incident32.御門清秋
「ちょっとどういう事よ!連れ去られたって!」
出張から帰ってきた水留がお土産の袋をテーブルに叩き付けながら怒鳴る。
「…これは天童さんの意思でもある」
三千院が眉間にシワを寄せながら言う。
「だからって…!天童ちゃんも天童ちゃんよ!」
悔しそうに手を握る水留。
俯く0係のメンバー。
そんな中、空気を読まない朱音が話し出す。
「別に良いじゃないですか〜。天童さんが行きたいって言ったんだからぁ。それに0係にも雌蕊の私がいるしぃ、左右君が護ってくれるからっ!ねっ、左右君!」
「…」
蛇丸はずっと下を向いたまま何も言わない。
「何、この頭お花畑バカ女!?頭の中、雑草も生えてるんじゃないの?速く除草剤撒きなさいよ!…それよりも。おい、蛇丸!」
蛇丸の方を向き、カツカツとヒールの音を立て、勢い良く近付くと胸ぐらを掴み上げた。
「お前だよな?話の通りだと最後に天童ちゃんに会ったの。何で無理にでも止めなかったんだよ!」
「…」
蛇丸は虚ろな目をして黙ったままだ。
「それは俺の事を考えて厄即を守る為に…」
三千院が止める。
「それでも止めれたはずだ!もう一度説得すれば良いだろう?それを目の前で簡単に手離しやがって。惚れた女一人護れねぇで何が男だよ!この腰抜けがっ!」
ガッ!
蛇丸を殴る水留。
「蛇丸君!」
神楽坂が叫ぶ。
そのまま壁にぶつかり、ずるずると座り込む。
口の端からは血が流れている。殴られて口の中が切れたのだろう。
「左右くぅん、大丈夫〜?痛くなぁい?」
朱音が小走りで近寄ってきてハンカチで血を拭く。
「おい、そこの頭お花畑バカ女。お前は邪魔だ。引っ込んでろ。本当に頭引っこ抜くぞ」
睨む水留。
「ひっ…」
相当こわかったのか蛇丸から素早く離れた。
「先ほどから妹がすみません。兄として謝罪します」
蒼人が立ち上がる。
「そういえばあの頭お花畑バカ女といい、誰だお前?」
「先日からこの0係に配属されました、八神蒼人と申します。あのバカは双子の妹の朱音です」
「この人は水留流星さん。検死官兼分析班よ」
神楽坂が八神兄妹に紹介する。
「ふん。兄貴だったらちゃんと手綱握っとけ。不愉快だ」
「はい」
蒼人は頭を下げる。
「不愉快なのはもう一人いたな」
再び、座り込む蛇丸に向き直り、頭を鷲掴みにすると目線を合わせる。
「天童ちゃんは俺達が救出する。ゴミ同然の何の役にも立たない、今の状態のお前はいらない。鬼に負けたお前は。邪魔者、蛇丸」
あの夜、赤城に言われた事を思い出す。
『じゃあな、負け犬君。ああ、違ったかな。邪魔者、蛇丸』
母を亡くし、居場所を無くし、今度は大切な人をなくすのか?それも自分の手でー。
消えていた心の火が再び着いた。
「俺は邪魔者なんかじゃない!蛇丸左右だ!!」
水留を睨みながら叫ぶ。
「ようやく目が覚めたか。男の顔になったな」
今度はニッと笑い、頭から手を離す。
「さて、どうしましょうか?よりひとちゃん」
振り向くといつもの水留だった。
「えっ?何!?この人。男?女?オネエ?」
突然の変わりように驚く朱音。
「失礼ね。水留さんは水留さんよ。八神兄」
パンパンと手を鳴らすと
「はい」
ボコッ!
