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incident33.それぞれの思惑

「さあ、着いたよ」

今まで暗い中を歩いてきたので突然の光が眩しく感じる。

その声に目を開けると

パンッ!パンッ!

「ようこそ、天童日花さん!」

クラッカーを鳴らしていたのは警察☆Menのメンバーだった。

周りを見渡すと広い部屋がパーティー仕様に飾り付けしてある。

「…ありがとうございます」

驚きながらもお礼を言うと赤城君が説明する。

「ここは警察☆Menのシェアハウス。部屋は二階だよ。俺の隣が空いてるからそこを使って。何か足りない物があったら言ってね」

良かった。すぐに監禁されるかと思った。

歓迎されている事はこの部屋と皆の様子から分かる。

それから部屋に案内すると言って、荷物を部屋まで運んでくれた。「重い物を女の子に運ばせるなんて男じゃないよ」とまで言ってくれる。心までイケメン。鬼だけど。

荷物を整理して、下に降りると皆で食器やお菓子などを用意していた。

「主役のご登場だね。いくらアイドルとはいえ、男だらけの草原の中にキレイな花が咲いたようで嬉しいね」

黒萩さんがお得意のキラキラオーラで話し掛けてきた。

まっ、眩しい…。こんなときにまで無駄にキラキラさせないでほしい。目に毒だ。

「せっかくの料理が冷めちゃうから速く座ってくれない?」

黄木君が美味しそうな料理を次々と運んでくる。

「これ、全部黄木君が作ったの?」

「何、悪い?僕が料理して」

ムッとした顔をして答える。

「全然!美味しそうな料理ばっかり。スゴいなぁ」

「まあね。この僕が作ったんだから当り前だよ」

慌てて褒めると機嫌が少し直ったようだ。

「どうぞ、ここに座って」

青柳君が自分の隣のイスをポンポンと叩いて勧めてくれる。

「ありがとうございます」

ファンの皆が言うように、キャラだと思っていたけど何だか本当にお兄さんみたいでホッとする。なんて感じていたら

「日花ちゃんの隣、ゲットできてラッキー」

ニヤリと笑ってこちらを見る。悪い顔だ。

確信犯!?やられた。

こういうギャップは本当にズルい。

でもこれが人気の秘密なんだろうな。


「皆揃ってるね。では、天童さんの仲間入りを祝して乾杯!」

緑樹君が乾杯の音頭をとる。

『乾杯!』

皆でグラスを合わせて料理を食べ始める。

「ねえ、日花ちゃんってこの中で誰推し?」

いきなり、赤城君が突っ込んでくる。

「ゴホッ!」

危うく美味しい料理が台無しになるところだった。

「だ、誰って…」

皆の視線が集まっている気がする。

あの黄木君までチラチラとこちらを見ていた。

「もちろん俺だよね?」

赤城君が笑顔で聞いてくる。何かコワい。

ここは…

「私は箱推し、かな…」

箱推しとはご存知の通り、メンバーの中の一人ではなくグループ全体を応援する事である。皆には(ファンの方達にも)申し訳ないが私はあまり熱狂的なファンではない。そもそもアイドルに夢中になった事がないのだ。だが警察☆Menに魅力を感じないという事でもない。実際、こんなキラキラした人達に囲まれて少しばかり居心地の悪さを感じているというのに。

「なーんだ。絶対俺だと思ったのに」

「そんな事ないから」

「そうなんだ…うーん」

「いやいや、そこは俺でしょう」

「残念だな」

皆、ガッカリしたように口々に言う。

「皆さん、素敵な方ばかりなので誰か一人を選ぶなんてできません」

すると、さっきまで沈んでいた空気が一気に変わる。どうやら私の一言で火が着いたようだ。火花が散ってみえる。楽しかった歓迎パーティームードはどこにいったのだろう?

「よし。誰が一番に日花ちゃんの心を射止めるか勝負だ!アイドル『警察☆Men』の名誉にかけて!」

「えっ!?」

緑樹君が立ち上がって宣言する。

「俺の勝ち」

「負けないよ」

「僕だって」

「勝ったも同然」

いきなり、私の推しをかけた勝負が始まった。

私が箱推しなんて言ったばっかりに…。でも誰か一人だけ選べなんて言われても困る。ファンだったら夢のような光景かもしれないが彼らは鬼だ。誰か一人のエサになるなんて御免だ。だからといって逃げるなんて事はできない。目的があってここに来たのだから。


一人、違う意味で気合いを入れていると

「そうだ。アイドルといえば『Love(ラブ) Robber(ロバー)』っていうTikToker知ってる?」

「ラブロバー?」

黄木君の問いに赤城君が聞き返す。

「うん。恋泥棒っていう意味らしい。今、女子中高生を中心に人気のある男性ユニット。雑談はもちろんだけど歌とダンスをメインにしてるんだ。リスナーは『Cherish(チェリッシュ)』って呼ばれているらしい。確か、宝物…大切な人だったかな?実際に見た方が速いか」

そう言って近くにあったパソコンを開く。

操作をするとちょうど歌配信をしているところだった。

登録者数を見ると40万人、閲覧人数は500人近くいる。その間にもいいねとギフトがバンバンと飛んでいた。しかも高額ギフトだらけ…。

『ありがとう!』

『今日も楽しんでくれてる?』

本当にアイドルみたいだ。警察☆Men並みにイケメンである。

コメントには『顔面が国宝級。逆に盗みたい』とまで書いてある。

「知らなかったけど俺達には勝てないね。所詮、素人は素人さ」

黒萩さんは負け惜しみで言っているのではない。アイドルとして絶対的な自信があるから言っているのだ。顔を見ると分かる。

うっ、眩しい…。見るんじゃなかった。

「匂うんだよね」

黄木君が画面を見ながらポツリと言う。

お得意の「鬼の嗅覚」か?

