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婚約破棄されそうな悪役令嬢ですが、訳あり結婚詐欺師と手を組んでみました!〜そっちがその気なら、わたくしも浮気して差し上げますわ!〜

作者: 花崎えみ

短編です!サクッと読めます!


評価・ブックマークありがとうございます!!

皆様のおかげで夢のランキングに載ることができました!ありがとうございます!!

「ーーこれこのように、殿下はわたくしよりもあちらのご令嬢にご執心なのですわ!!」


「……うん。それはよく分かった。嫌というほど」


 目の前では、我が国の王太子と最近何かと噂の子爵令嬢が、熱いキスを交わしていた。

 確かに、言い逃れのできない決定的な場面だ。ここに記者がいれば、喜んで号外の記事を認めただろう。


 しかし、男にとっては、この少女の奇行が1番信じられなかった。


「……で、何で俺は、浮気現場(あれ)を見せられているのかな?君は、俺の誘いに乗ってくれたと思っていたけどーーもしかして、意味が分かってない?」


 そう言って妖艶に微笑む男を、少女は紫紺の瞳で不思議そうに見つめた。艶やかな金の髪がさらりと揺れる。


「ーーあら。だって、わたくしと『遊んで』くださるのでしょう?」


「!」


 少女は男の手に自身の指を重ね、無垢な笑みを浮かべて言った。



「ですから、わたくしの浮気相手になって……一緒に王位を簒奪しましょう?」



 その言葉の意味を理解して、男は頬をひくつかせた。



 ◇◇◇



 ーー事の発端は、仮面舞踏会にまで遡る。



 マリアベルは、とある目的のため、仮面舞踏会とやらに人生で初めて足を踏み入れていた。


 (……さて。殿下はどこにいらっしゃるのかしら?)


 辺りを見渡すが、それらしき姿は見つからない。


 (仮面をつけていても、意外に顔の造形は分かるものなのね。ーーあら、おしどり夫婦で有名な公爵様だわ。まあ……。貴方も浮気をしていらっしゃったのね)


 マリアベルがちらりと公爵に視線を向けると、公爵は小さな悲鳴をあげて逃げていった。

 更には、いつの間にかマリアベルを避けるようにして道ができている。


 (……わたくし、何だか遠巻きにされていなかしら?)


 ーーマリアベルは小首を傾げているが、マリアベルが周囲の人物の素性を理解したように、招待客達も皆、マリアベルの正体を見抜き、見て見ぬふりをしていたのだった。


 『完璧令嬢』と称されるマリアベルは、絶賛浮気中の王太子の従姉妹で婚約者だ。

 王家の外戚である公爵令嬢として生を受けて以来、王妃教育の傍ら何かとポンコ……頼りない王太子に代わって政務をこなしてきた、才色兼備の令嬢である。


 そんなマリアベルの目下の悩みはただひとつ。

 婚約者が最近始めた火遊びだ。


 最初は色んな令嬢に手当たり次第手をつけていた婚約者だったが、学園を賑わせていた子爵令嬢の罠に囚われ、すっかり彼女の言いなりになってしまった。卒業を間近に控えた今でも、目は覚めていない。


 (多少の浮気なら目を瞑ろうと思っていたけれど……『あれ』は駄目ね。彼女の言いなりになって国を潰すのが目に浮かぶわ)

 

 普段はどんなにやらかしても笑顔で許してきたマリアベルだったが、ここにきて婚約者を切り捨てる覚悟を決めた。

 

 事の経緯を両陛下に説明し、コンラードは王に相応しくないと進言しようと心に誓ったのだ。


 しかし、最後に言い訳くらいは聞いてあげようかしらと、マリアベルは最近自分を避けている婚約者に会うため、こうして仮面舞踏会にやって来たのだった。



「ーーだからさ、あいつはつまらない女なんだって」



 (……殿下の声?)



 考えごとをしているうちに、どうやらバルコニーの近くまで来ていたようだ。


 下を軽く覗き見れば、庭のベンチに腰掛け談笑する年若い男女が見えた。

 探していた婚約者とその浮気相手だと気づき、マリアベルは軽く目を見張る。


 マリアベルは彼らに気づかれないように注意しながら、耳をそばだてた。


「いつも勉強ばかりで、俺がちょっと何かしたら直ぐに小言をいうんだ。人形みたいに気味の悪い笑顔を貼り付けて笑うのも見ていて気分が悪い。ちょっと母上に気に入られてるからって、偉そうな女だよ全く」

「そうなんですか?……でも、コンラード様はマリアベル様とご結婚なさるのでしょう?」

「する訳ないだろ。俺が愛してるのはメアリ、君だけだ。でもまあ、マリアベルは俺がもらってやらなかったら嫁の貰い手がないだろうから、愛人としてもらってやるさ」

「まあ!お優しいんですね、コンラード様!ーーあ。そういえば私、新しいドレスが欲しいんですけど……」

「ん?いいぞ。どうせ国庫には腐るほど金があるんだ。幾らでも買ってやろう」


 2人はそれからもマリアベルの悪口で盛り上がった後、目を背けたくなる行為に耽っていった。


 (ーーつまらない女?もらってやる?国庫に腐るほど金がある……!?)


