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挑戦者  作者: Lance
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「助太刀」

 倒れた戦士達の山を跨ぎ、ダンハロウが進み出る。

 相手の戦士達はまだまだいるが、ダンハロウの無双のごとき技の前に全員が向かうのを尻込みしている様子だ。

 客達のダンハロウコールだけが会場に木霊していた。

「やはりお強いですね」

 ヒルダが息を飲む様に言った。

「当たり前だぜ、俺の先生なんだからな!」

 デズーカが笑いながら嬉しそうに言い、ヒルダと俺は顔を合わせて微笑み合った。

「おおおおっ!」

 後退していた戦士達がここに来て自棄になってダンハロウへ襲い掛かった。

 ダンハロウの姿は再びあっという間に見えなくなり、木剣の鉄を打つ音だけが、彼の生存している証として鳴り響いていた。

 そうしてダンハロウの包囲は再び崩れ去り、戦士達が倒れて呻いていた。

 これで三分の二は片づいたことになる。

 残る三分の一は、三十人程度だ。ダンハロウならば問題ない。

 残りの奴らも腹を決めて地鳴りを上げて猛然とダンハロウ目掛けて駆け出した。

 ダンハロウの動きを初めてフレデリックは見た。

 何のことは無い。ただ避け、がら空きの部分を打つ、当たり前だがそれの繰り返しであった。つまりダンハロウはこれだけの何ら変貌も無い動きでフレデリックらを破っているという証でもあった。

「基礎をやり直すか」

「ああ、その通りだ。先生は俺に基礎の大事さを教えてくれた」

 フレデリックの独り言をデズーカが聴き得意げにそう言った。

 ダンハロウの周りには倒れて藻掻く者ばかりになった。つまり、この老人はたった一人で本当に百人の相手を破ったのだ。

 何と恐ろしい老人だろうか。

 審判達が集結し、ただ一人会場に立つ老紳士の勝ちを宣告しようとした。だが、その時、示し合わせたように倒れていた戦士達が立ち上がった。

「ダンハロウを殺せ!」

 一人が叫び、残りの連中が老人を包囲する。審判が警笛を鳴らし、注意しても戦士達は負けを認めなかった。

「卑怯者!」

 観客達が抗議の声を上げるが、戦士達はダンハロウを囲み、木剣を向けていた。

「先生!」

 デズーカが飛び出し、会場へ降りた。

「フレデリック!」

 ヒルダの目が訴える。

「分かった、俺達も行こう!」

 ヒルダと共にフレデリックは会場へ着地した。少し離れたところで、もう一つの影が降りるのを目の端に捉えた。

「卑怯者どもに告ぐ! 潔く負けを認めればそれで良し、そうでないのなら我が剣が助勢に加わるだろう!」

 咆哮から聞こえたのは間違い無くカンソウの声であった。離れたところにいるあの影がそうだろう。

「お前ら、卑怯だぞ! 下がれ下がれ! 道を開けろ!」

 デズーカが言った瞬間、ダンハロウの背中にいた者達がこちらを振り返り、剣を向けて睨んで来た。

「あなた達、それでも闘技戦士ですか!」

 ヒルダが声高に呼ぶが戦士達は睨みを利かせたままだ。

 フレデリックも大音声を上げて叫んだ。

「闘技戦士なら、負けを認めろ! そうでないと言うならば、亡者に相応しい最期を与えてくれるぞ!」

「ダンハロウさえいなければ!」

 その一声を皮切りに大勢の影が動いた。

 フレデリックとヒルダは体術で敵から武器を奪い取り、踏み込んで行った。デズーカは拳で次々敵を打っていた。プレートメイルを諦めた彼の動きは昔よりも鋭敏であった。新たに注意しなければならないライバルが出来た。

 フレデリックは避けて、突いた。ヒルダも同じような戦い方であったが、彼女はスラディングが上手い。敵の背後に回り込んで脳天に一撃を見舞っていた。

 そのまま敵と打ち合っていると、上空が俄に暗くなった。

 風を孕む羽音が聴こえ、大きな影がダンハロウの傍に舞い降りた。

「これ以上、自らの尊厳を傷つける戦いを私は良しとしません! 今すぐ、戦いを止めて負けた者達は潔く出て行くように申し付ける!」

 若い声がはっきりと響き渡った。

 竜は青いフロストドラゴンでその上に一人の竜乗りが立っていた。太陽の光りがその白銀の鎧を反射し、眩い光景に映った。

「シンヴレス皇子!? 道をお開けなさい!」

 ヒルダが慌てた様子で竜乗りの方へ向かってゆく。デズーカとフレデリックも続いた。

 竜乗りは兜を脱いでいた。まだ二十にもなっていないが、長い金髪が風で揺れ、鋭い憤りの眼が闘技戦士達に向けられていた。

「お控えなさい! このお方をどなたと心得ますか!」

 ヒルダが竜の傍に来ると声を上げて続けた。

「こちらにおわすお方こそ、イルスデン帝国皇子であり、コロッセオの最高責任者シンヴレス様であらせられるますぞ!」

 その声を聴いた瞬間、ダンハロウはシルクハットを脱いで、片膝をつき、フレデリックとデズーカも後に従った。

 だが、察しの悪い闘技戦士達は顔を見わせるばかりであった。

「皇子がこんなところに来るものか!」

「来るのだよ」

 一つ、声が聴こえ、闘技戦士達が慌てて道を開いた。

 そこにはドラグナージークが立っていた。

「皆、やってしまったものは仕方がない。今後はこのようなことの無いように、闘技戦士として気を改め直してほしい。さもなければ、私が相手になるぞ」

「ドラグナージークの言う通りだ。戦士ならば、卑怯な手段を講じる前に、真正直になって切磋琢磨し、己を高めるものだ! お前たちの卑怯は幸い始まったばかりだ。今ならまだ見逃せる」

 シンヴレス皇子が竜の上で言った。

「それとも、戦いを続けて鬱憤は晴らせても闘技に永久的に参加する資格をはく奪されるかどうか、さぁ、決めよ!」

 シンヴレス皇子の威光と威厳はまだまだだが、有名なドラグナージークの存在が弱い戦士達を惑わせることができたのだろう。一人、また一人と片膝をついて平伏した。

「神妙でよろしい。審判、宣言を!」

「この勝負、ダンハロウの勝利!」

 審判の宣言を受けて、会場は大いに沸いた。シンヴレス皇子を称える声が一色となり、皇子は気まずそうに言った。

「ダンハロウさんの名前を呼んでほしかったな。私は何もしていないし」

 そして皇子は竜を羽ばたかせた。

「ヒルダを始め、助太刀に来てくれた戦士達には心から感謝を。では、さらばだ」

 シンヴレス皇子はそう言うと、フレデリックらを一度振り返って頷き、そして虚空へと竜を飛翔させて見えなくなった。

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