「やっぱりそう思う?」

どうやら赤城君も同じ事を思っていたらしい。

「…もしかしてこの人達も鬼って事?」

恐る恐る聞いてみる。

「ああ、仕掛けてみるか」

ニヤリと笑う黄木君であった。


一方、その頃の0係はというと。

「先生、こいつらが警察☆Menです。今回の件の鬼達です!」

ライブのDVDを御門に見せながら一生懸命説明する三千院。

「ふーん」

興味のなさそうな返事をする御門。

それもそうだ。女性にしか興味がないのだから。男達のアイドルなんて興味はないだろう。

「聞いてますか?先生!」

「聞いとるわ」

絶対聞いていない。

先ほどからお土産に持ってきた写真集を見ている。

「ですからっ…!」

「落ち着け、バカ弟子。儂を誰だと思っておる?」

ようやく三千院の方を見る。

「若い女好きの暴力婆さん…」

動こうとしない御門に嫌気が差したのか、ボソッと蛇丸が言う。

「何か言ったか?クソガキ」

睨みながらこちらを振り向く御門。

「いいえ。何も!」

聞こえていたとは…。今時のお年寄りは侮れない。

「こいつら、十鬼だと言っていたが見たところ、まだ代替わりした若い鬼じゃろう。本当にちゃんと『厄即』をしたのか?」

「はい」

三千院が答える。

「鬼の『厄即』は最後にお互いの指を刃物で切って流れた血が印として残る。バカ弟子、お前の指にそれがあるか?」

言われて皆、三千院の指を見る。

「…ない」

「やっぱりバカはバカだな。まあ、今回は逆にそれが良かったが。他の鬼達もバカで助かったな。その『厄即』は不完全だ。成立していない。よってバカ弟子が罰を受ける事はない。こんな事も分からんとは…。修行のやり直しだな」

呆れたような仕草をする御門。

「…という事は取り戻せる!」

御門とは反対に大喜びの0係。


「ぜんさんがバカで助かったー!」

「良かったじゃない、蛇丸君!三千院さんがバカなおかげで」

「よりひとちゃんたら〜。もう、おバカさんなんだから」

「良かったです。係長がバカで」

「本当に良かったですね。バカで」

「三千院さんって〜、私よりバカなのぉ?」

御門の影響と喜びからか散々言う部下達。

「お前ら…救出後は覚えておけよ」

鬼のような形相をする三千院。だが

「上司であるお前がちゃんと調べないのが悪い。今のお前では仁見(ひとみ)にも勝てんぞ」

「ぐっ…」

師にバッサリと言われる弟子。

「仁見って誰ですかぁ?もしかしてぇ、その人も三千院さんみたいにイケオジだったりして〜!」

目を輝かせながら言う朱音。

勝手に三千院のような美形な男性だと想像している。違う意味でバカはここにもいた。

「俺の弟弟子だ…。気にするな」

師にまで言われたからか珍しくしょんぼりしているらしい。それとも仁見という人の事が関係あるのか?

とにかくこれで救出に行ける。

「待っててよ、ひーちゃん。今すぐ助けに行くから!」

蛇丸が気合いを入れて言うと

「待て。儂の言った事を聞いていなかったのか?」

御門が止める。

「だって『厄即』は無効だから助けに行けるんでしょ?」

「違う。その子は情報を得る為に鬼側に行ったんだ。ここは少し様子を見る。大丈夫。大事な雌蕊なんだ。すぐに食われる事はないだろうから安心しろ」

「う…」

せっかく速く会えると思ったのに。

御門は立ち上がると折り紙を棚から出し、蝶々の形に折る。そして『眼』と『耳』と書いて空に飛ばした。

「何を飛ばしたのですか?」

神楽坂が不思議そうに聞く。

「あれは鬼達の元に飛ばして様子を見るものだ。そこの鬼もどきから気配を汲み取ったから居場所もちずれ分かるだろう」

鬼もどきー。

蛇丸の方を見る。

「鬼!?何でここに鬼がいるんですか!」

蒼人が叫んで刀を抜く。

「えっ?左右君って鬼なのっ!?」

朱音も驚く。

「二人には話していなかったな。蛇丸には半分、鬼の血が入っている」

さっきまでしょんぼりしていたのがウソのように真面目な顔で三千院が答える。

「でも残念ながら鬼の力は使えない。使えるのは蛇の術だけ。だからその刀閉まってくれない?」

両手を肩まで挙げて言う蛇丸。

「本当だな?」

「本当だよ。そうじゃなかったら0係にいる意味がない」

「繋がっているという事は?」

「ないない。逆に嫌われているくらいだから。俺はひーちゃんを助けたいだけだ」

「…とりあえず分かった」

刀を納める蒼人。

助かった。蒼人にはああ言ったが半分とはいえ、鬼なので刀で斬られたくらいでは死なない。知られたら別の祓い方で殺されるかもしれない。

「敵である鬼に恋しちゃうなんて、私ったら罪な女だわぁ」

敵じゃないと言っているのに朱音はまた夢を見てバカな事を考えている。

本当に言葉が通じない。御門が言った「金色宇宙人」はあながち間違ってはいない。


その頃、黄木君は画面を見ながらメッセージを打つ。

同時刻、三千院は蝶々が飛び去った方を見つめている。


「「さあ、始めようか」」

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