無言で妹の頭を殴る兄。
「いたぁ~い、お兄ちゃん」
涙目で訴える八神妹。こんな状況でも可愛いアピールは忘れない。
「いいか、考えるな。水留さんは水留さんだ。美しさに性別など関係ない」
「八神兄、百点」
パチパチと拍手する水留。
「恐れ入ります」
謎の主従関係が出来上がったところで三千院が口を開く。
「やはり鬼達の計画は阻止したい。では、救出に向けて話し合いをしよう」
色々と意見は出たがこれといって良い方法が見つからない。やはり三千院の厄即が引っ掛かってしまう。三千院本人はそれでも構わないと言ったが命に関わるかもしれないと皆、反対した。
「こうなったら御門先生にお尋ねするしかないな」
「御門先生とはどなたですか?」
阿刀が聞く。
「ああ、昔からお世話になっている俺の師でもある方だ。だが、あまり気は進まんが…」
「何故です?」
「先生はちょっと…というよりかなり個性的方なんだ。とりあえず会えるか連絡してみるか」
そうしてその日の話し合いは終了した。
一週間後の朝のミーティング中。
御門から返事がきた。鳥の形をした折り紙が窓にパンパンとぶつかっている。窓を開け、紙を開いてみると一言。
『来い』
「先生らしいな。それでは今から御門先生の所に向かう事にする。全員準備しろ!」
『はいっ!』
着いたのは山奥の一軒家。
広い庭のある古民家だった。
「先生。三千院です」と戸を叩くと奥から走ってくるような足音が聞こえる。
すると戸が勢い良く開き、中から銀髪の丸い眼鏡を掛けた浴衣姿の男性がハリセンを三千院に向かってフルスイングした。
「このバカ弟子がー!今、桜井アナのお天気情報の時間じゃあ!!」
どうやらお気に入りの女子アナを観ていたところを邪魔されてご立腹らしい。
師からの熱烈な歓迎?を受けた三千院は数m先に吹っ飛ばされていた。
確かにこのパワーを見る限り、弟子にしっかりと受け継がれていたようだ(ep.25指輪)
「…この方が御門清秋先生だ」
頭に葉っぱを付けながら戻ってきた三千院が紹介する。
長い銀髪を後ろで結び、水色の浴衣を着て手にはハリセンを持っている。丸い眼鏡の奥の目は切れ長で少し緑がかって見える。
背もスラリと高い。
「この見た目だが百歳は超えている」
どう見ても30代前半だ。
「うっそぉ〜!マジでイケオジ過ぎるぅ。あっそうだ。初めましてぇ、私ぃ八神朱音っていいますっ!18歳ですけど歳上の男性がタイプでぇーす」
朱音の目が光っている。これは獲物を狙っている目だ。さっきまで「左右君、左右君」と言っていたのに。
「おい、朱音。失礼だぞ」
蒼人が注意する。
「だってぇ〜、こんなイケオジ滅多にいないじゃん!」
また、失礼をぶちかます頭お花畑バカ女こと朱音。
だが、御門は朱音を見ると一言。
「金色宇宙人」
「は?」
「宇宙人だから言葉が通じんか?お前は金色宇宙人だ。さっきから何言っとるか意味が分からん。それに18歳は論外だ。メスガキ」
何だろう。心がスッキリする。神楽坂と水留はそう思った。
「依人、ちゃんと土産は持ってきたんだろうな?」
「はい…」
何故か暗い顔をした三千院が厚い紙袋を御門に渡す。渡された袋の中身を確認すると
「良し!良く分かっておるの。さあ、中に入れ」
ニコニコ顔の御門に言われ、家の中に入ると客間に通される。
金色宇宙人に進化した放心状態の朱音は蒼人が引きずってきた。自分が可愛いと信じて疑わない朱音は御門からズタズタに言われてまだ抜け殻状態だ。
「それで。鬼がどうしたって?」
煙管を吹かせながら御門が三千院に問う。
今までの事を丁寧に説明する。
それを聞いた御門はスッと立ち上がり、男性陣の頭をハリセンで手加減なしに思い切り沈めていった。
何故か水留さんだけスルーだ。
「女に護られてどうする!このバカ男共がっ。その子は自分から鬼達の中に潜入しに行ったんだぞ。それも分からんとは!」
「えっ?それは…」
蛇丸がヨロヨロしながら涙目で聞く。相当痛かったのだろう。蒼人はまだ気絶している。
「その金色宇宙人が言ったんだろう。『お互いにもっと知り合って、仲良くなろう。仲間とは言わずに友達以上に』と。それから突然行く事に話がきまったのだろう?その言葉が行くきっかけのヒントになった。違うか?」
「言われてみれば…」
三千院が呟く。
御門は話の中のちょっとした情報からでも推測する事ができ、それが正解に近付くカギとなる事もある。
「全くバカ弟子といい、0係の男共は頭まで弱々しいのか?いくら歳上とはいえ、女の私に言われて悔しくないのか」
『はあっ!?』
皆が驚いて声を上げる。いつの間にか気絶していた蒼人と抜け殻状態だった朱音もその衝撃発言に復活した。御門は声もイケメンボイスだったから余計に気付かなかった。
「さすがに二発はキツい…。言い忘れていたが先生は女性だ。そして恋愛対象も女性だ。ただ、こだわりが強くてな。対象年齢は20代後半から30代、バストサイズはCカップ、巨乳は却下。背は160㎝程度、ふっくら系が好みだ。ぽっちゃり系は入らない。おまけに黒髪ロングの清楚系ならバッチリ」
「さすが我が弟子」
先ほどのお土産の袋の中身を出している。
見ると女優の写真集だった。
なるほど、お土産を渡したときの三千院の顔と朱音を論外と言った理由に納得する。
水留さんは…同類だと思ったのだろうか?
「えぇ〜!私のトキメキ返してよっ!マジで損したぁ。やっぱり私には左右君しかいないわっ!」
蛇丸に抱きつこうとする朱音。
「ムリ、オンナ、コワイ」
叩かれた後遺症か衝撃発言を受けたからか、青ざめて全力で拒否する蛇丸だった。




