incident28.結婚式
「キレイよ〜。日花ちゃん」
「ドレスがキレイなのよ!ドレスがっ!」
「ひーちゃん…ぐすっ」
「これ、ご祝儀です。係長」
「…えーと」
控え室に入ってきた0係の皆と卜部さんがそれぞれの気持ちを述べる。
「こんな日を迎えられるなんて…」
凛々子ママは感動したようにハンカチを目に当てている。すっかり結婚式に浸っているようだ。
「私は認めてないからね!」
まるで姑のような言葉を吐く水留さん。
「で、何で俺達までここにいるんだよ」
赤城君達、警察☆Menのメンバーだ。
皆、きちんと正装している。
「だって余興をする人がいなかったんだもの」
白々しく言う神楽坂さん。
「俺達を余興扱いするとは良い度胸だ。後でたっぷり出演料払ってもらうかな」
そこに
コンコン。
ドアをノックする音が。
「どうぞ」
声を掛けると一人の男性が入ってきた。
「本日は誠におめでとうございます。私、当ホテルの総支配人、遠山将生と申します」
その瞬間、私の心臓がドクンと大きな音を立てた。
「ご希望通り、口の固い従業員を手配しました。それはそうですよね。ご友人に有名な方がいらっしゃるの…」
「まさきさん…?」
「え?はい。私の名前はまさきですが」
「将生さんよね!歳は取ってるけど間違いないわ。私よ、翔子!」
「しょうこさん?同じ名前の知り合いはいましたが…失礼ですが新婦様とお会いするのは今日が初めてですよね?」
「知り合いなんかじゃないわ!見て、この指輪。貴方からもらった婚約指輪よ」
そう言って私は総支配人に指輪を見せる。
「確かにこれは昔、私が恋人に贈った指輪です。でも翔子は…」
表情を曇らせる遠山さん。
「マンションの4階から飛び降りて自殺した」
私が口を開く。
「何故それを!?」
「最期に遺した言葉は『大好きよ、将生さん。結婚したかった』」
それは二人しか知り得ない言葉。
「本当に翔子なのか!?」
驚く遠山さんに頷く私。
「今は指輪の力でこの子の体を借りているの。私の想いが強くてその念が指輪に取り憑いたみたい。今まで色々なカップルの元を渡り歩いてきたけど心が満たされる事はなかった」
「済まなかった!翔子」
「貴方…このホテルの総支配人にまでなったのね。ホテルの外観や名前まで変わってたから最初、この場所に来ても分からなかったわ」
「ああ、あの後…翔子が亡くなった後、爺さんに抗議したが全く取り合ってもらえなかった。結局、話した通りこの取引先のホテルのお嬢さんと結婚して婿として入り、総支配人にまでなった。実家の会社は弟が継いでいる」
「そう…」
「でも信じてくれ!俺が生涯愛したのは翔子一人だけだ!子供もいるが養子だ」
「将生さん…」
涙が勝手に溢れる。
「ごめんなさい。三千院さんに天童さん。私の願望で振り回してしまって」
私が自分に謝る。何とも不思議な気分だ。
「さあ、お二人さん。これから結婚式よ!」
神楽坂さんが遠山さんと私の背中をポンッと叩く。
すると、私の体から翔子さんの霊体が飛び出す。
崩れ落ちる私の体を赤城君が支えてくれる。
「大丈夫?日花ちゃん」
「う、うん」
それを見て悔しそうにする蛇丸君。その顔を見てニヤリと笑う赤城君。二人ともどうしたのだろうか?
『えっ?えっ?』
その間に驚いている翔子さん。
「驚いている暇はないですよ。ウェディングドレスにメイクをしてキレイになった自分をイメージして下さい」そこで卜部さんが言う。
『…』
翔子さんが念じると花嫁姿に変わった。
「行こう」
そう言う遠山さんに頷く翔子さん。
教会を模した会場で誓いを交わし、披露宴ではケーキ入刀。警察☆Menからはラブソングを贈られた。豪華な料理はしっかり頂きましたよ。
『皆さん、ここまでしてくれてありがとう。思い残す事はないわ』
嬉しそうに笑う翔子さん。
「もう行くんだね」
遠山さんの言葉に翔子さんは頷く。
『大好きよ、将生さん。長生きしてね』
本当の最期の言葉は好きな相手の幸せを願う言葉だった。
見送ったとき、あんなに取れなかった指輪が取れた。
「外れましたよ!三千院さん」
「作戦通りに進んで良かったわ」
神楽坂さんが疲れたと言わんばかりに呟く。
「作戦?」
「総支配人の名前、何かで聞いた事があるなと思って調べたら指輪事件の関係者と同じだったの。ここのホテルで私の叔母が長年働いているからメールを送ってみたら見事的中。それだけでは足りないと思ったから急だったけど貸し切りにしたの。これだけのホテルを貸し切りにしたんだもの。総支配人が出てこないはずはないわ。まあ、指輪が暴走する可能性もあったからね。後は結婚式体験と総支配人が結婚式していたのもプランの見直しって言う事にしたし、口が固い従業員なら大丈夫でしょう」
そういう事だったのか。そこまで調べて身内にも隠すとは。その行動力に完敗(乾杯)だ。
後日ー。
「何だこの請求書は?」
「あら、必要経費よ」
朝から三千院さんと神楽坂さんが言い合いをしている。
「だからといって高過ぎるだろう。それに何だ。警察☆Menの事務所からも請求がきてるぞ!」
「あれほどのホテルを貸し切ったんだもの。これでも交渉したのよ。それでもう振り回される事がなくなったから良いじゃない。警察☆Menは警察に協力したんだから無視、無視」
「おい…」
そこに
コンコン。
ドアをノックする音。
「はーい」
私がドアを開けると、そこにいたのはあのホテルの総支配人・遠山将生さんだった。
「どうされたのですか?」
近くにいた阿刀さんが聞く。
「先日のお礼に伺いました。皆さんには本当にお世話になりました」
頭を下げる。
「こちらこそ無理を言って。お世話になりました」
「それで請求の件ですが今回のお支払いは結構です」
「やっ…」
三千院さんが近くにあったバインダーで神楽坂さんの頭を叩く。
「何故ですか?」
「今までずっと翔子の事が心残りでした。私が殺したも同然。亡くなった彼女に私は何もできなかった。亡くなる前も。悔やんでも悔やみきれない。でも0係の皆様にこうやってご縁を頂き、心が晴れました。翔子もきっとそうでしょう。本当にありがとうございました」
そう言って涙を流しながらお礼を言う遠山さん。
それを聞いた三千院さんが引き出しから何かを取り出す。あの婚約指輪だった。
「それではこれは貴方がお持ち下さい」
「えっ?でも…これって警察の物ですよね?」
「もうこの指輪は曰く付きでも何でもありません。0係には不要です。それに元の持ち主が見つかったんです。お返ししなければ」
「…ありがとうございます!」
遠山さんは指輪を宝物のように大事に持って帰っていった。
「ぜんさん、良かったんですかー?」
「三千院だ。何がだ?」
「指輪、渡しちゃって」
「言っただろう。持ち主が見つかったんだ。返すのが当たり前だろう」
「そんな事言って、本当は自分が大変な目にあったからもう見たくなかったんじゃないですか?」
ニヤニヤしながら言う蛇丸君。
「それは…!」
「良いわよねー。よりひとちゃんと恋人ごっこできて。あーあ、私がゲットしたかった」
「すみません…」
水留さんの言葉に苦笑いしながら答える私。
机の上にはブーケトスの花束が飾られている。




