第一話 シンクロ
この季節はもう夕方だというのに日差しが結構きつい。僕はちょっと涼んで行こうという気持ちでコンビニのドアをくぐった。軽やかな電子音と冷やされた空気に迎えられてほっと一息つく。
なんとなくアイスのコーナーを物色し、アーモンド入りのチョコバーを下から引っ張り出そうとして、手書きのポップが目に留まった。
──フードロスにご協力を
誰かに見られているわけでもないけれど、きまりが悪くて一番上のアイスを手に取ってしまう。レジで会計を済ませて、早々と袋を開けながら外へ。駐車場の脇に設置されているベンチに向かうと、そこには先客がいた。
「あ──」
座っていたのは同じ中学の制服を来た女子生徒で、カップのバニラアイスを小さな木の匙で食べているところだった。
僕は彼女を知っていた。話したことはないのだけれど。
「田熊?」
彼女の方も、僕の方を見て少し驚いたように目を丸くしている。彼女もやはり僕を知っているようだった。
「南くん、だよね」
僕はゆっくりうなずいた。
このままここでアイスを食べようか考えていると、田熊が席を空けるように少し脇に寄った。座っていいということだろう。念のため「隣、いいかな?」と聞くと「どうぞ」と返ってくる。よく通る綺麗な声だと思った。
お互いを探るような、ぎこちないやり取り。少し間が持たなくなって、僕はさっき購入したアイスバーを一口齧った。ザクザクした香ばしいアーモンドの食感と少しほろ苦いチョコアイスの味が広がる。
「ええと、話すのははじめてだよね」
「うん」
僕はどこから、何から話そうかと思ったけど、やっぱりここから始めるべきだと思った。
「南 拓真です」
「田熊 美波です」
冗談のようだけれど、僕たちの名前はこれでもかっていうくらいにシンクロしていた。