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30 それから

 あの夜会からひと月近くが過ぎた。


 王妃が持っていた毒は、ギレット公爵が取り寄せたもので、王子二人に耐性が無く、国内には解毒薬がないものだからと使われたらしい。

 

 王族の殺害未遂は重く、公爵は死罪が決まり、王妃は廃妃とされて毒盃を与えられる事になった。


 前回フレデリックが服毒した時に捕まった実行犯のメイドは死罪となっていたので、今回クリフォードのグラスに毒を入れた子爵令嬢の侍女も死罪に決まった。


 娘のした事に責任を感じた子爵は自主的に爵位を返上して、家族と共に平民となった。


 グラスを直接渡した給仕の者は、毒の事は知らず、クリフォードにワインの銘柄を指定されたと侍女に言われて渡しただけだったので、王宮から解雇されるだけで済んだ。


 王妃は王族の暗殺未遂の他に、不貞の罪とランドルフの王族詐称の罪も追加された。


 王妃は結局、ランドルフの父親の名前までは話すことは無かった。


 20年近くも昔の事なので、当時の事を覚えている者も少なく、ランドルフは王妃にそっくりだったので、ランドルフの実の父親が貴族なのかも分からないままになってしまった。


 ランドルフは自分の出生を知らなかったが、兄二人を排そうとした動きもあったので、王家転覆の罪を問われそうになったのだが、証拠不十分のため、王妃に連座する形で、廃嫡された後に王都を永久追放となり、地方の神殿預かりの神官見習いとなる事が決まった。


 平民として市井に落とす案もあったのだが、本人は何もしていないのに、元王子だった者を平民に落とすのでは、王家の品位が問われるとの判断から、神殿で監視をする事になった。


 公爵令嬢だったマレーネは、第二王子殺害未遂は誤認だったと発表され、第二王子誘拐の罪で、王都を永久追放に加え、辺境の地の修道院へ行く事に決まった。


 ギレット公爵家、王妃の実家であるベルマン侯爵家は男爵家、准男爵家へとそれぞれ降格となった。




「たくさんの人が罰せられましたね」


「それだけ敵が多かったからな」


 王宮にある騎士団の鍛錬場の隅で、クリフォードとイーサンはひとときの休憩を取っていた。


「前王妃様の暗殺については結局ダメでしたね」


「公爵と王妃から証言は取れたが、物証がまるで無いからな。そちらは諦めていたし、証言が取れて真実が分かったからそれでいい」


 前王妃の事故は馬車が移動中に進路を変えて、谷底に落ちるという痛ましい事故だった。


 ランドルフを出産後、当時は側妃だった王妃は心当たりがあったのか、ランドルフに『王族の証明』の秘薬を飲ませなかった。


 王の子に『王族の証明』を使う時は高位貴族3名と国王か神官長の立会いが必要なのだが、ランドルフの時は国王が当日になって急に体調を崩し、当時の神官長とギレット公爵、ベルマン侯爵、ギレット公爵の傘下にある伯爵家当主の4人が立ち会った。


 王妃はランドルフは第三王子なので、臣下へ降らせる。国王にはならない立場だからと泣き落とした上で金を積んで神官長を黙らせ、実家のベルマン侯爵はギレット公爵の派閥に入り、秘密を共有する代償にギレット公爵の後ろ立てを得たのだった。


 しかし前王妃のところに、当時立ち会った伯爵家の当主が、ランドルフの出生の件を相談した事で、前王妃の知るところとなり、前王妃にその事を問い詰められた王妃は、ギレット公爵に極秘に相談した。


