プロローグ 目覚め
(…頭が…重い……)
ざりざりと頭の中で音が掻き鳴らされている。だが、こんな中でも身体に痛みなどは感じられない。
流石俺の身体だ、と思うのも束の間気づく。痛みがないどころか、感覚がない。重い頭はひどく冷たい地面に突っ伏していた、起きあがろうとしても上手くいかない。
それもそうだろう。何故ならーーー
(ーーー身体が、ないのか)
当たり前だ。身体が無いなら起き上がれる筈がない。
生首がせいぜいできるのは顎を開いて閉じて、転がるくらいだ。
せめてもの救いを探して、曖昧だった五感を解放する
《ーーーーーーーーー》
(…?今何か…)
脳裏に響く砂嵐のような声に、わずかな疑問を持つ。そして、疑問は五感の覚醒とともに溢れてくる。
そもそも何で生首が生きれているのか?俺は斬首刑を受けた犯罪者の走馬灯なのか?ここは何処なのか?この頭の重みは何なのか?俺は
(俺は…誰なんだ?)
【ーーーー】の自己確立。その瞬間、五感の解放が完了する
濁り、曇り、チカチカと点滅する視界。冷え切った地面は鋼鉄の感触、錆が肌に食い込みちくちくと頬を刺激する。雨の匂いがする、ガソリンとゴムと、鼻を覆う手もなく、顔を力無くしかめる。耳はきかず、砂嵐のように叫んでいる。
役に立つような立たないような情報の波に揺られながらも、その眼は捉えた。
[シガラミ廃棄場・スクラップおきば]
視界に映るは鉄、鉄、鉄。その中聳え立つ塔のような建物
そこに貼り付けてあった看板。デカデカと、照明まで付けて。
まるで指を指されるように自覚した。
俺はスクラップなんだってことを。