incident3.過去
本庁に着くと0係の隣にある「会議室」と書かれた部屋に通される。
皆が席に座ると三千院さんが口を開く。
「天童さん、疲れているところ申し訳ないが話を聞かせて欲しい」0係補助員の方からコーヒーを受け取り「はい」と私は返事をする。
「天童日花さん、19歳、職業は?学生?」
「○○店のアルバイトです」
「あの公園にいたのは?」
「アルバイトの帰りに近くを通ったら具合の悪そうな女性がいたので…声をかけました」
「そうするとあの面を着けた女性とは知り合いではない事は間違いないね?」
「そうです」
「それと…」スッと二つに割れた面の片方を持ち上げ「この面の事は?」と聞かれる。
「何も知りません」
「そうだろうな…」眉間にシワを寄せ深くため息をつく、だいまお…おっといけない三千院さん。
「どういう事ですか?それに皆さんはー」今度は私が質問する。
「もうここまで来たら話しちゃってもいーんじゃないすか、ぜんさん」蛇丸君がイスにだらーんと寄りかかりながら言う。
「三千院だ。…そうだな。ただし今から言う事は他言無用でお願いする」
ちゃんと訂正しながら、真剣な顔で言うぜんさんに私は頷いた。
「この面はここ最近都内で発生している奇怪な事件の現場に必ずと言っていい程ある物だ。面を着けた者は錯乱状態で人を襲ったり、血塗れの面を残した行方不明者まで出ている。このような普通ではありえないような事件を術をもって取り扱うのが俺達、0係だ」
警察にそんな所があったとは。
「そういえば君も術を使っているようだったがあれは?それに少しだが異形に慣れているように見えたが」
話しても良いのだろうか。過去が頭を巡る。でも見られた以上話すしかない。
「あれは昔祖母に教えてもらったおまじないみたいなものです。私は小さいころから異形が見えていましたから」
『日花ちゃんってオバケが見えるんだってー』
『こわーい』
『もうこっちに来るなよ。オバケ日花』
『ハハハハ!』
小さいころの嫌な記憶がよみがえる。また気持ち悪がられたりしないだろうか。
あれ?でもこの人達はー。
「そのお婆様は…」
『日花、他の人にこの事は話してはいけないよ』
おばあちゃんの声が聞こえる。下を向き手をぎゅっと握る。これ以上はいけない。
そう思ったとき「そうなんだー。だからか。ひーちゃんのおかげで払えたし助かったよなー。感謝、感謝!」三千院さんの質問を遮るように蛇丸君が口を挟む。もしかして私の様子を見て話を遮ってくれたのか。
神楽坂さんも続けて「蛇丸君の言う通りよ。助かったわ」と言う。
それにうんと微笑みながら頷く阿刀さん。
何だ。この人達こそ異形と向かいあってきた術師ではないか。
この人達なら話しても良いのではないか。『この事』以外は。
だがその思いは早くも打ち砕かれる事となる。
一人の使者によって。