 当時ギレット公爵は、王太子とマレーネとの婚約を前王妃に阻まれたばかりで、前王妃の存在を邪魔に感じていた。


 側妃だった王妃から、前王妃の公務の日程と警護の詳細な情報を得た公爵は、手の者を使い、前王妃を事故に見せ掛けて暗殺する計画を立てて実行したのだった。


「クリフォード様の目的が果たせましたね」


「ああ、母上の死の真相を知る事と、犯人を罰するところまでが俺の方の目的だったからな」


「王太子殿下は違うのですか?」


「犯人を断罪するまでは同じだが、兄上は更にギレット公爵派だった貴族達を徹底的に排し、早期に国王として即位するところまでを考えている」


「敵に容赦がないのは、あの方らしいですね」


「兄も煮え湯を飲まされてきたからな」


「今回の事は、王太子殿下はもっと刑を重くするおつもりだったのをクリフ様が止められたって聞きました」


 鍛錬場の隅にちょうど良い木陰を見つけ、草が生えているスペースに座っていた2人だったが、イーサンが猫のように寝転んで伸びをした。


「公爵と王妃以外には減刑を提案したんだ。これから王位を継承するのに、死罪を増やしたら血塗れの玉座と言われるぞと言ったら、死罪を最低限にしてくれた」


「やっぱりあの方を止める人は必要ですね。それにしてもどうして俺たちが騎士団の鍛錬に駆り出されてるんでしょうかね?」


 クリフォードとイーサンは王太子の命令で、騎士団の鍛錬に早朝から参加をさせられて、この場にいるのだった。


「兄上は剣術が苦手だからな。俺が騎士団の中である程度の実力を示し、その俺が兄上に付き従えば、自然と騎士団は兄上の下に従っているような形になるだろうから、それを狙っているらしい」


「うわっ、それってまた面倒な事を押し付けられてるじゃないですか。それにさっき騎士団長と稽古をした時に、手を抜いていたでしょう?手を抜いて互角って、ここの騎士団大丈夫ですか?」


「手を抜いてはいない。騎士団長が強いから、うっかり暗器を出しそうになって抑えただけだ」


 そう言うとクリフォードは、袖に仕込んであった手の平ほどの長さのある針を袖口から出した。


「俺も剣を振るうより、ナイフとか針とかを投げる方が得意なんですけど」


「社会的に死ねば影にしてやるから、いつでも使い放題だぞ」


「うわぁ、やめて下さいよ。俺、まだ表の世界で生きていきたいです。……あ、向こうを歩いているのは、フィリア様とアンナじゃないですか?アンナが手に持っているバスケットの中身がもしかしたら、俺たちの昼飯ですかね?ちょっと行ってきますっ」


 そう言うとイーサンは立ち上がって駆け出した。


 騎士団の鍛錬にクリフォードが午前中だけ参加するとアンナから聞いたフィリアが、昼食を差し入れに持って行くと言うので、イーサンと2人でフィリア達を待っていたのだった。


 騎士団の鍛錬は王宮内の鍛錬場で早朝から始まり、午前中は体力作りや個人での剣の稽古をして、午後は場所を変えて隊列や陣形を作ったりするグループでの鍛錬をするらしい。


 クリフォードには王妃がいなくなった穴埋めの為に、フレデリックから正式に執務を渡されるようになったので、体を動かした後は書類仕事が待っている。


 こんな事になり、国王は早く譲位をしたがっていたが、執務を手伝わせる為に、自分が結婚するまでは国王を辞めさせないと、フレデリックは言っていた。


 更にクリフォードも隣国の王女が執務に慣れるまでは、王族からは絶対に外さないと言われている。


「先の事までは、考えてなかったなぁ」


 クリフォードは公爵と王妃を排した後は、兄に政治を任せて自分は遠くから傍観するつもりだった。


 顔も知られていない、病弱で気弱な王子は田舎に引き籠もり、オスクリタでの仕事に専念するつもりだったので、表の自分の将来的な事までは考えてはいなかったのだ。


 しかし、先日の夜会で顔を晒し健康な姿を貴族たちに見せて表舞台へ立たされてしまった。


 断罪後の事までしっかり考えて、あの夜会での計画を立てたフレデリックは一枚上手だった。


 仕方ないと思いつつ、クリフォードも立ち上がってイーサンの後に続いた。クリフォードを見つけたフィリアが嬉しそうに手を振っていた。

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