強力な技を使ったところで倒れるぞ。その結果お前も娘もおしまいだ。それで良いのか?」
「良くない!」
すると清秋は新聞紙を裏山にビシッと向けた。
「なら文句を言わずに走れ!」
「おうっ!」
日花の事となると単純な蛇丸。
「相変わらずですね、先生」
そこへ一人の男が現れた。落ち着いた声。スラリとした長身で黒髪をハーフアップシニヨンにしており服装は白シャツにジーンズとシンプルだ。左耳には大きなクロスのピアス。目元は清秋に似ているがホクロがあり柔らかい雰囲気がある。朱音がここにいたら間違いなく騒いでいただろう。
「誰だ?」
思わず呟くと清秋が答えた。
「ああ、来たか。こいつは依人の弟弟子の仁見迅だ」
「仁見です。宜しく」
笑顔で手を差し出してくる。
「…蛇丸左右です」
そう言って握手をしようとすると
ズドンッ!
投げられた。
「え?」
「えーと…」
何故か蛇丸の顔を見て悩む仁見。
「蛇丸だ」
そこに呆れた顔で言う清秋。
「そうそう、蛇丸君!ごめ~ん。俺より弱いヤツの名前って覚えられないんだよね」
悪びれる様子もなく笑顔で言ってのける。
「何だと!?」
仁見は笑顔のまま続ける。
「だって、まだ何者かも分からない相手に簡単に握手を許すなんてバカじゃないの。味方とは限らないんだよ?」
「バッ…!」
優しそうな印象とは反対に口が悪い男だ。ぜんさんの方がいい人に思えてくる。まあ、蛇丸の場合は自分が悪いのだが。
「新人イジメもそれくらいにしておけ」
パコッと新聞紙で仁見の頭を叩く清秋。
「すみませ〜ん。頭まで弱そうだから。ついね、ハハハ」
「お前いい加減に…!」
「げっ!何かうるさいと思ったら仁見!」
文句を言おうとしたとき丁度、玄関から三千院が出てきた。
「やあ、依人。げっ!とは何だよ、げっ!とは。久しぶりの再会なのにかなしいな。それにしてもお前は相変わらず辛気くさい顔してるね〜。そんな顔してると女にモテないよ?」
「うるさい!大きなお世話だ。お前みたいにフラフラしている方がよっぽどたちが悪い」
「仕方ないだろう?あちらから寄ってくるんだから」
なるほど。要するに男には厳しいが女にだらしがないという事か。
「それくらいにしたらどうですか?」
そこへまた違う声が降りかかる。今度は低く渋い声だ。
「伊地知。来てたのか」
そこにはスーツを着たサラリーマン風の男がタバコを吸いながら面倒そうな表情で立っていた。
金髪のオールバックに丸眼鏡、生真面目そうな顔立ち。白い手袋を嵌めている。30代後半くらいだろうか。
「こいつは伊地知宜尊。で、こっちは蛇丸左右だ」
清秋が適当に紹介する。
「伊地知だ…」
「…!」
構える蛇丸。
「どうした蛇丸?」
それを見た三千院が不思議そうに聞く。
「ハッハッハッ!さっき俺に投げられたから警戒してるんだろう?」
「お前…またそんな事してたのか」
わらいながら言う仁見にジト目で見る三千院。
「試したんだよ」
ハーッと煙を吐きながら蛇丸を見る伊地知。
「私はそのような事はしませんよ…時間の無駄です。速く始めましょう」
「そうだな。その前に今までの詳しい話をする。中に入れ。蛇丸は走ってこい」
「分かった!じゃあまた後でな。イジメっ子ひとみんにノリさん」
そう言って走っていく蛇丸。
「ひとみん…ますますバカみたいだね。お前の部下」
「ノリさん…」
笑顔の仁見とは反対に伊地知は不機嫌そうに携帯灰皿をしまった。




