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incident31.二人の夜

部屋に戻って荷物を整理する。

するとコンコンとドアをノックする音が聞こえた。

「はい」

誰かと思い開けてみると蛇丸君が立っていた。

「…良いの?ここに来て」

ここは女子寮だ。

「本当はダメだよ。でもどうしても話がしたくて来た」

「分かった。見つかったらいけないから入って」

そう言ってドアを閉める。


「どうぞ」

「ありがとう」 

蛇丸君にホットココアを注いだカップを渡す。二人でベッドに座って飲む。

「やっぱりひーちゃんが淹れてくれたココアは甘くて美味しい」

「蛇丸君ココア好きだもんね」

「ひーちゃんが淹れてくれたココアが好きなの!あのぜんさんが褒めてたくらいなんだから。ぜんさんだけじゃない、皆だよ」

「えー?だって三千院さんが好きなのは熱めのブラックコーヒーでしょ。神楽坂さんはレモン果汁を少しだけ入れた紅茶。阿刀さんは濃い目の緑茶、それから…」

「よく覚えてるね」

「だって毎日淹れてるから」

「それも飲めなくなっちゃうのかな」

「…」

それには答えられない。

「そういえば朱音さんは?」

「あおちーがいるから大丈夫」

蒼人君の事か。

「そっか。それなら安心だね」


蛇丸君が思い詰めたような顔で聞く。

「本当に赤城の所に行くの?」

「うん」

「絶対?」

「うん。もうきめたの」

「…ひーちゃんにも話しておきたい事がある。他にはぜんさんしか知らない話なんだけど俺と赤城、異母兄弟なんだ」

「えっ?」

「赤城…廉は鬼の家系、赤城家の長男で跡取り。それに比べて俺は廉の父親の愛人の子供。母親は蛇の一族の中でも下級の蛇丸家出身。容姿に恵まれたおかげで父親に気に入られて赤城家に連れてこられた。それで産まれたのが俺」

「…」

「廉の母親からは随分嫌がらせを受けたよ。それはそうだよな。自分が正妻なのにいきなり来た愛人が大事にされている。でも身も心もボロボロになっていく母親を見て俺は許せなかった」

「そうだね」

「ただ、俺は鬼の術を使えなかった。使えたのは蛇の術だけ。それもあって扱いは悪くなった。用意されたのは離れの粗末な家にご飯。学校にも通わせてもらえず、母親と召使いのような暮らしだった。それに比べて廉は俺には無い物を全て手に入れた。生まれ持った才能に暖かい家とご飯。友達もたくさん遊びに来た。羨ましくて仕方なかったよ」

子供の蛇丸君にとってどんなに辛かっただろうか。


「そしてある寒い冬の日、母親は死んだ。葬式なんてなかったよ。埋葬されただけ。それで俺は一人になった。よく廉の母親に言われたよ。『邪魔者、蛇丸』廉が言ってただろう?」

「うん…」

「再三、廉の母親は俺を追い出せと父親に迫った。父親は俺に母親の面影を見ていたんだろう。それで置いていただけだった。でもそれは廉の母親を煽るだけ。仕方なく蛇丸の家に連絡を取り、術も使えるという事で俺はそちらに引き取られる事になった。引き取られる代価として蛇丸家に来た異形の依頼は全部引き受けた。どんな危険な仕事でも。そこでぜんさんと会ったんだ。ちょうど寮もあったし蛇丸家を出る事にきめた。ぜんさんも説得してくれたおかげで今の0係にいれる」

蛇丸君にそんな過去があったとは。

「俺にとっては0係が家族みたいなもの。その中にひーちゃんも入ってた。でもひーちゃんは俺の中で特別になった。初めて護りたいと思えた大事な女の子」

「…蛇丸君には朱音さんを護る役目があるでしょう?」

「違う!さっきも言ったけど俺が本当に護りたいのはひーちゃんだよ」

グイッと引き寄せられ強く抱き締められる。

「離して」そんな事聞かされたら本当は離れたくないよ。

「嫌だ!」

先ほどより強く抱き締められる。

「お願い、離して」お願い、もうこれ以上私の心を揺さぶらないで。

「赤城じゃなくて俺を選んでよ、日花!」

「ずるい」名前で呼ぶなんて。

「ずるくて良い」

体を離したかと思うと顔が近付き、唇が重なるー。

「んっ…」

「日花」

「うっ…ん」

何度も何度もキスをする。

甘い甘いキス。

「蛇丸君…もう」

「ダメ。まだ足りない」

「ふっ…ん」

そのままベッドに押し倒される。

「蛇丸君」

「左右。左右って呼んで」

「さすけ…君」

「日花、好きだよ。離さない。離したくない。一生大切にする。何からでも護ってあげる。例え、死ぬ事になっても」


「じゃあ、今ここで死ぬか?」


「!!」

いつの間にか部屋の中に赤城君がいた。

「どうやってここに!?」

「そんなの鬼にとっては簡単な事。三下のお前には分かるまい。それよりも日花ちゃんは俺の花与芽(はなよめ)だ。邪魔をするなら殺す」

「赤城…良いだろう」

睨み合う二人。

ダメだ。これでは意味がない。

「止めて!私はもうきめたの。離して蛇丸君」

涙を堪え睨む。これが精一杯。

「え?ひーちゃん?」

「もう、止めて…」

ニヤリと笑う赤城。

私の手を掴むともう一方の手を宙に向ける。

「そういう事だから。羅生門!」

空間が捻れ、そこに大きな門が現れる。

「じゃあな、負け犬君。ああ、違ったかな。邪魔者、蛇丸」

「ひーちゃん!」

手を伸ばす。

あと少し、ほんのあとちょっと。

だが無情にも目の前で門が消えたー。

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