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挑戦者  作者: Lance
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「決着」

 フレデリックは今頃になってようやく凄まじい疲労を感じた。今まで戦いで忘れていた。

 挑戦者は前方で木の錘付きの縄を頭上で回している。その不気味な風の音色だけが会場に聴こえていた。

 こいつは、午後クラスの強敵だろう。だからこそ、こいつを倒せば希望がまた一つ見えてくる。

 いつぞやヴァンが午後の部への誘いを掛けてくれた。俺にだってそのぐらいの戦いができるようになったということだ。

 相手を睨む。黒い覆面の間からは静かだが殺気漲る視線を感じる。奴もまた俺を睨んでいる。しかし、本当は鎖使いだ。鉄の錘で何でも粉砕してしまうのだろう。しかし、何者だ。

 相手が縄を投げつける。波打ちながら先端の木の錘がフレデリックを狙った。

 剣を握り逡巡する。打ち返したいが打ち返せない。フレデリックは錘を避けた。だが、相手は器用に縄を操り、フレデリックの頭上へと瞬時に錘を移した。

 フレデリックが避けると、そこには大きな破壊音と土塊を飛ばした穿たれた地面があった。

 どうにかして接敵しなければ。

 縄が横薙ぎに飛んでくるそれを後方へ跳んで躱す。重たい音が響いた瞬間、フレデリックは全力で駆けた。

 またもや、同じ攻めだが仕方が無い、剣が届かなければ意味がないからだ。

 幸い観客はガザシーの戦闘技術と見慣れぬ武器に夢中であった。

 縄が戻され、フレデリックの眼前に喰らい付こうとする。受ければチャンプ戦まで剣がもたないであろう。フレデリックはここも回避をした。相手との距離が縮まると、フレデリックは咆哮を上げて身体ごと剣を横旋回させ、相手に斬り込んだ。

 二度も剣を片手一本の短剣で受け止められたが、フレデリックはそこで突きも大振りも止めた。相手の手首と襟首を掴み、足を蹴って、一本背負いにした。

 相手は放り投げながらも信じられない離れ業を披露する。空中でスッと回転し、そのまま縄を振るったのだ。

 空から放たれた縄は竜が咢を見せるが如く、フレデリックを襲った。

 フレデリックは今度こそ、剣で錘を受け止めるしかなかった。

 激しい音色、振動が脳と身体を揺るがす。

 相手は着地し、縄を戻したかと思うと繰り出し、横から襲ってきた。

 フレデリックは跳躍した。下を縄が抜けて行く。足をまたグルグル巻きにされるところであった。

 間合いがまた離れるのもそうだが、相手は方向を変え、壁には接しないように気を付けているらしい。

 俺にヒルダのような投擲術があればな。そうすれば攻め方はまた少し違う結末を見せたかもしれない。

 無いものねだりをしても仕方が無い。剣で切り裂くのみ。

 フレデリックは顔面目掛けて飛んでくる錘を目を見開いて間一髪避けて、再び相手に向かって行く。

 今度こそ、終わりにさせてもらおう。

 ガザシーは当然、縄を戻し、フレデリックを倒そうと真横から打ってきた。

 フレデリックは、下段から両手で全力で剣を振り上げ、逆月光で錘を空高く飛ばした。相手が縄に引っ張られよろめく。

 今だ。

「月光!」

 フレデリックの渾身の一撃は外れた。

 相手のマントのような黒装束の端が空へ消えた。

 そして振り向いた瞬間、素早い跳躍でフレデリックの顔を短剣で切りつけた。

 フレデリックは慌てて身を倒し、回転して逃げるのではなく相手に向かってそして勇躍した。

 大上段からの渾身の一刀両断は、相手の短剣を圧し折った。

 そのまま斬り付けたが、相手はフレデリックの顎に掌底をぶつけてきた。

 黒装束の袖から現れた腕は白く、細かったが、強烈な一撃であった。

 脳震盪を起こしながら、フレデリックは相手のハイキックを籠手で受け止めた。そしてその足を掴み、引っ張った。

 相手の黒い覆面が迫る。そこに頭突きをぶつけた。今度は相手がよろめく番だったはずだが、まるで通用していなかった。足払いを掛けてもヒラリと避ける。フレデリックとしては焦る必要が出て来た。これ以上、間合いから逃すものか。

 突くのはリスクが大きい。ならば、斬る。

 フレデリックは縄を引っ張った。

 相手は予想していなかったらしく、こちらへ引きずられた。

「おおらああっ!」

 フレデリックは縄を振り上げた。短く縄を持っていた相手が宙へ浮き、地面に着地する。

 横薙ぎの横月光を放つ。

 短剣も失い、縄に執着していた相手は出遅れ、フレデリックの一撃を薄い装束の横腹にまともに受けて、よろめき倒れた。

 審判が駆けつけて来る。

 ガザシーは気絶をしているらしい。

 審判がこちらへ歩んで来た。

「勝者、フレデリック!」

 ようやく観衆の声援を取り戻すことができた。担架で運ばれてゆく、奇妙な相手の様子を見ながらフレデリックは息を吐いた。

 剣を見る。随分と傷んでいる印象を受けた。まだ、一人優勝候補と戦ってはいない。フレデリックはそれを危惧していた。ヒルダのように何本も剣を持てればいいが、それは彼女に投擲するという名目があるからこそ、観客も目を瞑っている。二刀流は無理だ。手が同時に動いてしまう。

 フレデリックが剣を眺めていると、勢い勇んで次なる挑戦者が現れた。午前の部でよく見る顔だ。多少は手を抜いて戦える。

 フレデリックは安堵し、位置に着いた。

 相手はフレデリックが疲れていることを察しているらしく、勝ったも同然という顔をしていた。

 審判が試合開始を告げる。

 相手が勢い勇んで突っ込んで来た。フレデリックは悠然と構え、足払いし、倒れそうな相手を片腕で引き戻し右肘で強かに顔面を打った。

 相手は昏倒した。

 こうして早くも勝敗を決し、九勝目を得た。

 そして彼が危惧する巨体が入り口に現れたのであった。

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