 怒りで、手に持っていた扇子がミシミシと音を立てた。


 (ーーわたくしだって!!浮気相手の1人や2人、直ぐに見つけられるもの!!)


 それに、国庫に腐るほどお金がある訳がない。

 現実を理解していない婚約者を見て、幼馴染としての情はきれいさっぱりなくなった。


 (っ、でも、悔しい……!!駄目よ、マリアベル、泣いては駄目……!!)


 ーーと、そこへ。


「お嬢さん。良ければ俺と遊びませんか?」


「!」


 涙を堪えて俯くマリアベルに声をかけてきた青年は、思わずハッと息を呑むほど見目麗しかった。

 闇色のサラサラとした髪に、仮面の奥から覗く藍の瞳。

 優しげな目元と薄い唇はどこか軽薄さを湛えており、スタイルが良いおかげなのか、夜会服が様になっていた。


 マリアベルはどこかで見たことがあると思い、目を凝らす。


 (ーー分かった!この人、今王都で話題の『結婚詐欺師』だわ!)


 確か、どこかの伯爵家の三男坊。

 多くの女性に結婚を匂わせて近づいておきながら、結婚直前になると別れを切り出すという女の敵。


 しかし、今のマリアベルにとってそんなことはどうでもよかった。


 (嫡男ではない……!それに、安心安全の最低男!!完璧な逸材だわ……!!)


 マリアベルは顔に喜色を浮かべ、男の誘いに乗った。

 2人で会場を抜け出し、庭へと歩みを進める。


 そして訝しむ男を説き伏せて庭の茂みに身を潜め、マリアベルは婚約者の浮気現場を紹介したのだった。



 ◇◇◇



「ーー俺に、お飾りの王配になってほしいって?……本気で言ってる?」

「勿論本気ですわ。結婚詐欺師さん」


「……その結婚詐欺師さんっていうのやめない?まあ、実際その通りなんだけどさ」


 マリアベルは現在、男を連れて休憩室の一室に居た。

 家族や両陛下に知られてしまえば大事になるのは分かっているが、怒りに燃えているマリアベルにとってはどうでもよかった。

 

