incident30.誘惑
場所は大会議室ー。
さすがに人数が多かったので部屋を移動した。
「0係としては二人は保護。たぶん争う事になると思うが全力で戦う。当然、君達は逮捕・拘束」
まずは三千院さんが意見を述べる。
「俺達は争ってでも二人、もしくはどちらか一人をもらう。希望は酒吞童子様の手を持っている天童日花さん」
赤城君がこちらを見て言う。
「俺達はどちらももらう。一人はこちら側に、もう一人は赤城達に渡しても良い。目的は同じだ。どうだ、赤城?」
紫崎さんが聞く。
「それでも良いよ」
頷く赤城君。
「やはり争いは避けられないか…。それに、もし二組が共闘となると厳しいな」
三千院さんが険しい顔をする。
「ねぇ、君達はどう思ってるの?」
紫崎さんがニコニコしながらこちらを見る。何だかその雰囲気に不気味さを感じる。
「私はもちろん0係にいます。戦うのなら参加もします」
当然だ。
「私はぁ、左右君もぉ警察☆Menもぉ&roidもぉ選べな〜い。それに皆、私の為に争わないでぇ〜」
目をうるうるさせながら言う。また可愛いアピールか。それよりもいつの間に蛇丸君を下の名前で呼ぶようになったんだ。何かモヤモヤする。
「バカか。祓魔師が鬼の仲間になってどうする」いいぞ、お兄ちゃん。
「え〜」
「ふ〜ん。君、祓魔師なんだ。それに面白いね。天然?配信に出てもらいたいくらいだ。ちょうどボケキャラが足りないと思ってたんだよね」今度は白鷺さんが話し掛ける。
「ありがとうございますぅ〜」
褒められてないよ。バカにされている事に気付かないのか?
「ところで天童さん」
「はい」
紫崎さんが私に向かって聞く。
「戦うって言ってたけどどのくらい戦えるの?」
「自分の身を護るくらいはできます」
神楽坂さんと特訓しているのだ。それくらいは。
「護るねぇ…。これでも?」
気付くと離れた所にいたはずの紫崎さんがすぐ近くにいた。それも私の首筋にカッターの刃を当てて。
『!!』
0係の皆がそれぞれの武器を構え、紫崎さんを囲む。
「安心して。今は何もしないよ。今はね」そう言ってカッターを仕舞う。
「今ので分かった?君の力では護れない。0係の皆の力を借りないとね」
「それは…」
「そうすると君を護りながら戦わないといけない。逆に皆の足手まといになるんだよ?」
「でも…」
「それに俺達と赤城達が共闘したらかなりの力の差だよ」
「確かに…」
「そして0係は君の為に全滅。君が残ると言った為にね」
「!!」
「そんな事はないわ。させない!」
神楽坂さんが大声で言う。
「ほら、こんなに君の事を思ってくれてるんだよ?良い人間達だね。死なせたくないよね?」
「それはそうですが…」
心が揺らぐ。
「君がこちらに来てくれれば人間は死ななくて良いんだよ?大切な仲間もだぁーれも。俺達、鬼がトップになればより良い世界が創られる。この話し合いも平和におわるんだ。争わなくて良いんだよ」
「ダメだ!鬼の言う事を聞いてはいけない」
三千院さんが止めるがもうどうすれば良いのか考えられなくなってきた。分からない。
そう思いながら項垂れると床に赤い線が引かれているのが見えた。
「何、これ…」
よく見ると血だ。私と紫崎さんを丸く囲んでいる。
「バレたかー。これは輪術。この中では僕の言葉からは逃げられないよ」
「何もしないと言ったではないか!」
阿刀さんが抗議する。
「『今は』と言ったじゃないか。やったのはその後。間違ってはないだろう?」
カッターと腕を見せる。腕には傷が付いていた。
「クソッ!」
蛇丸君がテーブルを強く叩く。
「ダメよぉ、左右君。手が痛くなっちゃう〜」
隣に座っていた朱音さんが蛇丸君の手を握る。
「ごめん。あかねん、離してくれる?」
「やーん。もうあだ名呼びぃ?嬉しいっ」
はしゃぐ朱音さん。
「まあ…仲間に入ってるから?」
「だったらぁ、お互いにもーっと知り合って、仲良くなりましょう。仲間なんて言わずに友達以上に」
そうか。
「私、行きます」
「天童さん!?さっき一緒に戦うと言ったじゃないですか!何故?」
「そうよ、日花ちゃん!私達は戦うつもりよ。考え直して」
三千院さんと神楽坂さんが叫ぶように言う。
「おっと、きめるのは雌蕊しだいという約束だ。破るとどうなるかは分かるよね?」
そうだ。三千院さんがダメージを負う事になる。
二人は黙るしかない。
「君は?赤城達と近付ける二度とないチャンスだよ。王子様達との夢のお姫様ライフ。どうだい?」
紫崎さんが振り返り、朱音さんに聞く。
「行くなよ、朱音」
「私はぁ、お兄ちゃんの言う事は守りなさいって言われてるのぉ。だからぁ行けませ〜ん。ごめんなさぁい」
「残念ですが先に洗脳済みです。このバカは何をするのか分からないので祖父によりたたき込まれています。力技で」
蒼人君が眼鏡を直しながら言う。双子の祖父、恐るべし。
「なぁんだ。そちらは術がなくても簡単だと思ったのに。本当に残念だ。ゆっくり口説かせてもらう事にするよ」
「それにぃ、左右君に護ってもらうからぁ大丈夫ですっ!」
朱音さんが蛇丸君に抱きつく。
「ちょっと、あかねん」
「…」
何で胸が苦しいのだろう?これで良かったのに。
「じゃあ、日花ちゃんはこちらで引き取るよ。もう知り合い以上の仲だしね。良いよな?紫崎」
「ああ、実は俺達の部屋は人の出入りが多くて狭いから上手くいけば二人とも預かってもらおうかと思っていたんだ。赤城の部屋なら広いだろう?なんたって天下のアイドル様なんだから」
「嫌味か?」
「何せ底辺Youtuberなので〜」
前に言われた事をまだ根に持っていたのか。
「ガキか。日花ちゃん、じゃ…」
「私、荷物をまとめなければいけないので、先に失礼します!」
赤城君の声を遮るように言って席を立つ。
「天童さん、本当に行くんですか?後悔しませんか?」
出口に向かう私の背中に蒼人君が問いかける。
「…後悔はするかもしれない。でも後悔はさせない」
「それはどういう…」
私は振り返って笑顔で蛇丸君に言う。
「蛇丸君、朱音さんを護ってあげてね」
「ひーちゃん!」
それだけ言うと足早に大会議室を後にする。
ちゃんと笑顔は作れていただろうか?




