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incident34.一夜の夢

本当は行かせたくなかった。

強引にでも引き留めるべきだったと思う。自分の置かれた立場を優先してしまった事に無性に苛立ちを覚える。今残っているのは情けない姿をした男と後悔、そして募る恋心ー。

それはますます強くなっていく。

ああ、名前を呼んで抱き締めたい。あの可愛い唇を奪いたい。できる事ならその先まで。

「日花…」

拳をギュッと握る。

きめた。

居間にいる神楽坂の元に向かう。

「頼みがある」

「来ると思っていたわ」

「何故…」

「何年一緒にいると思っているの?」

「行かせてくれ」


あの後、警察☆Menの皆は旅番組のロケがあるのでマネージャーさんが迎えに来た。

なので、今この家にいるのは私だけ。

これはチャンスだ。

何か手掛かりになる物を見付けなければ。皆には悪いが(この場合、悪いのは皆か?)部屋を探らせてもらおう。

ベッドの上で枕を抱いてゴロゴロと転がりながらそう思ったときだった。

結界の鳥居が開く。

「何!?」

眩しい。

光の中から出てきたのは三千院さんだった。

「三千院さん、何でここに!?」

「神楽坂に頼んで鳥居を使わせてもらいました」

「そうじゃないです!何で三千院さんがここに来るんですか?厄即がありますよね。私は何を言われても帰りませんよ!それに警察☆Menの誰かがいたらどうするつもりだったんですか!?」

帰ってもらう為に敢えて強く言う。

「厄即は無効のようです」

「え?」

「俺の異形退治の先生が教えてくれたから間違いありません。正式には厄即の最後にお互いの指を刃物で切らなければなりません。それが印となります」

真剣な顔をしている。ウソではない。

「本当ですか!良かった…」

久しぶりの笑顔を見せる。

「これで安心できます!」

自分は危険な立場にあるのに他人の心配をしていたなんて。それに比べて、何て自分は愚かなのだろう。


「天童さん…いや、日花!」

名前を呼ばれて強く抱き締められた。

「えっ!三千院さん?今、日花って…」

「会いたかった。会いたくて堪らなかった」

三千院さんが私を?気付かなかった。そんな素振りなんて今まで全然なかったのに。

指輪騒動のときなんか困っていたように見えたのに。もしかして皆の前で好きだと知られるのが嫌で逆の行動をしていた!?

「痛い…です」

さすがに抱き締める力が強過ぎる。感情からか元からなのか。三千院さんの場合はどちらもか。

「すまない!つい、会えたのが嬉しくて」

そう言ってようやく離してくれた。

顔を見るといつもの眉間にシワを寄せた顔の係長ではなく一人の男性(・・・・・)だ。

長いきれいな指で唇に触れられる。

ビクッと反応してしまうと「こわいか?」と優しい声音で尋ねられる。

「い、いえ。ちょっと驚いただけです」

「じゃあ良いか」

「何を…」

聞く前に唇を塞がれる。

「んっ…」

「ん…。日花」

何度も何度もキスをされる。

「!?」

今度は舌を入れられた。

「んっ、んうっ…ん」

絡み合う舌。

「はぁ…」

蛇丸君としたキスとは違う刺激の強い大人のキス。

その気持ち良さに負けて三千院さんに身を委ねる。

丁寧に服のボタンを外された。

ここに来る前、蛇丸君に「好きだ」って言われたのに。これは悪い事なのだろうか?もう頭の中が蕩けてしまって分からない。

先ほどまで絡んでいた三千院さんの舌が私の首を伝っていく。

「んっ!」

強く吸われた。

「これで俺の物だ。印を付けた」

首だけではなく胸元にも同じように三千院さんの印を付けられる。

「俺に日花の全てを見せてほしい」

何も言えないでいると服も下着も取られてしまった。

三千院さんは眼鏡を外し、ネクタイを緩めシャツを脱ぐ。鍛えた肉体が露わになる。こんなときでさえ頭ではちゃんときれいだなと思ってしまう。

「さ、三千院さん。あの…ハズカシイです」

「依人。依人だ」

「より、ひと…さん?」

たどたどしく呼んでみる。

「良くできました」

微笑みと共にキスをされる。

思わずはにかむと頬を撫でられる。

「可愛い俺の日花。好きだよ、大好きだ」

いつもは見せない笑顔の依人さん。

こんな優しい顔の依人さんは見た事がない。甘い言葉と笑顔に心臓が爆発してしまいそうだ。


けれどー。

「どうした日花?」

思わず涙が溢れてしまう。

「わっ、私…蛇丸君にも好きって言われたのに、答えも出せないで、こういう事をして、良いのかなって」

蛇丸君の言葉が頭からどうしても離れない。

その事を考えると罪悪感に苛まれてしまう。

そんな私の溢れた涙を拭いながら依人さんは言う。

「知っている。蛇丸は分かりやすいからな。でも俺だって日花が好きなんだ。負けたくはない。もし悪い事だと思うのなら俺達は共犯者だ。日花が悪く思う事はない」

その一言で全てが飛んだ。

「依人さんっ!」

首に腕を回して抱き着く。

そして離れてキスをする。

「ほら、悪い子だ」

いたずらっぽい笑みを浮かべる依人さん。私は悪い子なのに。

「さあ、おいで」

「はい」

その後の事は記憶にない。ただ、刺激的で甘美な夢のようだったと思う。

何故「だったと思う」のか?

私は今、縛られている。

「ねえ、俺達がいなかった間に何をしたの?」

バシッ!

「うっ!」

「ロケが中止になって速く帰ってきてみれば、どこかの駄犬の噛み痕が付いてるじゃないか」

バシッ!

「ぐっ…!」

何回くらい鞭で打たれたか。もう記憶が曖昧になるほど打たれた。頭もだ。ボーッとする。

だから分からない。何も考えられない。

バシッ!

また打たれる。口から血が飛び散った。

「本当に…」

バシッ!

「悪い子だ」

目の前の鬼は夢と同じ事を言う。


三千院は鳥居によって御門の家に戻ってきた。シャツに少しシワが寄っているがいつもの眉間のシワは取れている。

「この発情期の大バカガキが」

御門に頭をバコンッと丸めた新聞紙で叩かれる。

「放っておいて下さい。母親ですか」

「だったらその呆けた顔と頭を今すぐ冷やしてやる。『蝶の夢』」

御門がそう言うと蝶々の折り紙が舞って来て鱗粉を撒き散らしながら開く。

「ああっ…日花!」

そこに映し出されたのは痛々しい姿をした日花の姿だった。

「だから大バカだと言ったんだ。任務では自身の感情に囚われるなとあれほど教えただろう?忘れたとは言わせねえぞ」

御門はもう一度、新聞紙を振り上げる。

カシャン!

同時に背後でカップの割れる音がする。

「…ひー、ちゃん?」

振り返ると目を見開いて呆然と立っている蛇丸がいた。

床には割れたカップの欠片が飛び散っている。まるで映し出されたあの血のように。

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