 マリアベルは男に事情を説明し、改めて契約を持ちかけた。

 3食昼寝つきで、仕事は何もしなくて良いからマリアベルの側に居て欲しいと詰め寄り、今に至る。


「俺のことはデュークって呼んでよ。君のことも名前で呼んでもいい?」

「どうぞお好きに。ーーそれより、わたくしと結婚してくださいます?返事は、はいかイエスしか受け付けませんわ」

「……ははは」


 デュークは乾いた笑みを浮かべた。

 少し黙り込んだ後、挑戦的な笑みを浮かべて言う。


「ーーいいよ。結婚しよう」


「まあ!ありがとうございます!」


 マリアベルは満面の笑みでお礼を告げ、デュークの両手を握った。


「……言っておきますけど、逃しませんわよ?」

「え?」


 デュークは、何故か本能的な恐怖を感じて身震いした。


「ーー今夜の主催の方とは、ちょっとした知り合いなのです。この部屋に足を踏み入れた瞬間から、わたくし達は朝まで出られませんわ」


「……は!?」


「責任、取って頂きますわよ?」


「めちゃくちゃだ……!」


 確かに、普段のマリアベルならこんな真似、死んでもしなかっただろう。


「でも、君はまだ王太子殿下の婚約者だよね?これって浮気にならない?」

「先に向こうが浮気をしたのだから構いませんわ。……貴方こそ、分かっていてわたくしに声をかけたのですからおあいこですわよ」


 デュークは、「確かに」と言って寝台に寝転ぶ。


「マリアベルもおいでよ。大丈夫、何もしないから」

「あら、そうなのですか?一応覚悟は決めていたのですが」

「……一旦、冷静になった方がいいんじゃない?君、今淑女としてあるまじき発言をしてるけど分かってる?ーーって、嘘だろ、この状況で普通寝るか!?」


 マリアベルは、デュークの横ですやすやと寝息を立てていた。


 あどけない寝顔に、デュークは自然と笑み溢れる。


「……初恋の女の子に声をかけて、まさかこんなことになるなんて思わなかったな」



 ーーそう呟いた独り言は、誰にも聞かれることはなかった。



 ◇◇◇



「ーーマリアベル!!貴様との婚約を破棄し、俺はメアリ嬢と結婚する!!だが俺は優しいので、お前を愛人にーー」


「婚約破棄の件、承知致しました。ですが、愛人についてはお断りしますわ。ーーわたくしは、こちらの男性と結婚致します!」


「なっ……!?」


 迎えた卒業パーティー。

 婚約破棄を宣言されたマリアベルはすかさず隣立つデュークの腕を掴み、負けじと高らかに声を上げた。


 周囲から、『完璧令嬢』が『結婚詐欺師』と……?なんて声が聞こえてくるが、マリアベルにとっては痛くも痒くもない。


「ふざけるな!!俺というものがありながら、浮気をしていたのか!?」

「ひどいです、マリアベル様!常識がないです!」

「その言葉、そっくりそのままお返し致しますわ!……あとメアリさん、貴女にだけは言われたくありません!」


 マリアベルとコンラードの論争は白熱していく。


「はっ!どうせ、俺への意趣返しのつもりなんだろう!そこら辺で雇った三文役者か!?」

「違います!わたくしたちは、もう一夜を共にした仲ですわ!」

「なっ……!?」


 デュークは、「同じ部屋で一緒に寝ただけだよね……」と呟き遠い目をしているが、2人には届かない。


「というか、マリアベル貴様、今日はやけに反抗的だな!?それが未来の王に対する態度か!?」



「ーーあら。未来の王はこのわたくし、ですわよ?」



 マリアベルはにっこりと目を細め、デュークはその横で諦めたように目を伏せた。


「な、何を馬鹿な……!」

「我が国では、女性も王位継承権を得ていることはご存知でしょう?」

「だ、だが、俺にはまだ弟がいる!お前なんか精々4、5番目だろう!」

「ええ、そうですわね。ーーですが皆様、長男に似て問題児でいらっしゃいますから……さくっと退場して頂きました」

「退場!?」


 コンラードが冗談だろう、と嘆き声を上げるが、全く以て冗談などではない。

 マリアベルが尚も言い募ろうとした時、デュークが背後から肩に手を触れた。


「マリアベル、俺に代わって」

「まあ」


「ーーコンラード殿下。調査の結果、貴方は王に相応しくないと判断致しました。ご兄弟も同様です。よって、現在の王位継承権第一位は、こちらのマリアベル様になります」


 マリアベルは目を瞬いた。突然デュークが不敬とも取れる発言をし始めたからだ。


 (……その割には、少し楽しそうね?)


「な……!?なんと、無礼な……!!貴様、どこの家の者だ!!即刻取り潰してやる!」


「ーーブランシュ伯爵家が三男です。取り潰せるものならどうぞご自由に」


「ブランシュ……!?」


 コンラードが驚愕に目を見開き、固まる。

 デュークは不思議そうな顔をしているマリアベルと目が合うと、花が綻ぶようににっこりと笑った。


 次いで、デュークは両陛下に了承を求めた。

 お2人は顔を真っ青にして、マリアベルの即位を認め、コンラードは廃嫡すると言う。


 (おかしいわね……?想像よりも、ことがトントン拍子に進んだわ……?殿下も、何故か直ぐに引き下がってしまったし…...)


「ーーでは、コンラード元殿下。マリアベル嬢は私が頂いていきます」


 頭に疑問符を浮かべていたマリアベルだったが、隣立つデュークが突然そんな発言をした後、人前だというのに頬にキスをしたので、直ぐに思考を放棄した。


「な、な何を……!」


 顔を真っ赤にするマリアベルを見て、デュークは心底嬉しそうに笑う。


 あの結婚詐欺師が見せた年相応の笑みに、恋に敗れた女性たちは悔しいながらも理解した。


 ーー彼は、自分達に本気ではなかったのだと。



 ◇◇◇



「ブランシュ伯爵家は、王家直属の諜報員で……尚且つ、王に相応しい人物か調査する王家の審判官……!?」


 マリアベルは自身の屋敷にデュークを連れ込……呼んで、ことの審議を問いただした。すると、まさかの事実が飛び出したのだ。


「失礼ですが、そのような話、聞いたことがありませんわ」

「そりゃそうだよ。この事は、うち以外王太子と両陛下にしか知らされていないんだから」


 デュークは嘘をついているようには見えない。

 マリアベルは、まさか本当なのかと目を見開いた。


「だ、だから、王子達の弱みが次々と……?あ!ではもしかして、『結婚詐欺師』も演技だったんですの!?」


 デュークは「そういうこと」と言って肩をすくめた。


「金の流れが怪しい貴族の家に潜り込むには、ご令嬢を隠れ蓑にするのが1番楽だからね」

「まあ……!ものすごく最低ですわね!」

「……」


 マリアベルは褒めたつもりだったのだが、デュークは目を逸らした。そして、「ごめん」と小さく呟く。


「大丈夫ですわ!『結婚詐欺師』と呼ばれていても次から次へと女性を引っ掛けることができたのは、最早一種の才能です!」

「……」


 悲しげに目を伏せたデュークは、別の話題に切り替えようと伯爵家に話を戻した。

 

 曰く、全ての始まりは元々我が国がとある王国の植民地だったことに起因しているらしい。

 ブランシュ伯爵家はその王国出身の貴族で、王家を守護する代わりに、王を選出する権利を有しているのだとか。

 所謂、我が国の監視者の役割を担っているようだ。


「ブランシュ家の皆様は、それで良いんですの……?」

「良いんだよ。もう何百年も前のことを言っても仕方ないしね」


 デュークは、マリアベルをちらりと見つめた後、恥ずかしそうに呟いた。


「覚えて……は、ないか」

「?」


「ううん、何でもない。こっちの話」


 デュークはそう言った後、マリアベルを寝台に引き摺り込んだ。

 マリアベルは慌てて、デュークに覆い被さるようにして寝台に手をつく。


「……どういうおつもり?」

「無事婚約破棄したし、そろそろ俺と『遊んで』くれないかな、と思って」

 

 悪びれもせずそう言って笑うデュークに、マリアベルは呆れた。


「まあ、責任を取ってくださるなら」



「ーー勿論。やっと捕まえたんだ。死んでも離さないよ、俺の女王陛下」



 マリアベルは大人しく目を閉じようとして……我に返った。


「やっと捕まえたって何ですの?」

「あれ……今いい雰囲気だったと思うんだけど、気になっちゃった?」

「そもそも、わたくしが言い出さなければ、あのまま殿下を即位させるおつもりだったのでしょう?何故わたくしに協力してくださったの?」


 デュークは「気づいたか」と言って身を起こした。マリアベルもつられて起き上がる。



「ーーそんなの、好きな子が困っていたら王位のひとつやふたつ、あげたくなるじゃないか」



 そう言ってデュークが微笑むので、マリアベルは「結婚詐欺師よりもたちが悪いわ……」と呟いて頭を抱えた。


「まあ、普通にマリアベルがコンラード元殿下の代わりに政務をこなしてくれるなら即位させても良いだろうって意見が出てたんだけどね」

「そう…….」

「ま、そういうことで、じゃあ続きをーー」


 デュークの手が頬に伸びたが、マリアベルはそれをパシリと掴んだ。

 

「ーーわたくしは誤魔化されませんわよ。ひとつ目の質問に答えてもらってないですわ」


 デュークは、「それはおいおい……」と言って逃げようとしたが、マリアベルは逃す気はなかった。


「何を恥ずかしがっているのか知りませんが、貴方先程わたくしのことが好きだと仰いましたからね?それってもう、告白したのと同じですからね?」

「あ、あはは……」


 マリアベルはずいずいと身を乗り出す。

 今度は反対にデュークが後ずさっていった。


「わたくし、貴方の仕事を軽蔑したりなど致しません。ですが、夫婦になるのですもの。隠し事はなしですわ」


 デュークは後ずさるのをやめた。

 次いで、「懐かしいな」と呟く。


「『あの時』も、そんな風に言ってくれたよね。だから俺は……」


 そう言ってからマリアベルに近づき、唇を奪った。


「!」


「ーーだから俺は、君が好きで。君のためなら、何だってできるんだ」


 ーーマリアベルは知らなかった。

 自身の宿命に悩んでいたデュークを、幼いマリアベルが慰めたことも。

 マリアベルが不幸になるくらいなら、この国を滅ぼしてしまおうかなんて考えたデュークが、実はこっそり裏から手を引いていたことも。


 ……声をかけるつもりはなかったのに、仮面舞踏会でのマリアベルが泣きそうに見えて、うっかり口が滑ったことも。


  

 マリアベルは恋を知らない。

 恋という瑣末な感情が、ここまで人の人生に影響を及ぼすなんて、想像もつかないだろう。

 

 けれど、初めて恋をするならこの人がいい。

 マリアベルは己を愛おしそうに見つめる男を見ながら、そう思った。



 ◇◇◇



「今日はいよいよ即位式、そしてわたくし達の結婚式ですわね……!」

「マリアベル。あんまり身を乗り出すと危ないよ」


 卒業パーティーから、およそ1年が経った。


 王城のバルコニーからは、大勢の民が見える。

 皆が今日この日のために集まってくれたのだと思うと、マリアベルは胸に熱いものが込み上げるのを感じた。


 そこでふと、見覚えのある記者を見つけてマリアベルは「あっ」と声を上げた。横でデュークも迷惑そうに顔を顰めている。


「貴方、未だにあの人に追われているんですの?」

「まあね。結婚詐欺師がどうやって完璧令嬢を射止めたんだって、今王都はその話題でもちきりさ」

「ふうん……。ーーそういえば今朝、貴方の元恋人から手紙が届きましたわ。何でも、直ぐにわたくしに飽きるだろうから、今のうちに浮気相手を見つけた方が良いのですって」

「は!?……誰が言ったの?今直ぐ消してこよーー」


 マリアベルは、夫のネクタイを掴み強引に口を塞いだ。

 観衆から祝いの声が上がる。

 デュークは顔を朱に染め、どうしたのかと呟いた。


「ーー号外記事。折角ですし、書いてもらおうと思いまして」


 そんな冗談を言ってにっこり笑った後、マリアベルは初めてデュークに返事を告げた。



「……好きよ、デューク。愛してる!」



 ◇◇◇



 ーーカツン、カツンと。

 鉄格子の向こうから靴音が響く。


「貴様……!何をしに来た!」


「お久しぶりです、コンラード元殿下。先日私の結婚式がありましたので、ご報告に参りました」

「そんなもの要らん!早くここから出せ……!」

「聞いてください。妻が、ようやく私を好きになってくれたんです!!あー……幸せ過ぎて死にそう」

「ど、どうでもいい……!自慢しに来たのか!?意味が分からん!!」


「ーーああ、すみません。廃嫡されて直ぐに恋人に逃げられてしまった人には、酷な話でしたね」


 デュークは、小馬鹿にするような笑みを浮かべた。

 コンラードは顔を真っ赤にして怒鳴るが、デュークには響かない。


「ーー貴方の処遇が決まりました。おめでとうございます。辺境の地で肉体労働です」

「なっ……!」

「殺さないだけマシでしょう?これでも上に掛け合ってあげたんですから、感謝してください。一応、貴方がいてくれたおかげで、妻に変な虫がつかずに済んだので、そのお礼です」


 そう言って去っていく男に、コンラードは怒りの言葉を叫び続けた。



 ◇◇◇



「ーー遅くなってごめん」

「デューク!どこに行っていたんですの?」


 夜。

 部屋に帰ると、マリアベルが満面の笑みでデュークを出迎えた。

 デュークはみっともなくにやけそうになる顔に力を入れる。


「ちょっと野暮用でね。ーーあ、そろそろ隣国に行くんだっけ?」


 マリアベルの手元にある資料に目を向け呟くと、「そうなのよ」と声が返った。


「貴方も一緒に行ってくれます?」

「勿論」


 そう言ってマリアベルにくっつきながら、ふと、デュークは気になっていたことを尋ねてみた。


「ところで、俺のどこを好きになってくれたの?」


 次いで、何故自分を好きになったのか、と聞いてみる。


 マリアベルは、きょとんとした顔でデュークを見上げた。

 そして、楽しそうに笑って問いを返す。


「ふふ、何でだと思います?」

「……俺がしつこかったから?」


「違いますわ。ーーある日ふと、考えたんですの。もし貴方に浮気されたら、わたくしはどうするのかしら、と。それで、わたくしは多分、一発殴ってから引き止めると思いましたのよ」

「え」


 マリアベル曰く、これが恋だと言う。

 彼女らしい斜め上の回答だが、デュークは嬉しかった。

 

 (俺が浮気をしても、マリアベルは俺を諦めないのか)


 何とも熱烈な愛だ。

 デュークはマリアベルの髪にキスをしながら、彼女とこの国を守ることを誓い、目を閉じた。


短編チャレンジしてみました!!


今後の励みになりますので、面白いと思って頂けましたら、評価やブックマークで応援してくださると嬉しいです!


感想もぜひ……!!創作活動の参考にさせて頂きます!


普段は長編小説の方を書いておりますので、ぜひそちらもお読み頂けますと幸いです!


お読み頂きありがとうございました!

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[良い点] ハピエンで良かったです。 [一言] 面白かったです。
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